クローゼットの魔法使い

2011年06月12日 01:03

「失言」からの流れで自分設定追加なお話です。
だらだら続けちゃってすいません(汗 
原作の影響がかなり出ていますが(←影響されやすいw)ネタバレではないと思います。
よろしかったらどぞですー。






強い口調で自分を非難するキョーコから蓮はふっと視線を逸らし、長くて深い溜息をついた。

「夜中に急に目が覚めたりするんだよ……」
「えっ?」

その口から静かに出た台詞に、キョーコは思わず言葉を止める。
頬杖をつき、物憂げな表情であらぬ方向を見つめている蓮の様子を窺いながら、キョーコは恐る恐る口を開いた。

「あれはもう……気にしない事にしたじゃありませんか」
「うん……」
「す、すごく……よくわかりましたって……言、言ったのに……」
「うん……」
「で、ですから」
「だからってもう俺が何もしなくていいって事はないだろう?」
「えー……でも」
「何かしないと……どうしても気が晴れなくて……また夜中に目が」
「えぇっ」
「ちょっと最近は睡眠不足かな……」
「そんな……」
「これが駄目だとすると……どうしようかな……」

蓮はそう言って再び深い溜息をつく。
その様子にキョーコは困ったように眉を下げ、同じように深く溜息をついた。

「わかりました……」
「…………」
「も、もう……うるさく言いませんから……でも節度は守って頂かないと」
「わかってる」

キョーコの言葉を受けた蓮は、今までの様子とはがらりと変わった晴れ晴れしい笑顔を浮かべてそう言った。
そのあまりの豹変振りにキョーコは目を見開き、わなわなと手を震わせた。

「なっ……なっ……つっ、敦賀さん、もしかして今の」
「これで今日から安心して眠れるよ。あ、そろそろ出掛けないと……ごめんね、今日は俺、早いんだ」
「えっ、あ……」
「キョーコも、もう出る時間じゃないのかな。片付けは後で」
「大丈夫ですっ」

慌しく朝食の後片付けを始めるキョーコの後姿をこっそり眺めながら、蓮はどこか子供のような得意げな顔で部屋を出て行った。



(絶対……だまされたんだわ……もうっ)

今朝のやり取りを思い出しながら、帰宅したキョーコは、自由に使っていいといわれているゲストルームのクローゼットを開け、肩を落とす。
昨日にはなかったはずの服が、また数点増えていた。
ここで暮らし始めて最初の頃はがらんとしていたその中身は、日が経つにつれ、キョーコ自身が購入したり、蓮が買って来たものを渋々受け取るなどして、じわじわと数を増やしてはいた。
しかし、あの日を境にその数は急激に増加した。
帰宅し、クローゼットを開ける度にキョーコの知らない衣類が大量に増えていく。
そして、変装用に、という名目もいつの間にか廃れ、明らかにキョーコの趣味をつくようなものや、いつどこへ着ていくのかわからないようなドレスまでもが混じりだした。
慌てたキョーコはその事で蓮を追求し、止めようと思っていたのだったが、結局、いいように言いくるめられてしまった。

「まったく……忙しいのに、いつ買ってくるのかしら……」

クローゼットを眺めながらキョーコがぽつりとそう漏らした時、突然後ろから声がした。

「はいっ、それは私でーす!」
「きゃああああああ!」

悲鳴を上げながら振り向いたキョーコの視線の先には、見覚えのある小柄な女性が立っていた。

「ミ、ミ、ミ、ミ、ミス」
「ああん、私の事は『テンさん』か『テンちゃん』って呼んでね!」
「てっ、て、テンさん……が、な、な、な」
「ごめんねぇ、勝手に入り込んじゃって。できるだけ見つからないような時間に来てたんだけど今日はちょっと立て込んでて」
「え、あ、いえ、あの」
「はい、今日はこれで最後~!」

状況がよく掴めず混乱するキョーコの前でテンは手に持っていた数点の服をてきぱきとクローゼットの中に運び込む。
それに気づいたキョーコは正気に返り、彼女に声を掛けた。

「も、もしかしていままで服はテンさんが」
「そうよ~、キョーコちゃんに似合いそうなものがあったら何でも持ってきてっ言われてるから」
「何でも!? あの、それって」
「勿論、蓮ちゃんに頼まれてるの」
「れ、蓮ちゃん!? ……あ、ああ、いや、あのっ」

服が増える魔法の謎が解けたキョーコは、その"魔法使い"に助けを求めようと思った。

「あのぅ、テンさん……」
「あらっ、大丈夫よ? ここの鍵はね、その都度、蓮ちゃんに借りて来て、すぐに返すようにしてるから! 二人の邪魔はしないわよぉ」
「えっ、そ、そんな、邪魔だなんて……」

なにもかも知っている様子のテンに、キョーコは思わず赤面してしまったが、すぐに話を戻す。

「そ、そうじゃなくてですね……この、服がこれ以上増えるのは……なんとかならないのでしょうか」
「あら、気に入らなかった?」

テンはそう言いながら、一着の服を持ってひらりと広げ、その身に当てながらキョーコの方にくるりと向いた。
白地に赤い小花柄、ふわりとした生地のティアードのワンピース。
ついそれを凝視してしまったキョーコだったが、頭を振り、慌てて会話を再開した。

「いえ、とんでもないです……ただもう数が多すぎと言いますか、その」
「うーん、でもねぇ……これ、もう私の仕事なのよね」
「えっ」
「蓮ちゃんから正式に仕事として頼まれてるのよ。止めるのなら蓮ちゃんからでないと」
「な……」
「いいじゃないの、蓮ちゃんが買いたいって言って買ってるんだから。キョーコちゃんは気にしないでどーんと構えていればいいのよ~」
「どーん……」

どーんと構える自分がどうしても想像できないキョーコは思わず絶句する。
そんなキョーコの様子に構わず、テンことジェリー・ウッズは様々なコーディネートをご機嫌で提案し、その後、慌しく帰って行った。


***


光沢のある、淡いピンク色のシルクのスリップは襟元が白いレースで飾られている。
それとお揃いのローブもその上から羽織っていたキョーコはどこか落ち着かない様子でソファに座っていた。
バスルームから出てきた蓮は、リビングに入るなり目に入ってきたキョーコのその格好に顔を緩め、ゆっくりと近づいていった。

「可愛いね、それ」

蓮に声を掛けられ、振り向いたキョーコは着ているものとは程遠い仏頂面をしていた。

「あれ、気に入ってない?」
「違いますっ、着慣れないだけで……もう、パジャマだけで何着あると思っているんですかっ」
「さぁ……何着かな」
「向こう一ヶ月は同じものが着られませんっ」
「へぇ」
「着ないで放置するのは服がかわいそうだってテンさんがおっしゃるからパジャマだけでもって……んもう、毎日大変じゃないですか!」
「頑張って」

まさに他人事といった様子で、そう言い、くすくす笑いながら隣に座った蓮に、キョーコはぶつぶつと文句を言い続けた。

「まったくもう、テンさんに頼んでしまうなんてっ……大ごとにしすぎです!」
「本当は俺が自分で買いに行きたいんだけど」
「あんまり変わりませんっ。もうですね、充分なんですからこれ以上」
「うるさく……言わない約束だったよね?」
「……っ」

蓮の言葉に、キョーコはぐっと言葉を詰まらせる。
自分を見つめながら不敵に笑っている蓮に、キョーコは念を押すように今朝言った言葉を繰り返した。

「節度は守って頂けるんですよね?」
「もちろん」
「クローゼットをぎゅうぎゅう詰めにしたりとか」
「溢れさせたりはしないよ」
「…………」

キョーコの頭の中に、現在のクローゼットの状況が浮かぶ。
蓮がメインで使っているものと違い、ゲストルームにあるものは少し狭い。
服以外にも靴かバッグが入っていると思われる箱も詰め込まれていて既に半分以上は埋まっているような状況だった。

「本当ですね? ……無茶しないで下さいね?」
「わかっているよ」
「もう今の時点で多すぎるんですからね」
「色んなものがあれば役作りにだって使えるだろう? わざわざ事務所に借りに行かなくても済む」
「そんな……さすがにそこまでは……事務所の衣装と張り合わなくても」
「んー……まぁね」

そう言いながら蓮はキョーコの肩を抱き寄せる。
そうして、今日会った、社長を始めとする事務所の面々の呆れたような顔を思い出していた。
先日、蓮はこのマンションの低層階にある部屋が一室、賃貸に出ている情報を掴んでいた。
事務所を通し、とりあえずそこを押さえる手続きを頼んだ蓮は、その用途を自分用の倉庫代わりと称していた。
しかし、ジェリー・ウッズの事もあり勘のいい社長にはうっすらと本当の用途がバレ、それは他の人間にも伝わったようだった。
いつかはキョーコにもその事は知られるだろう。
どうせバレるのなら思い切ってやればいい。
そうすれば容量を気にしなくてもいい。

(住むわけじゃないんだから……全体を衣裳部屋にしてもいいかな)

そんな事を密かに企む蓮の横で、キョーコは箱に仕舞いこんであるものは出し、服も少し置き方を工夫すればクローゼットはすぐにでも満杯にしてしまえるのではないかなどと真剣に考えていた。

「ん、どうしたの? 難しい顔をして」
「えっ、そうですか? 別になんでもないですよ?」
「そう?」

考えている事を悟られないようにキョーコは思い切りにっこりと蓮に微笑みかけた。
それに合わせるかのように、蓮もキョーコに微笑みかけると、キョーコの胸元を頼りなく止めているローブのリボンをそっと解いた。


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  2. Kanamomo | URL | -

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