Secret base

2011年03月31日 19:06

本日で三月も終わりですね。
もう少し書き足そうかなと思っていましたが、色々とあたふたしているうちに、だいぶ季節というか時期が過ぎつつあるのでちょい慌ててUPしてみます。
キョーコさん引越の巻。
オチがない気がしますが(汗 始まりはほのぼのとした感じでw

アラビアンナイトのような扮装をした人達が流れるような動作で次々と荷物を運ぶ姿は一種異様な光景だった。
彼らの手にしているキョーコの荷物である段ボールは、虹色のラメで輝くように装飾された布に包まれていたり、人一人が丸ごと入りそうな大きさの宝箱に入れられていたりと、どれもキョーコには理解できない工夫が施されている。
そんな彼らの姿と荷物は、蓮のマンション内で悪目立ちし、運悪く遭遇した住人は皆目を丸くしていたが、それが引越しだと気づいた者はいなかった。
部屋の中で荷物の行き先を指示するように言われたキョーコは、心臓が痛くなる位ハラハラしながらそんな引越し作業を見守っていた。

「これで最後になります」

最後の荷物が部屋の奥に運ばれて行くのを見ながら、浅黒い肌の国籍不明の男性──社長直属の部下である"セバスチャン"がキョーコにそう報告した。

「お、お手数おかけしましたっ!」
「他にも何かありましたらお申し付け下さい。荷解きなどは」
「と、とんでもございませんっ! 後は自分でやりますので、はいっ」
「そうですか。それでは……」

ゾロゾロと、でも静かに謎のアラブ人達が立ち去るのを、畏まった様子のキョーコとセバスチャンが玄関先で見送る。
最後の一人が出て行った後、セバスチャンは改まった様子でキョーコの方に向き直した。

「?」
「社長から伝言がございます」
「え」
「最上君! まぁよろしく頼むよ!」
「へっ」
「以上でございます」
「あ、は、はぁ……」
「それでは失礼致します」
「あ、ありがとうございました!」

深々と頭を下げるキョーコに会釈するとセバスチャンも静かに帰って行った。




引越し──キョーコが蓮と同居するにあたり付随してきた諸問題は全て蓮が引き受けている。
そうして引越しの今日、だるまやにやって来たのはどうみても社長が手配したとしか思えない今の人達だった。

(大将がびっくりしてたわ……変な方向に派手な引越しだったわね……)

それでも無事終わった事に安堵し、キョーコは蓮から自由に使っていいと言われたゲストルームで運び込まれた段ボールの山を眺めた。
息つく間もなく荷解きを始めながら、さっき受け取った社長からの伝言を思い出す。

(よろしく頼まなきゃいけないのは私の方なんじゃ……)

蓮の食事管理をするためだけなら、一緒に住む必要まではない。
蓮との仲を反対された事など今までなかったが、同居まで歓迎されるかどうかはわからないとキョーコは少し不安だった。
しかし、こうして社長の手配で無事引越しが終わった事が、それは杞憂だったとキョーコに教えてくれた。
結局、自分がここに来たかったのだということが予想よりも広い範囲に知れ渡っているような気がしてキョーコは急に恥ずかしくなった。

「さっ、早いとこやらないとね!」

恥ずかしいのを隠すようにそう独り言を言うと、キョーコは段ボールを一つずつ開封していく。
大きな家具などはないキョーコの荷物は全て合わせてもゲストルームの半分も埋めていなかった。
予定のなかった今日の朝から始めた引越しは、昼に近い時間でなんのトラブルもなく、あっさりと終了した。
蓮が帰宅する夜までにできるだけ片付けてしまおうと、キョーコはてきぱきと作業を進めていった。



***



何かあったら戻ってくればいい──但し、その場合、二度目はないからな

それはだるまやを出るという報告をした日、キョーコに向けられた大将の言葉。
しかし、その場に一緒にいた蓮には、間接的に自分に向けられた言葉だと痛感していた。



「えっ、そんな事言われたのか? 大将に」
「えぇ、まぁ」
「ふーん……」

仕事が終わり、蓮の車はまず社の自宅へと向かっていた。
助手席の社は、蓮からだるまやへ行った時の話を聞いた後、特に表情も変えずにしばらく黙っていたが、急に口元をぐにゃりと曲げ、最後には声を抑えながらも腹を抱えて笑い出した。

「何を……笑っているんですか……」
「いや……やっぱり俺も……行けばよかったなって……」
「…………」
「険しい顔の大将に、キョーコちゃんが真面目な顔で『はいっ』って返事をして……その後ろで、お前はきっとすごい情けない顔してたに違いないって思うと」
「………………」
「嫌になったらいつでも戻って来い、って事だろ?」
「嫌になったらって……」
「で、そうなったら、二度とお前の所になんかやらないぞっと……いや、本当、お父さんなんだなぁ……」

体を震わせて笑うマネージャーを蓮は黒い空気を背負いながらじろりと睨む。
社は息を詰まらせながら笑いを引っ込め、咳払いをひとつした。

「ま、あ、よかったじゃないか、反対されたりせず、二度と戻って来るな、なんても言われたりしてないんだから」
「それは……そうです」
「何かあった時とかに安心してキョーコちゃんを置いておける場所はあった方が」
「何かあった時とかやめて下さい」
「いつでも最悪の事態を考えとかなきゃだめだろう?」
「そうならないように努力する事が大事です」
「そりゃそうなんだが」
「引越しも、社長がそうとわからないようにやってくれると言っていましたし」
「どんなだ、それ……まぁ大丈夫なんだろうけど……今日やったんだろ?」
「はい」
「じゃあ今日帰るともう普通にキョーコちゃんがいるわけだ」
「…………」
「ま、仲良くやれよ……ただし、顔は引き締めてな?」
「ゆ、緩んでいません」
「お前、キョーコちゃんにお前そっくりの仮面でも作ってもらったらどうだ。原寸大で」
「なっ」
「本物と見間違うような品質で作りそうだよな、キョーコちゃん。あると便利なんだけど」
「やめて下さい……」

今でも時折、人形用と思しき材料の影を見かける事がある蓮は、それが不可能じゃないという事で、少し不安になった。

「あんなにそっくりなのはちょっと怖いです……」
「どうやって作るんだろうなぁ。作ってる現場見られるんじゃないか?」
「いや……できれば見たくないんですが……」

顔を顰める蓮を見て、社は面白そうに笑っていた。



「じゃあ、また明日、おつかれさん! キョーコちゃんによろしくな」
「お疲れ様でした」

自宅マンションへと入っていく社を見送った後、蓮も帰路に着く。
散々、社に遊ばれた後だったが、どこか晴れ晴れとした気分で静かにアクセルを踏んだ。
いつもの帰り道が特別な道に感じられる程に心が浮き立っている。
しかし、タイミングが悪かったのか、何度も行く手を遮る赤信号がそれに水を差した。
停車した車内で蓮は、あの後、大将と交わした会話を思い出していた。


「何度も言うが、俺はあいつの本当の親じゃねえんだ。行きてぇって言うのを止める権利はねぇよ」
「いや、そんな事は……」
「なんだ? じゃあ、止めたらやめんのか」
「や、それは、その」
「そらみろ」
「…………」
「仕事だ学校だと普段から忙しいのに、たまに早く帰ったかと思えばお前んとこへ飛んで行きやがる」
「も、申し訳ありません……」
「まだ若けぇからいいが、それでも負担は負担だ」
「…………」
「かといってもう行くなとも言えねぇしな……だったらそっちいった方があいつも落ち着くだろ」
「ありがとうございます……」
「別に礼なんざ言われることじゃねぇよ……それよりもわかってんだろうな?」
「わ、わかっています」
「ならいい。めんどくせぇ事にならなきゃいいんだ」
「はい」
「言っとくが、バレたら結婚すりゃいいじゃねえかとか……大雑把に」
「そ、そんな風には考えていません! そういう事はちゃんとしたいと」
「ならいい……まぁ、うまくやんな。忙しいとこ悪かったな」
「いえ……」


(手放しで歓迎……してくれたわけじゃない……)

青に変わった信号に従い、動き始めた前景に向かって蓮は溜息をつく。
大将は頻繁に自分のマンションへ通うキョーコの負担を考えて、引っ越す事に反対はしなかったというだけ。
これでうっかりバレてキョーコの周辺が騒がしくなったりしたら、あっさりと連れ戻してしまうかもしれない。
そして、その場合は──キョーコとの距離が遠のく。

「…………」

それでも進んだこの確実な一歩をなかった事にはしたくない。
己の強運を信じながら、新しい住人を迎えた自宅へ向かってアクセルを踏み続けた。


***


「ただいま……」

今までに何度も言う機会のあった、帰宅を知らせるその言葉が今日からは当たり前になる。
そう思うだけでどこか 蓮にはその言葉の価値さえ上がっているような気がした。
それに答える言葉は聞こえてはこなかったが、その代わりに点いていたリビングの灯りが蓮の顔を綻ばす。
早足で向かったリビング、そして寝室にもキョーコの姿はない。
着替えを終えた蓮は見当たらないその姿を探す事にした。

(まだ片づけをやっているのかな……)

そう思い、足を向けたゲストルーム。
軽く扉をノックしたが反応はない。
躊躇いつつもそっと開いた扉から中を覗くと、ゲストルームの隅に、並べられた見慣れない家具類とこたつが目に入った。
キョーコはこたつに入って突っ伏している。
少し慌てた蓮が足早に近づいて様子を見てみると、そこには穏やかな笑顔を浮かべて眠るキョーコの寝顔があった。
その顔を見て安堵すると同時に蓮の口元も綻ぶ。
起こさないように横にそっと座り、こたつに足を入れようとして蓮はその膝を思い切りぶつけてしまった。

「いっ…」
「にゃっ!」

鈍い音とともに天板が揺れ、驚いたキョーコが目を覚ました。

「あっ! つ、敦賀さん、おかえりなさい……」
「ただいま……」

慌てて飛び起きたキョーコがようやく帰宅を出迎える言葉を言い、蓮は苦笑いしながらそれに答えた。

「やっ、私、寝てました? ごめんなさいっ」
「姿が見えないからどこにいるのかなって思ったよ」
「ちょっと休んでただけのつもりだったんですが……つい、うとうとしちゃって」

キョーコはそう言いながら、きょろきょろと周りを見回した。
そして、いつの間にか自分が蓮と二人、ゲストルームでこたつに入っている状態になっている事に気がついた。

「あ、あの……敦賀さん」
「これ、もしかしてキョーコの部屋?」
「えっ」

どこか嬉しそうに周りを眺める蓮を見て、キョーコは今のこの部屋がどんな状態がであるかをようやく思い出した。

荷解きを始めてすぐに、キョーコは自分の持ち込んだ家具がまったく部屋に釣り合わず、途方に暮れていた。
さりげなく豪華な調度品が並ぶ蓮のマンションのゲストルーム。
わかってはいたつもりだったが、実際に隣に並べてみるとその違いは一目瞭然だった。
しかし、まだ使える自分の家具を捨てるのはもったいなく、仕舞いこんでしまうのも気が引ける。
名案が思い浮かばないまま荷解きは進み、気がついた時にはキョーコはゲストルームの片隅に"だるまやの自室"を再現してしまっていた。
突然ゲストルームに出現した異空間に呆然としつつ、ここまで忠実に再現する必要もないのにと思いながら設置したこたつに入って休憩している内にキョーコは眠ってしまっていた。

「キョーコの部屋に遊びに来たみたいで……ちょっと嬉しいな」
「いえ、あの、これはとりあえず置いてみたっていうか」
「いいんじゃないかな、これはこれで」
「そうでしょうか……」

あまりの違和感にさすがにこのままにしておくべきではないと考えていたキョーコだったが、蓮の様子を見て考えを改める。
正直な所、妙に落ち着いてしまっている自分にもキョーコは気づいていた。

「じゃ、じゃあ、しばらくこのままで……」
「うん」

機嫌よく笑っていた蓮だったが、その笑顔から放出されていた眩い光線がふと止まった。

「でも……」
「えっ?」
「あまりここに篭られると寂しいけど」
「へっ」

蓮はぽつりとそう言うと、こたつをがたがたと揺らしながら脚を半端に入れた状態で横になり、キョーコに背を向けた。

「つっ、敦賀さん」
「この部屋のベッドは……片付けてしまおうか」
「えっ?」
「こたつも……リビングに持って行こうかな……」
「んなっ! そ、それは変です!」
「でも、これ、暖かいし」
「だ、だからと言って入って寝ちゃうのはいけないんです! 風邪引きます!」
「もっと大きいタイプってあるかな」
「あるかもですっ……って、あったらどうしちゃうんですかっ」
「なんなら買っても」
「思いつきで妙なものを買わないで下さい!」
「んー…でも」
「リビングにこたつは要らないと思います! これは、とりあえず出してみただけで」
「でも気になる」
「な、なぜです?」
「さっき、気持ちよさそうに寝ていたじゃないか」
「えっ、やっ、そ、それはですね……」

必死に言い訳を考えていたキョーコは、蓮の背中が少し揺れている事に気がついた。

「あっ! またからかってますね?」
「いや……そんな事は……」
「もうっ、ひどいです!」

背中をぽかぽか殴るキョーコから見られないように背けながら、蓮は盛大に顔を緩める。
自分でもその緩まり加減に危機感を感じ、帰り際に聞いた社の提案も冗談じゃ済まないのかもしれないなと思いながら蓮は自分の顔をぺちぺちと叩いた。
その後、蓮は暴れるキョーコを落ち着かせ、そのまま二人、なぜかこたつに入ったまま話し込んでいた。

「引越しは何事もなく終わった?」
「はい……引越しの方々は妙に派手でしたが……何もトラブルはありませんでした」
「そっか、それならよかった」

社長が手配した引越しはどんなものだったのか、想像して蓮はくすりと笑う。

「あの……」
「ん?」
「私、まだちゃんと社長さんに会ってないんですが……今回の事は」
「大丈夫、何も心配いらないよ。俺が全部話してきたし」
「…………」

蓮の部屋に来るにあたって、キョーコは大将に報告をした事以外は何もしていない。
全てを蓮や、周りの人にまかせっきりでいいのだろうか、と思ったキョーコはその表情に少しだけ影を落とし考え込んでしまった。
そんなキョーコを咎めるように、蓮はその鼻をきゅっと摘んだ。

「む」
「いいんだよ、キョーコはそういう事は気にしなくて。これから色々……面倒かけるしね」
「面倒な事なんて何もありません」
「自分の……家、に帰るのに気を使わなきゃいけないのは……面倒な事だよ」
「自分がやりたいからそうするんです。面倒なんかじゃ……ないですよ?」

会話の途中で、キョーコに落ちた影が蓮に移動した。
それに気づいたキョーコは蓮の顔を覗き込み、まるで子供に諭すように蓮に小さくそう囁いた。
そのままじっと自分を見つめるキョーコに、蓮の顔も再び綻んでいく。

「面倒なんかじゃ……ない、よね」

蓮はそう言って自分の額をキョーコのそれと近づけ、軽くぶつけて笑う。
キョーコも同じように、ほんの少しだけ頬を染めて微笑んでいた。

「もう遅くなっちゃいましたね。ご飯、何も食べていませんよね」
「んー」
「あ、また……私も何も食べていないんです。簡単なものだけでもすぐに作りますから」
「じゃあ、こたつで」
「こ、こたつから離れてくださいっ……ダメです、さっきからぶつかってばかりで」
「もう大丈夫」
「いいからリビングに行きましょう? も、敦賀さんー!」

こたつに託けて"キョーコの部屋"に居座ろうとする蓮を無理矢理リビングへと連れ出し、キョーコは遅い夕飯の準備のためにキッチンへと向かって行った。



コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/302-6d448307
    この記事へのトラックバック