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失言─2

2011年05月24日 10:01

失言─2
突然の乱入者に驚いたキョーコの悲鳴が、バスルームに響き渡った。

「つ、つ、つ……敦賀さん! な、な、なぜ」

服を着たままの蓮が、バスルームに無造作に入って来ている。
驚いているキョーコの目の前で蓮の衣服が、浴びていたシャワーの湯で濡れていく。
慌てたキョーコは自分が全裸であることの羞恥も忘れ、蓮をバスルームから追い出そうとしたが、蓮はそのまま動かない。
濡れるのに構わず、蓮はキョーコを壁際に追い詰めるように近づき、今のこの場には似合わないような神々しい笑顔でにっこりと笑った。

「ここなら逃げられないなって思ってね」

戸惑うキョーコにゆっくり顔を近づけ、耳のすぐ傍で思い切り甘く、そして低い声で囁いた。
濡れていく髪から雫が滴り落ち、整った笑顔の上を次々と滑り落ちていく。
呆気に取られながらも、ついそんな蓮に見入ってしまったキョーコだったが、自分の置かれている状況に気づき、我に返った。

「に、逃げられないって一体」
「ここのところ、ずっと俺から逃げてるだろう?」
「逃、逃げてなんて」
「嘘は良くないな」
「えっ、あ、私っ」
「こんな風に触れるのは……久しぶりだよ……」
「あっ……やっ……」

首元に噛み付くようなキスをして、そのまま唇を首筋に這わせていく。
熱い唇と舌が動く度にキョーコはびくびくと身体を揺らし、頬に少し赤味が差した。

「つ、敦賀さんっ……あのっ……こんな」

キョーコの声はシャワーの水音のせいでよく聞こえない。

「隠し事はしないって……まだ有効かな」

キョーコの首筋に唇で触れたまま、蓮はそう言うとシャワーを止めた。

「あ、あの」
「でも俺は結構隠し事も好きだよ……ただし、気になって眠れないような、心臓に悪いもの以外だけどね」

そう言ってキョーコに向けた蓮の笑顔は、たった今見せていた夜の帝王の如く妖しいものからは少し外れた、切なげな笑顔になった。

「…………」

キョーコは困ったように目を伏せ、横を向いた。
少しの沈黙の後、キョーコは自分を見つめる蓮に視線を戻して口を開きかけたが、びくんと身体を震わせ、発しかけたものとは違う声をあげた。
脚の間に蓮の手が滑り込み、ゆっくり上へと這い上がっていく。
そのまま一番上へと到達すると、奥まった場所で何かを確かめるように長い指先がゆるゆると蠢いた。

「んんっ……」

シャワーで濡れたものではない湿りと温度をその指先で感じ、蓮の気が緩む。
少し早くなった心臓の鼓動に合わせるかのように、その場所を小刻みに指先で掻き回した。
バスルームにキョーコの甘い声と、さっきまでとは違う水音が反響した。
身をくねらせて嬌声をあげるキョーコを、蓮は空いていた腕でそっと支えると、僅かに息を上げながら余裕のない声で囁いた。

「ごめん……我慢できない」
「えっ」

その声と同時にベルトを外す金属音が響く。
じれったそうに慌しく濡れた服と格闘した後、蓮はキョーコを壁に押し付けるようにして、その片脚を軽く抱えあげた。

「あっ」

予告の言葉もなく、強く腰を押し付けて蓮はキョーコの中に入る。
急な侵入に、驚いたキョーコの身体が軽く震えた。
しかし、入ってすぐに激しく動き出す蓮を、キョーコの身体は何の抵抗もなくするりと受け入れた。
そんな状態だった自分が少し恥ずかしかったキョーコだったが、そんな感情はすぐに吹き飛ぶ。
自分が立てる淫らな音と余裕の無い蓮の荒い吐息。
擦れ合う部分がどうしようもなく熱くなり、せり上がって来た快感があっという間にキョーコの全身に広がった。

「敦賀……さ…ん」
「ん………もう?」
「やっ……やだっ……あっ」

キョーコは小さくか細い声を上げると同時に、水滴を纏ったその白い肌をふわりと紅く染めた。
震える手で、まだ動き続けている蓮の身体に必死でしがみ付き、何度もその名前を呼んでいる。
ぎゅっと抱きしめるキョーコの手。
きつく締め付けている場所の溶けそうな程の熱。
いつもと変わらずに自分を受け入れている悩ましいキョーコの姿が蓮の目に映る。
それらに合わせるかのように蓮の身体の温度も上がっていったが──逆に頭の中は急激に冷えて行った。

(何……やってるんだ、俺は……話をするんじゃなかったか?)

キョーコが少しでも嫌だと思う事はしたくない。
どんな小さな事でもちゃんと俺に話して欲しい。
そう思いながら帰って来たのに──

なけなしの理性を総動員し、蓮はキョーコの中から抜け出した。
そこでようやく何の準備もないままにキョーコを抱いていた自分に改めて気づき、蓮は再び自己嫌悪に陥る。
キョーコは力が抜けたようにバスルームの床に座り込み、放心したかのようにぼんやりしていたが、蓮はそんなキョーコにそっと手を差し出し、すまなそうな顔を向けた。

「ごめん……出ようか……」

蓮のその言葉にも、差し出した手にもキョーコは反応しない。
その様子に、蓮は心臓が凍りつきそうになりながら、タオルを取りにバスルームを出ようとした。
だが、もう一度シャワーを浴びた方がいいかもしれないと思い足を止め、キョーコの様子を確認するために振り向いた。
そこで見たのは、座り込んだまま蓮を見上げ、目に涙を溜め、今にも泣き出しそうなキョーコの顔だった。

「……っ」

蓮の体からさっと血の気が引いていく。
慌ててキョーコの元に駆け寄り、床に膝を突いてキョーコの顔を覗き込んだ。

「ごめんっ……ごめん、キョーコ……どこか痛くしたりした?」

血相を変えて自分に話しかける蓮を見ながら、キョーコは口元をきゅっと締め、零れ落ちてしまった涙をその手で拭う。
そんなキョーコが震える声で搾り出した言葉は蓮の予想とはまるで違っていた。

「つ、敦賀さんが……」
「う、うん……」
「まだです」
「へっ?」
「まだ……最後まで、いってませんよね……?」
「ええっ? や、いや、今のは」

泣きながらも、頬を真っ赤にして発せられたキョーコの、思っても見なかった様な言葉に蓮は一瞬頭の中が真っ白になり、激しく狼狽した。

「そ、そんな事はいいから……ほら、立てる? あぁ、ちょっと冷えてしまったかな……」

混乱しながらも、キョーコの事を優先し、蓮はキョーコの手を掴んでそっとその身を立たせる。
キョーコは蓮の手を握ったまま、しばらく下を向いてじっとしていたが、ゆっくりと顔を上げ、蓮を見つめながら口を開いた。

「敦賀さん……」
「なに……かな……」
「隠し事はしないって有効なんですよね?」
「えっ……あ、ああ、うん」
「じゃあ、お聞きしますっ……けど、ちゃんと答えて頂けますか?」
「え……」

妙に真剣なキョーコの瞳。
キョーコが何を言おうとしているのか、わからない蓮は口から心臓が飛び出しそうな位の緊張でその言葉を待った。

「私、今まで……こ、こういう事であまり努力してきませんでした」
「へっ」
「そ、それで……あの……もしかしてつまらない……な、とか思ったりしますか?」
「は?」
「今だって……私だけっ……」
「なっ……いや、これは」
「飽きちゃったな……とか感じているのなら」
「…………」

小さな声でぼそぼそと語られたキョーコの言葉。
簡単には聞き逃せない言葉だと蓮は思った。

「なぜ……そんな事を思うの?」
「え……あ、だって……」
「だって?」
「えっと……あの……その、最近はあんまり……」
「……キョーコの方から避けてた」
「いえっ……その前からですっ……」
「…………」

蓮はキョーコの手を引いてバスルームを飛び出すと、近くにあったバスタオルを手に取る。
呆気に取られているキョーコをそれでくるりと包み込んで抱き上げ、珍しく大きな足音を立てながら寝室へと早足で歩き出した。

「つ、敦賀さんっ?」

驚いて慌てるキョーコをそのまま勢いよくベッドに連れ込み、すぐさま上から覆いかぶさった後、蓮はぴたりと動きを止める。
そんな蓮を目を丸くして見ていたキョーコを押えつけたまま、蓮の唇はゆっくりと動いた。

「それは……誘ってるって事かな……」
「えっ!」
「自制してたのが裏目にでたのか……」
「じ、じせい?」
「慣れない事はするものじゃないな……」
「えっ? あ、あのっ」
「もう……遠慮はしないよ?」
「……っ」

キョーコの身体に巻き付いていたバスタオルは乱暴に剥ぎ取られる。
狼狽えるキョーコの目の前には、唯でさえ強烈な"夜の帝王"が、いつもよりも一層妖しい雰囲気を漂わせながら不敵に笑っていた。


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