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彼らのバレンタイン

2011年02月14日 08:16

バレンタインといえば蓮がぐるぐるする話。
なぜかそんな印象がw原作のせいですね(笑)
そんな感じで軽ーくどうぞです~。






仕事場へと向かう直前、早朝の車内。
蓮は車を出発させる前に、持っていた小さな箱を助手席の社に差し出した。

「これ……どうぞ」
「えっ……」

淡い青色できちんと包装された小さな箱がピンク色の花飾りとリボンで飾られている。
手のひらサイズのそれが蓮の手から社へと渡され、車内は静まり返った。

「なんだ、これ……」
「チョコレートです……」
「…………」
「…………」
「え?」
「あー、ええと、彼女から頼まれました。今日は社さんに会えないからと」
「あ、あぁ……なるほど」

社はやっと納得したように箱をしっかりと受け取り、丁寧に包装を解いて中身を確認し始めた。
それを確認した後、蓮は無言で車を発進させた。



「あれだけ連日お前宛のチョコの山に埋もれているっていうのに、お前から渡されたってだけでそれがチョコだと認識できなくなるもんなんだな」

車窓を流れる風景を眺めながら、社はぼそりと独り言のようにそう呟いた。

「す、すいません」
「いや……」

謝る事なのかと疑問に思いつつも謝罪の言葉を言う蓮に、社も曖昧に受け答えをした。

「キョーコちゃんは今年もお世話になった人にチョコ作ったんだ」
「えぇ、結構作ったみたいです」

蓮はキョーコが作っている所を実際に見たわけではなかった。
それでも先日帰宅した室内にほんのり残っていた甘い香りとラッピングに使うらしいカラフルな材料の数々は目に入っていて、その姿は容易に想像できていた。
バレンタインである今日、早い時間に出掛けて行ったキョーコは大きな紙袋を抱え、出かける間際にメモのようなものを見ながら中身の数の確認をしていた。

「あげる人をリストアップしながら頑張っていましたよ」
「まめだなぁ、キョーコちゃんは」

その時の一生懸命な様子を思い出し、蓮はくすりと笑う。

「あれ……意外と気にしてないんだなぁ」
「えっ?」

さっそくキョーコのチョコを口にしていた社は、そんな蓮の様子を見ながら不思議そうに言った。

「お前の事だから、また水面下でぐつぐつと怒ってるのかと思った」
「……いや、別にチョコといっても」
「まぁね、今時はバレンタインのチョコなんてお歳暮みたいなもんになってるからね。でもなぁ」
「でも……なんですか」
「あげるキョーコちゃんがそういうつもりでも受け取る側はわからないだろ?」
「え?」
「相手側に好意がある場合……義理だとわかっていてもちょっと期待しちゃったり……ましてや手作りだからな」
「…………」
「で、来月の今頃辺りに、チョコのお礼と称して一歩進んで来る奴とかがでてきちゃったりとか」
「………………」
「まぁ、だからなんだって感じだけどなー。本命はお前なんだし気にすんな」

そう言うと社は急に取って付けたような明るい笑顔を蓮に向け、一口大の丸いチョコをもう一つ、ぱくりと口に入れた。

「キョーコちゃんのチョコうまいよな」
「社さん……」
「ん?」
「どういう嫌がらせですか……」
「嫌がらせだなんて」
「嫌がらせでしょう……」
「別に……ただ今日もまたお前宛の荷物の整理が大変だなって思ったらなんとなく。誕生日とバレンタイン近いってのは考えものだな」
「…………」
「移動に遅れないようにしないといけないなぁ」
「そうですね……社さんだってチョコは結構貰うんですから」
「俺? 俺はお前へのついでみたいなものだしそんなには」
「社さんにはチョコ以外も来るじゃありませんか。今年は何が付いて来るんでしょうね」
「えっ」
「またぬいぐるみとかですかねぇ……」
「いや、待て、今年は別に」
「今日はわかりませんよ?」
「…………」

深刻な顔で考え込み始めた社を横目で見た後、蓮は少し溜飲を下げたような顔で前方に視線を戻す。
それでも気分爽快とはいかず、難しい顔をしてハンドルを握っていた。


***


キッチンから微かにキョーコの鼻歌が聞こえる。
夕飯を一緒に食べる事ができる夜のキョーコは機嫌がいい。
今夜は特にご機嫌だな、と思った蓮は、手伝う事を却下され追いやられたリビングで一人、顔を綻ばしていた。
ふと、座っていたソファの隅に置いてあるキョーコのバッグに目が留まる。
今朝見かけた紙袋が、きちんと畳まれて一緒に並んでいた。

「…………」

出かける前に、紙袋の中身を確認していたキョーコを思い出す。
その手にあったメモは確認作業の後に紙袋の中へと入れられていた。

(あれに……書いてあるのかな……)

キョーコが誰と誰にチョコをあげたのか──

猛烈にそれが気になった蓮は思わず紙袋へと手を伸ばしそうになったが、寸前で止めた。

(勝手に荷物を漁るとか……人としてどうだろう……)

そうは思うものの気になって紙袋から目が離せない。
蓮が険しい顔で紙袋と睨みあいをしている時、キッチンからキョーコが蓮を呼びに来た。

「お待たせしました! 今日は品数が多いのでキッチンでいいですか?」
「あっ、うん」

急にキョーコに声をかけられ、驚き、動揺した蓮だったが、自分の特性を生かしあっという間にいつもの穏やかな笑顔を作り出す。
そして、同じく笑顔のキョーコに釣られてその笑顔は本物になり、そのままキッチンで二人、少し特別な夕飯の時間となった。


***


「あれ、ご機嫌だな」
「第一声がそれですか。おはようございます」

翌朝、出会い頭に蓮の表情を窺いながら朝の挨拶とは思えない台詞を言った社に蓮は通常通りの挨拶の言葉をつき返した。

「いやいや、昨日、余計な事言ったかなぁとこれでも気にしていたんだ。何事もなくてなによりだよ」
「それはどうも……」

とぼけた顔でそう言った社を助手席に乗せ、余計な反応をしないように心がけながら蓮は今日の仕事場へと車を出発させた。
車内での話題は、今日の予定の確認と蓮が貰った大量のバレンタインプレゼントの取り扱いについてだった。

「今回も……食べないんだろ?」
「いつも通りです。申し訳ないんですが、食べようと思っても食べ切れませんし」
「まぁねぇ……じゃあまた事務所の方でなんとかしてもらうか」
「よろしくお願いします」
「お前はキョーコちゃんから貰ったものしか食べてないって……キョーコちゃんは知ってるのか?」
「話題にした事はないですね」
「ふぅん……」

言ってみればいいじゃないか、と社は言いかけたが、別に自分が勧めなくてもここぞという時には言うんだろうと考え直し、口をつぐんだ。
そして、昨日盛んに早く帰りたがっていた蓮が、今年のバレンタインをどんな風に過ごしたのかが少しだけ気になった。

「今年はお前……キョーコちゃんから何貰ったんだ?」
「えっ?」
「前もチョコじゃなかったんだよな? 今年は何だった?」
「…………」
「ん? 普通にチョコか? 何貰ったかぐらい教えてくれても」
「あ、いや、ええと……」

蓮は、突然向けられた社の質問に、すぐに答えられない自分に気づき愕然とする。

何を貰ったのか──わからない

顔色を変えて黙り込む蓮に、多少の惚気なら仕方ないと待ち構えていた社は驚いた。

「お、おい、なんでそんな顔してんだ……まさか何も貰ってないのか?」
「いえ、ちょ、ちょっと待ってください」

蓮は必死で昨夜の記憶を手繰り寄せていた。

約束通り、早く帰る事ができた昨晩は久しぶりにのんびり一緒に食事ができた。
その食卓に上った話題は、やはりバレンタインの事。
キョーコがチョコを渡した人について話し、蓮がさりげなくそこに探りを入れる。
リストを盗み見る事は諦めた蓮は平静を装いつつも、食事中、なにげない会話に集中していた。
喜んでもらえたと嬉しそうに話すキョーコの口から出てきた名前は、ほとんどは蓮も知っている人物のものだったが数人知らない名前があった。
男か女かさえわからないその名前を脳に刻み込みながらキョーコの表情を窺えば、一点の曇りのない笑顔で──

(気にする必要なんてない……と思ったんだよな……それから……)

キョーコとの会話を思い出す。

「聞いてます? 敦賀さん」
「ん? 聞いているよ」
「量、多くないですか?」
「大丈夫。どれもおいしいし」
「よかった……甘いものが続くのもどうかなって思ったので」

そう言って、キョーコは照れくさそうに笑った──

それ以降、特に何も貰っていないし、口にもしていない。

ならば──

「ゆ、夕飯です」
「へっ」
「昨日の夕飯が……チョコ代わりで」
「夕飯が?」
「昨日はいつもよりも、こう、細かくいろんな物がありまして……」
「おかずの一品が……バレンタイン?」
「…………」
「あぁ、デザートとかで出てきた?」
「そ、そうかもしれません……いや、あれは甘かったから違うような……」
「へ?」
「でもスープやサラダはちょっと違いますよね……」
「おい……」
「残り三品……のうちのどれか……いやどれもそうかもしれないし……」
「……バレンタインだから全体的に特別メニューって奴じゃないの?」
「あ、そ、そうですね……きっとそれです」
「本当に?」
「…………」
「…………」
「多分……」
「上の空だったんだ……」
「いやっ……味も見た目もちゃんと覚えていますよ?」
「ふーん……でもわからない、と」
「あ……の……」
「もう、いいよ……いろいろ反省しとけ」
「………………」
「くれぐれもキョーコちゃんになんだっけ、なんて聞くなよな」
「はい……」

それきり蓮は黙り込み、仕事現場へと続く道路を周りの流れを乱す程の安全運転で車を走らせていた。

(まぁ、俺もちょっと悪かったかな……)

そんな蓮に突っ込む事もできず、前日の自分の言動を少し反省した社は、手袋をして携帯を取り出した。
蓮がキョーコから何かをちゃんと受け取っている事は確か。
ぼんやりとしたその全体像をはっきりとさせればいいんだな、と思った社は秘密裏に協力を仰ぐべく、久しぶりにキョーコの親友の元へと電話をかけていた。


***


仕事を終え、帰宅した社は、遅くならない内にと昼間電話した琴江の携帯番号を再度呼び出し、発信ボタンを押した。

『はい、琴南です』
「あっ、琴南さん、社です……ごめんね、今日は変なお願いを」
『いえ、大したことではありませんから』
「いやいや……で、どうだったかな」
『社さんの推測通りです。夕飯が全部チョコ代わりだったみたいです』
「やっぱりそうだったんだ」
『ソースの隠し味にチョコを使ったりとか……デザートでちゃんとチョコとわかるものも作ったみたいですが』
「そっか、ありがとう……悪かったね~、琴南さん。でも助かったよ」
『ちゃんと説明はしてたみたいですけどね』
「あはは……あー、えっとこの事はキョーコちゃんには」
『勿論、言いませんから。結構頑張って作ったみたいですし……』
「あ、はは……いや、もう、琴南さんからも蓮に何か言ってやってよ」
『い、いえ、私からそんな事はとても……社さんも大変ですね、こんな事まで』
「あぁ、いや、今回は俺もちょっとね……とにかくありがとう琴南さん」
『いえ、お役に立てたのならよかったです。それでは失礼します」
「おやすみ、お疲れさま」

通話の終わった携帯をテーブルの上に置き、社はようやく見えてきたバレンタインの平和な終わりに、安堵の溜息をつきながら手袋を外した。



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