そばにいるだけで─Kyoko

2011年04月26日 11:39

そばにいるだけで─Ren」のおまけ的キョーコ視点です。





突然の風邪、急な発熱
油断していた自分を呪う

仕事がないのが不幸中の幸い
病院にも行ったし薬も飲んだ
最後の気力で寝込む準備をし
倒れこむベッドはゲストルームのものを選んだ

いつもとは違うベッドの中で気になる事は
忙しい彼にうつしてしまわないかという事ばかり

───鍛えてるから大丈夫

きっとそんな事を言って全然気にしないに違いない
朦朧とした頭の中で
自分に近づかないように彼を説得する方法ばかりを考える

名案が思い浮かばないまま、時間だけが過ぎる
すぐに直るかもしれないという淡い期待は
夜が更けるにつれ静かに消えていった

枕元に置いておいた携帯が鳴る
必死で声を張る私に電話の向こうから
仕事で帰れなくなったという彼の言葉
なんていいタイミングと思ってしまい
嬉々として答えてしまったのがちょっと気になったけれど
とにかく今は回復する事だけに専念した

このまま安静にしていれば
明日の朝には下がるかもしれない
それが無理でも、明日も仕事はない
夜まで休めばなんとかなるはず

もしかしたら
熱を出した事自体秘密にしておけるかもなんて
思いながらひたすら眠った

まさか、彼が早朝に一旦帰ってくるなんて思わずに───

「キョーコ!」
「ふえっ?」
「熱……熱があるのか?」
「あれっ……敦賀さん? え?」

油断だらけの部屋の中
下がりきらなかった熱

結局、熱を出していた事も、それを黙っていた事も知られてしまった



再び仕事へと出かける間際、私の様子を見に来た彼は
どこか硬い表情をしていた

「今日は予定は入ってないんだね」
「はい……」
「食事とかは……」
「平気です。自分でできます」
「そっか……」
「…………」
「…………」
「あの……」
「ん?」
「う、うつったら大変ですからここにはあまり」
「鍛えてるから大丈夫」
「つ……敦賀さん……」
「何か……して欲しい事ある?」
「いえ……大丈夫です」
「そう……」
「あのう……お時間……大丈夫ですか?」
「…………」
「本当に私は大丈夫ですから、気にせずお仕事行ってください」
「………………」
「敦賀さん?」
「わかった……何かあったら電話してくれていいから」
「えっ……えーっと……はい……」

何度も振り返りながら、彼はようやく部屋を出て行った
玄関の扉を閉める音を微かに聞きながら、私も大人しく目を閉じる

静まり返った部屋の中で
彼の顔を思い返す

驚いていた顔
心配そうな顔
ちょっと怒ってるみたいな顔
そして───どこか悲しそうな顔

こんな時くらい、甘えた方が良かったのだろうか
可愛げのない女と思われたかもしれない
でも、迷惑は掛けたくないし
なにより彼の仕事の邪魔はしたくない

ベッドに潜り、再び眠る
熱に浮かされる中で見る夢は
辻褄の合わないおかしな内容のものばかり
でもそれが悪夢だという事だけは分かり
目覚める度に心臓の鼓動が早くなる

何度もそんな事を繰り返して
気がつけば部屋の中が再び暗くなっていた
一体どれくらいの時間眠っていたのか
少し驚いてはっきりと目が覚めた

汗で肌に貼りつくシャツが気持ち悪く
着替えるためにゆっくりと身を起こすと
ベッドの足元の方に人の気配を感じた

「敦賀……さん?」

いつ帰ってきたのだろう
床の上に座りながらベッドに寄りかかっている彼の姿が目に入る
その瞳は閉じられていて私の呼びかけにも反応しない
きっと疲れているのだと思い、心配になる
そして、できればこの部屋には入って欲しくない

すぐに起こそうと思ったけれど
彼を目覚めさせるための言葉がなかなか口から出てこない

ベッドの上をごそごそと動いて彼に近づく

彼の寝息と体温を感じる位の距離まで近づいてから
ベッドの上に静かに横たわった

こうして近くにいてもらえるだけで
嫌なものが全て、自分の中から消えていく気がした

それでもずっとこのまま彼をここで眠らせるわけにはいかない
眠るのならちゃんと寝室で眠ってもらわなきゃ
なによりもうつったりしたら大変だ

そうは思うのに
時刻を確認してみたり
寒くないかなと毛布を寄せてみたり
部屋の中が散らかってないかどうか見回してみたり
往生際の悪い行為をこそこそと繰り返し
なかなか彼を起こす事ができなかった

『鍛えてるから大丈夫』

今朝聞いた彼の言葉を思い出す
大丈夫なわけない、と思うのに
彼の妙な自信にすがりたい自分がいた

「本当に……大丈夫……なんですよね?」

静かに眠る彼を見つめながら
起こさないようにそっと囁く

もう少しだけ
後ちょっとだけ

お願いだからそばにいて───



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