1.自覚─Kyoko

2010年02月04日 01:32

1.自覚─Kyoko


──もう恋なんてしない。
そう、固く誓っていた。

むしろ、それが敗因だったような気がする。
"恋心"のドキドキを全て、慣れてないからだの、尊敬してるだの、崇拝してるだのといった感情に置き換えて来たせいで、自覚してしまった時にはすでに症状は最悪、かなりの重症だ。
そして、例によって自分はタイミングが悪いという運が悪い。
DARKMOONは無事クランクアップし、あの人と出会う機会はめっきり減ってしまっていた。
どうやらかなり忙しいらしく、事務所ですれ違うことさえも滅多にないのだ。
恋を自覚した時点から会えなくなってしまうなんて。

今だスキャンダルゼロの芸能界一イイ男は、あえて特定の女性を作らないようにしているように見える。
「坊」の時に見た傷ついた顔が忘れられない。
過去になにがあったのか、私にはわからないけれど、そもそも恋愛する気があったとしても自分がその対象に入るとはとても思えない。
対象どころか、彼には好きな人がいるはずなのだ。
この時点でもう片思い確定だし、あの「お礼」だって挨拶程度の意味しかないと言い切られているわけだし。
それでも。
それでも、テレビの中で見る"敦賀蓮"とは少し違う、他の人よりも少しだけ近い場所にいる後輩、出会えれば気軽に挨拶も話もできるという立ち位置はとても恵まれているんだろうと思う。
彼に片思いしてる女性は日本中に何万といるのだ。

よく考えればアイツの時だって片思いってことだっのよねぇ。
ま、随分違う感じだけど。

うっかりあのバカを思い出してダークな気分になったものの、続けてすぐあの「お礼」を思い出し、また一人ぐるぐるしそうになったのであわてて頭を振り気分を落ち着ける。
バレンタインのあの日からずっと就寝前にいつもこんな感じに考え込んでしまう。

それもこれもみんな敦賀さんのせいなんだからっ…!
あ、あんなことされなきゃ気がつかなかったのに~!

自分の気持ちに気がつかないままでいられればこんなに毎日毎晩、こんなに悶々と悩まなくてすんだのに…と少々恨めしく思ったが、いずれは気づくことだったのだと思うと諦めに似た気持ちで深い溜息が出る。
開き直ってしまうと、今までよく気がつかなかったものだ、と自分に感心してさえしまう。
心のガードはばっちりだったのだ。
しかし、それは恋をしないように…ではなく恋する自分を隠すための物だったのかもしれない。
自分を誤魔化すだけの壁に過ぎなかったのだ。

結局、人間って本質は変わらないものなのかしらね。

アイツに捨てられて、変わったつもりだったけれど、変わったのは見た目だけで本当はなにひとつ変わっていなかったのではと、ふと不安になる。
恋する人に夢中になりすべてを捧げていた自分。
でも。
でも今は昔とは違う。
好きな人を追いかけるだけじゃない。
「芝居」をやることは自分のため。
初めて自分からやりたいと思ったコト。
この想いは本当だ。
仕事…女優として頑張りたいと思う自分もここにちゃんとある。
うん、大丈夫。
ぎゅっと手のひらを握る。いつもの硬い感触。

ふと気がつけばもう日付が変わっていた深夜。
明日も忙しいんだからもう眠らないと。

ずっと手のひらに握っていたコーンをいつもの財布に戻す。
あの強力な邪法が、こんな布切れで封印できるなんて思っていた自分がおかしく思える。
いつも持ち歩いていたし、時間をかけてじっくりじわじわと自分の中に浸透していったんだと思うとその威力が恐ろしい。
財布をそっといつものバックにしまいこんでベッドに潜り込む。

もう恋なんかしない、って決めていたのにまた恋に落ちてしまった。
でもそれは片思い。
やっぱり自分は運が悪いんだなぁって思うと少し寂しくなったが、人を好きになる気持ちを取り戻せたのはよかったのかな…と自分で自分を慰めた。



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