続・打ち明け話

2010年02月07日 00:43

続・打ち明け話

キョーコは夢を見ていた。

それは…いつも見る悪夢。
去っていく母の背中。

『おかあさん!』

どんなに呼びかけても振り向かない。
どんなに必死で走っても追いつかない。
そうして消えていく母を見て、キョーコはひとり泣く。

次に現れるのはアイツ。
バカにしたような顔でキョーコを笑い、背を向けて去っていく。
そんなアイツを、一瞬追いかけるが、最後、立ち止まりキョーコは怒る。
怒りながら、今に見てなさいよ、と叫び…目が覚める。

今までの夢はそこで終わりだった。
だが、最近そんな夢に続きができた。
アイツの次に現れたのは、愛しいあの人。
優しく微笑むあの人が、急に背を向けて去っていく。
それは遠い海の向こう。
待って、行かないで、と言いかけるが、結局キョーコは言うことができない。
言いたいのに、どうしても口にできない。
そうして去っていく後姿を見ながらただひたすら涙を流し、ひとり立ち尽くす。

「……コ、キョーコ?」

蓮が自分を呼ぶ声でキョーコは目を覚ました。

「泣いてる…それにすごいうなされてたよ。どうした…?」
「あ……」

そこでキョーコはようやく自分が今、蓮のマンションに来ていたことを思い出す。
明日は自分も蓮も予定は午後からで、少しゆっくりできるから、と泊まりにきて、夕飯を一緒に食べて…今は一緒にベッドで寝ている。

(ここにいるときは見ない夢なのに…)

時計を見ると、まだ夜明け前。

「…ごめんなさい、変な夢見ちゃって……起こしちゃいました?」

心配そうにキョーコを見る蓮に、キョーコは無理やり笑顔を作ってから謝った。

「たまに変な夢見るんですよ…疲れてるのかな」
「……どんな夢?」
「……さぁ…起きちゃうと忘れちゃうんですよね…」

キョーコはそういってなんでもない風に言い繕う。

……夢の内容は言いたくなかった。

そんなキョーコを蓮はじっと見つめる。
その瞳があまりに真剣で、キョーコは少し胸の鼓動が早まった。
こんな時の蓮は……ごまかしが効かない。

「あ、あの……敦賀さん」
「覚えてるんでしょ?」
「………」

嘘のつけないキョーコは動揺する自分を隠せない。

「えっ……と、あの…」
「…隠し事はして欲しくないな」
「な、なにも隠したりしてませんよ?」
「いましてる」
「…………」

一向に引く様子のない蓮にどうしたらいいかわからず、キョーコは焦った。
尚の名前は出したくなかったが、背に腹は変えられない…そう思ったキョーコは夢の前半だけをぽつりぽつりと語りだす。

「母のこともそうですが…またアイツの事思い出してる…なんて敦賀さんに知られたくなくて…」

これなら嘘は言っていない、これで納得してくれるかな、と思い、ちらっと蓮の顔を伺う。
しかし、蓮の表情は変わっていなかった。

「つ、敦賀…さん…?」
「じゃあなぜ泣く?」
「えっ?」
「それなら…キョーコなら最後は怒って叫んで飛び起きそうだ。でもさっきは違った。本当に哀しそうに…泣いてた。なぜ泣いてた?」
「………っ」
「教えて?なにを泣いたの?……すごい心配だよ…何か悩んでる?」

そう言ってキョーコを見る蓮の瞳はやはり真剣で…そして本当にキョーコを心配している。
そんな蓮を見て…キョーコは再び涙を流した。
普段は意地悪だったり、驚く程怖い顔で怒ったり、しょっちゅうキョーコをからかったりするのに……こんな時はとても優しい。

この人と離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
アメリカになんて帰らないで。
ここに、私と一緒にいて。

まだ具体的にそんな話があるわけでもないのに、今からそんな事を考えている自分が恥ずかしかった。
蓮を……縛ろうとしている自分が嫌だった。
行かないで、と自分が言えば、ずっと一緒にいてくれるかもしれない。
そんな事を思う自分が嫌だった。
縛り付けて……この人の夢を奪うなんて、そんな権利誰にもない。

何も言わないまま、ひたすら泣き続けるキョーコを蓮がそっと抱きしめる。

「教えてくれないの…?」
「…………」
「……このままだと…俺、死にそうなんだけど…」
「へっ」
「このままキョーコがなんで泣いてるのかわからないと…心配で…それから怖くて死にそうになる。今だって不破の名前聞いただけで少しドキッとしたからね」
「えっ…そ、そんなのは」
「まぁアイツのことは俺が勝手に気にしてるだけ。でも、それ以外だっていつも不安だよ……この間だって変な噂のせいでキョーコに心配かけたし、会いにきてもらうのにも手間をかけさせてるし、かといって俺からは簡単に会いにいけない…俺からキョーコにしてあげられることが少ない」
「そ、そんなことはありませんっ。十分してもらってますよ…?毎日電話くださるじゃないですか」
「そんなの大したことじゃない。むしろ俺がしたくてしてるだけ。電話くらい俺からしないと不安で怖いんだよ…」
「………」
「………もしキョーコがその気になれば俺なんか簡単に捨てることができるよ?……俺はきっとまともに追うこともできない」
「なっ!」

あまりの蓮の言葉に、キョーコはまた蓮が自分をからかおうとしているのではと思って、それを確認するように蓮の顔を見た。
しかし、蓮の顔は真剣そのものだった。

「敦賀さん……」
「捨てられたとしてもどこまでも追いかけて、ストーカー呼ばわりされてもキョーコに纏わりつきたいくらいだけど、そんなことしたら周りに騒がれてキョーコに迷惑がかかるだけだろう?……キョーコの気持ちが離れてしまったのならそんなことできない」
「わっ私の気持ちが離れるなんてありませんよ!」
「そんなのわからないじゃないか……情けないこと言ってるのはわかってるんだけど……怖いんだよ」

そういって蓮はキョーコの肩に顔を伏せた。
その姿は普段の蓮とは違う…置いて行かれるのを恐れる子供のような、そうまるで自分と同じ……?
キョーコはそう感じた。

「敦賀さん…」

キョーコは自分からぎゅっと蓮を抱きしめた。
そして夢の続きを話す。

「ごめんなさい…私…も…怖かったんです」
「キョーコ…?」
「夢で…敦賀さんが本当のお家に…アメリカに私を置いて帰っちゃうんです……」
「…………」
「行かないで、一緒にいてって言いたくて…でもどうしても言えなくて…」
「……なぜ?………むしろ言って欲しかったな…」
「敦賀さんを縛りたくないんです…」
「キョーコ……」
「それなのに、黙って泣いたりして……結局、言ってるのと一緒ですよね。もう、やな女ですね、私」

そういって自嘲気味に笑うキョーコを再び蓮が強く抱きしめた。

「ごめん…俺が言葉が足りなかったんだね」
「敦賀さん」
「アメリカにはいつか帰りたいと思うよ、両親に心配かけっぱなしだしね」
「………」
「本当の"自分"でちゃんと活動したいとも思うし」
「そう…ですよね…」
「向こうでも認められる役者になりたいけど、どういう形になるかはわからない。俺もまだまだだしね」
「…………」
「でも「敦賀蓮」にもそれなりに愛着はあるよ?キョーコが傍にいてくれるなら、ずっと日本にいるのもいいかな」
「つ、敦賀さんっ…それは…」
「でもそれはね、キョーコが俺を縛るんじゃなくて、俺がそれを選ぶってこと」
「……!」
「似てるけど、違うことだよ。もちろん、キョーコがそうさせてくれればだけどね」
「そ…そんなの…」
「キョーコが一緒なら、アメリカに帰るのもいいね……なんて、こんな言い方、まだ帰れるかどうかもわからないのに、今からこれじゃ俺がキョーコを縛るやな男だな」
「や、やな男って」
「とにかくアメリカだろうが日本だろうが、キョーコがいないとどうにもならない。これが俺の本音」
「敦賀さん…」
「俺がキョーコを置いて行くなんてこと考えないで?俺のほうがいつも置いてかれるんじゃないかって不安なんだから」
「私が敦賀さんを置いて行くなんて…有り得ないですっ」
「そうかなー…意外とあっさり…」
「そんなことないですっ!」
「でもなー…キョーコはこれからだし、どんどんTVにでて人気が出て…言い寄る男がでてきてコロッと」
「んなっ!!そんなことあるわけないじゃないですかっ!」
「それに不破だってまだちょっかいだしてきそうだし」
「なんでアイツがでてくるんです!アイツなんか私がぶっとばします!」
「アイツ以外はぶっとばせないだろ?」
「なっ、そっそっ……そんなこといいますけどね!敦賀さんの方がよっぽど心配ですよ!普通にモテるじゃないですか!」
「…………いや、俺はもうそのへんは慣れてるし」
「あっ何気に認めましたね!きっと私の知らないところで綺麗な女性にたくさん言い寄られてるに違いないんです!そのうち捨てられちゃうのは私の方っで……っ」
「わっ、わっ、キョーコ!」

再び泣き出したキョーコを蓮が宥め、落ち着いて二人が眠りにつく頃にはもう夜は明けていた。


キョーコはまた夢を見ていた。
それは、さっきと同じ夢。
しかし同じなのは途中までで、最後は、蓮がキョーコと二人、手を取り合って虹の架かった海の上を飛んでいくというメルヘンタッチなものに変わっていて、朝目覚めた蓮が見たキョーコの寝顔はとても幸せそうに笑っていた。




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