彼に願いを

2011年06月01日 10:15

失言のその後をちょっと書いてみました。

「気になりますけどっ……気にしませんっていうか……大丈夫ですから……」

自分の迂闊な発言に落ち込み、なかなか立ち直れない俺
そんな俺を見かねた彼女の方が、頻繁に俺に気を使う
本当なら逆じゃなければいけないはずで
そんな自分の状態が更に俺を沈ませていく

これ以上この状態が続くのは彼女に心配をかけるだけ
沈んでいる暇があるのなら他にやるべき事があるはずで
傷つけた分もっと彼女に何か──

「…………」

胸の奥にずしりと重い何かがあり
なかなか気持ちが切り替わらない
それは彼女を気遣って、というよりも
もっと自分勝手な苦い感情

俺の過去の事で
彼女が嫉妬してくれる姿を
見てみたいなどと思った事もあったが
こんな形で実現させてしまったせいで
嬉しいなどという気持ちがわいてくるはずもなく
そんな気持ちと同時にあった
消せない不安の方だけが大きく俺の中で膨らんだ

「なんでも言って貰える方がいいんじゃないかなって……思いますし」
「いや……それは……」

彼女は自ら、過去の俺の"彼女達"と同じラインに立ち
俺の恋人、という立場で、努力を始める
それは、それだけ俺を想ってくれているという事なのに
そんな彼女の様子は
まるで俺の元から離れていくための
準備でもしているかのように──

「私は、私なりにしか……できませんけど」
「…………」

頑張る必要などないと言っても彼女はなかなか耳を貸してはくれない

執拗に身体を繋げ
煩い位に愛を囁き
生活さえも共にして
掴めるものは全て手に入れた

でもそれは
強そうに見えてとても脆い城壁
彼女の気持ちひとつで
あっけなく崩れ去って行く


君が彼女達と同じように

俺の元から去っていく日が来たりしたら

俺は一体どうなるのだろう


「敦賀さん……どうか……しました?」
「えっ? あ、いや……」

暗く考え込む俺に彼女の不安げな瞳が向けられる
こんな不安の連鎖は早く断ち切らなければいけないのに
焦燥感が募るだけで
一向に打開策が見つけられない

彼女を信じていないわけじゃない
でも俺にとっての彼女はあまりにも特別で
"恋人"なんて言葉さえ煩わしいのだと
上手く言えない自分がもどかしいだけ

「本当に……キョーコは……特別なんだよ……」

懸命に搾り出した俺の言葉に、彼女は嬉しそうに、でもどこか曖昧に微笑むだけだった


君に代わるものなんてどこにも存在しないから
今、知っている言葉達では俺にとっての君を表現する事が叶わない

一体どうすれば、この気持ちが伝わるのだろう
君の事となると俺はどこまでも不器用になる
俺の中には、何一つわかっちゃいなかった過去の自分がいるだけで
こんな時にはどうしたらいいかなんて
知すはずもなければ教えてくれることもない


──…話してごらんよ その悩み

「あ……」

頼りになる相談相手
頭の中にその顔が急に思い浮かんだ
何も知らなかった俺を
とてもよく知っているはずの──


「キョーコ……」
「はい?」
「……鶏の……彼はどうしてるかな」
「えっ! なんですか、急に……」
「相談したい事があるんだ」
「な、なにをですか……?」
「キョーコじゃなくて鶏の彼に」
「またそんな事言って……意地悪なんですから、もう」
「彼の予定とか……知ってる?」
「か、彼はっ……明日の午後から収録があるっ、みたいでっす!」

頬を膨らませて怒りながら俺の戯言に付き合う彼女に微笑んで
明日の予定を頭の中で組み直す
しかめっ面のマネージャーを説き伏せる術を考えながら
気持ちはもう、彼に会えるだろう場所へと飛んで行った


恋がどんなものであるか俺に教えてくれた彼に
もう一度教えを乞い願おう
この想いを彼女に伝えるための
俺には思いつかないようないい方法を

そして俺から彼に知らせたい
あの時気づいた俺の恋が
今どんなものになっているのかを──


「敦賀さん? ……元気出ましたか?」
「ん?」
「さっきから……急に、にこにこしてますよ?」
「え、そうだった? ……そっか」
「元気ならいいんです……」
「うん、少し出たかな……キョーコはすごいね」
「へっ? 私? 私は何も」
「いや、すごいよ……うん」
「は、はぁ……」

訝しげな顔の彼女の額にキスをひとつ
こうしてもっと彼女と話をしていたいけれど
このままじゃいつまでも明日が遠いままだ

「もう寝ようか」
「はい」

彼女への謝罪がそれで終わるわけじゃないけれど
碌な謝罪もできない位沈んでいた俺を
引き上げてくれたのはやはり彼女で
仕事以外の俺の世界を全て占めているその存在を
なくさないように大事に抱えながら
一日の終わりを迎える

彼への願いを この胸に抱きながら



***



「リーダー? 何してんの、そんなとこで」

雄生は通路の角にひっそりと佇む光の後姿を見つけ、声を掛けた。

「京子ちゃんは? おらへんの?」
「あ、いや……」

雄生の問いに、光は振り向いて曖昧な笑顔を見せる。
雄生は光が見ていた方向にひょいと顔を向けた。
少し離れた、通路にある休憩場所に「坊」と、もう一人の男の姿があった。

「ん……あれは……」
「敦賀さんやないか」

いつの間にか来ていた慎一が二人と同じ方向を見て言った。

「なんで敦賀さんが『坊』と一緒におるん?」
「わからん……何の用なんやろ……」
「敦賀さん、前に一回うちの収録見学に来とらんかったか?」
「あー…あったかなぁ……」
「…………」

ブリッジの三人はしばらく無言で、蓮と「坊」の様子を眺めていたが、突然慎一がぽつりと言った。

「京子ちゃん、敦賀さんと……仲ええんか」

雄生は突然、慎一の首に腕をまわして抱え、光から離れるように強引に後方へと引きずって行く。

「ちょ! 死ぬっ、死ぬぅ!」
「お前なぁ、余計な事言うな!」
「な、なにが」
「敦賀さんは……敦賀さんだけはアカンのや!」
「な、なんでそんなに敦賀さんが」
「リーダーのコンプレックスを刺激しすぎる!」
「…………」
「…………」
「めっちゃ、背、高いしな……」
「うん……」
「リーダーと敦賀さん、同い年やって知ってたか?」
「知ってた……」

少し離れた場所で、こそこそとそんなやりとりをしていた二人は、仲睦まじげな蓮と「坊」を見る光の寂しげな後姿に再びそっと近づいて行く。
その間に、蓮と話す「坊」の妙な様子が目に入ってきた。

「なんで……『坊』は踊っとるんや」
「踊っとるか? 俺にはビビっとるように見える」
「いや……あれは慌ててるんじゃ」
「いやぁ……あれは……創作ダンス?」
「なんかの……パフォーマンスじゃないの……『坊』の」
「なんで」
「さぁ」

ぽかんとした顔で挙動不審な「坊」を見ていた三人は、その「坊」が今度はぱたりと通路の床の上に横倒しで倒れるのを目撃した。

「なっ!」
「きょ、京子ちゃん!」

慌てた三人が倒れた「坊」に駆け寄ろうとした時、それに気づいた蓮と目が合った。
蓮は落ち着いたまま穏やかににこりと笑うと、軽く頭を下げた。
三人は思わず足を止め、釣られたかのようにそれぞれ頭を下げる。
そのままその場で固まってしまったメンバー達の前で、蓮は倒れている「坊」にそっと手を伸ばし、ひょいと抱えて元通りに立たせた。

「…………」

愛しげな笑顔を向けながら、蓮は「坊」の毛羽立った手を取り、静かに歩き出す。
何事もなかったかの様に大人しく、「坊」もその後に続いた。

鶏の「坊」を連れ立った敦賀蓮は、そのまま、ブリッジ・ロックのメンバーの前から通路の向こう側へとゆっくり消えて行った。


奇妙な足音だけが僅かにこだまするその場所で、三人はしばらく呆然と立ち尽くす。
辺りが静寂に包まれた頃、それを破ったのは慌てた様子の眼鏡の男の足音だった。

「あっ! 君達! ちょっといいかな」
「あ……敦賀さんのマネージャーの」
「社さん、お疲れ様です」
「お疲れ様! 急にごめんよ、蓮を……蓮を見なかったかい?」
「敦賀さんなら……」
「あの、たった今、向こうへ……『坊』と一緒に行っちゃいましたが……」
「えっ! そ、そう……『坊』と一緒かぁ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「君達、収録はもう終わったのかい?」
「はい、もう終わってます」
「そう……終わってるんだ……それはマズイ」
「へっ?」
「あぁ、いや、こっちの事。ありがとう!」

社はそう言うと来た時と同じように慌しく、蓮と「坊」が立ち去っていった方向へと走っていった。
その姿を見送りながら雄生は慎一に向かってぼそりと呟いた。

「マズイって……なんや」
「さぁ……もう何がなんだかわからへん……」
「せやな……でも」

敦賀蓮と京子には何かある。
それだけはうっすらと感じ取ってしまった雄生と慎一は、背中を丸め、いつもよりも一層小さく見える光の背中を切なげに見つめていた。







関西弁に自信がありませんorz
違和感あったらすいません。


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