彼の誕生日

2011年02月10日 00:00

敦賀さん誕生日おめでとーございまーす♪

去年はスルーしてしまった蓮誕生日ですが、今年はちょろっと書いてみました。
やっぱりいつも通りの蓮キョではありますがwよろしかったらどうぞです。


「リクエストしていい?」
「えっ?」

近づいて来た蓮の誕生日。
密かに思い悩む日々を送っていたキョーコに蓮の方から要望が出された。

「なんでしょうかっ! 私が準備できるものならなんでも言ってくださいっ」
「そう?」

妙に真剣な顔でそう言うキョーコに、蓮はくすりと笑う。

「ケーキを作って欲しいんだ」
「ケーキ!?」
「うん」
「…………っ」
「なにかな……その顔は……」
「だ、だって、敦賀さんがっ……敦賀さんが、食べ物の、しかも甘いものをリクエストだなんてっ……」
「いや……そんなに驚かなくても」
「何かっ、何か無理していませんかっ!?」
「してないよ……」

驚愕の目で自分を見つめるキョーコを蓮は困ったように見返していたが、すぐに笑顔になり"リクエスト"の詳しい内容を口にした。

「なんていうのかな、普通の白いケーキ? いかにも誕生日という感じの」
「苺の乗った……ですか?」
「うん、それ。そういうの食べてみたいかなと思って」
「食べた事ないのですか?」
「うーん、なんていうか……俺の中の誕生日ケーキって、とにかく大きいというか、派手……いや、色彩豊かというか、食べ物というよりも何かのオブジェクトみたいな物が多くて……」
「オブジェクト?」
「それはそれでいいんだけどね。昔の誕生日の事を人に聞かれる機会もあるから、もう少し日本的な……思い出が欲しいかなって」
「はぁ」

蓮の言うケーキがどんなものか、キョーコには想像がつかなかったが、作るケーキはシンプルな物でいい、とは理解できた。

「どうかな? お願いできる?」
「勿論です、お任せください! 全力で作らせて頂きます!」

気合の入った返事をして、さっそく頭の中で下準備に入ったキョーコだったが、ふと何かに気づいたように、にこにこと自分を眺めている蓮の方に視線を向けた。

「あのう……」
「ん?」

ここ数日、蓮に何をプレゼントしたらいいのかという事はキョーコの最大の悩みになっていた。
思いつく物には自分の財布が追いつかない。
かといって手作りでは限界がある。
唯一の親友に相談してみれば、自分にリボンをかければいいと言われ、キョーコの参考にはなっていなかった。
蓮に直接何がいいのかを聞く事には躊躇いがあったのだが、いいチャンスかもと思い、キョーコは恐る恐る探りを入れた。

「ケーキは最初から用意しようかなって思っていたので……できたら、ほ、他に何か」
「いや、これでいいんだよ。わざわざキョーコに作ってもらおうっていうんだからね」
「え……で、でも」
「んー…それじゃあ、もうひとつ」
「なんでしょうかっ!」
「名前」
「へっ?」
「ケーキの真ん中に俺の名前入れてくれる?」
「えっ……名前?」
「そう」
「名前……はい、わかりまっ……し……」

それ位、お安い御用とばかりにそう言い掛けたキョーコだったが、ケーキに名前を入れる自分の図を想像し、ぴきんと固まってしまった。

(名前? 名前って……)

キョーコの傍らで穏やかに微笑む、長身で容姿端麗の人気俳優。
その男には日本では限られた人しか知らない本当の名前がある。
本当の名前を入れるべきなのか。
誰もが知っているだろう名前を入れるべきなのか。
その選択に悩む上に、入れるのなら下の名前だろうと思うと、猛烈に恥ずかしいという事にキョーコは気がついた。

「あ、あのっ」
「じゃ、もう遅いし寝ようか」
「敦賀さ……」

そんなキョーコの葛藤に気づいているのかいないのか、蓮は何かを言いかけたキョーコを強引に抱き上げた。

「きゃっ! あのっ、あの、敦賀さん!」
「明日も早いからね」
「んんっ」

強引にキョーコの口を塞いだ蓮は灯りを消し、寝室へと向かう。
キョーコの葛藤はどさくさのうちに、寝室の闇の中へと紛れて行ってしまった。





誕生日の夜、努力の甲斐あってそれなりに早く帰宅した蓮の目の前には、約束通りキョーコが作った誕生日ケーキが用意されていた。
少し小さめのホール、控えめな量の白い生クリームの円の縁を、きちんと並べられた赤い苺が綺麗に飾っている。
その円の中央にはチョコレートで"HappyBirthday"。
そしてその下に大きく──"敦賀蓮"の三文字。

「……入れました」
「…………」

テーブルの上に乗ったケーキを手の平で指し示し、神妙な顔でそう言うキョーコと、チョコレートで精密且つ妙に美しく書かれたその名前を見て蓮は思いっきり吹き出してしまった。

「すっ……すごいね……蓮と久遠、どっちが来るかなって思ってたんだけど」
「えっ」
「フルネームが、か、漢字で来るとは思ってなかったよっ……」
「…………」
「印刷してるみたいに綺麗だし……やっぱりキョーコは……き、器用だよね」
「あ、ありがとうございます……」

肩を震わせて笑いながら言う蓮に、キョーコは少し拗ねた顔をしながらも礼を言った。

「熟考した結果なんですが……もしかして……わざと"どっち"って言いませんでしたね?」

上目遣いで恨めしそうにそう言うキョーコから目を逸らし、蓮はしばらく笑っていたが、少ししてから自分を落ち着かせるように軽く咳払いをした。

「ん……まぁ、色々とね」
「何が色々なんですっ」
「いいんだ、面白かったから」
「お、面白……もう、遊んでますねっ、敦賀さん!」
「はは……」

機嫌の良い笑い声を立てながら蓮はケーキとコーヒーが用意されているテーブルの前に座り、携帯を取り出した。

「なんですか?」
「記念撮影」
「ええっ」
「せっかくこんなに綺麗に作ってもらったし」
「え、でも、言って頂ければいつでも」
「いいから、いいから。ちょっと、こう、こっちの正面に向かって傾けてくれるかな」
「え、あ、はいっ」

少し照れくささを感じながらもキョーコは言われるがままにケーキの乗った皿をそっと持って蓮の方に少しだけ傾けた。
眩しいフラッシュと共に、鳴る電子のシャッター音。

「ちょっと失敗したかな。もうちょっとこっちへずらしてくれる?」
「は、はいっ」

再び繰り返された光と音の後、蓮は携帯の画面を確認し、満足したように微笑むと静かに閉じた。

「じゃあ、いただこうかな。コーヒー冷めちゃうね」
「はいっ、それでは……」

淹れたばかりだったコーヒーの湯気の向こうで、小さいながらもホールのケーキを切り分けようとキョーコがナイフを手にした時、蓮はそっとそれを止めた。

「このままでいいよ」
「えっ? でも」

戸惑うキョーコの目の前で蓮は手にしていたフォークをケーキのど真ん中に突き刺した。

「んなっ! つ、敦賀さん」
「ん?」

目を丸くしたキョーコを気にする事なく、蓮はチョコレートで書かれた自分の名前が乗っかっている部分を器用にくり抜いていく。
そして"蓮"の部分が乗せられたケーキの破片を持ち上げてキョーコの方に向けた。

「はい、あーん」
「なっ」
「あーん?」
「…………」

有無を言わさぬ眩しい笑顔がキラキラと突き刺さり、キョーコは黙って口を開くしかなかった。

「もうっ……さいひょのひとくちはつるがひゃんにっ」

大きすぎた一口を口いっぱいに頬張りながらキョーコがもごもごと文句を言う。
蓮は意味深に微笑みながら、入りきらすキョーコの唇に残っていた生クリームを指で掬い取った。

「これでも……少し妥協したんだよ」
「へっ」

クリームがついた指をぺろりと舐める蓮のどこか妖しい雰囲気に、キョーコは動かしていた口を止め、頬を紅く染めた。

「うん……おいしいよ。ありがとう」
「そっ、それはよかったれす」

"蓮"を口にしながらキョーコはそう答え、真っ赤な顔で俯いた。

「いい誕生日になったよ」
「た……たいひたことできていないんれすが」
「そんな事ないよ……」
「…………」

なかなか食べきれずにいたケーキをようやく飲み込んだキョーコはそっと顔を上げ蓮を見る。

「お誕生日おめでとうございます……」
「ありがとう」

キョーコの祝いの言葉に蓮は蕩ける様な笑顔で答え、ケーキを一口、今度は自分の口へと運んだ。





「敦賀さん、先日お誕生日だったんですね!」
「そうなんです」
「おめでとうございます!」
「おめでとうございまーす!」
「ありがとうございます」

スタジオセット内に鳴り響く、もうTVでは定番となった海外アーティストによる誕生日を祝う歌。
祝いの言葉と同時に出てきた大きな誕生日ケーキの蝋燭の火を消しながら、蓮は愛想のいい笑顔を出演中の番組の司会者やその周囲に振りまいていた。
生で放映されているトーク番組。
誕生祝いの後は、蓮が用意してきた写真の話題になった。

「じゃあ、これは誕生日当日のものですか? ケーキですねぇ」

セット内のボードに貼り出されている数点の写真の内の一枚を見て、司会者とアシスタントが感嘆の声を上げる。

「かわいい苺のケーキ~! しかも真ん中に "敦賀蓮"ってばっちり名前が入ってますねっ」
「印刷? 何か機械みたいなものでもあるんですか? お店とかで」
「いえ、これ、事務所の娘が作ってくれたんです。手作りですよ」
「えっ、普通の人ですか?」
「そうです」
「ええっ、すごい器用~! だって字がちゃんとしてるー」
「筆で書いてるみたいじゃないですか。チョコですよね?」
「職人さんが書いたみたいですねぇ」
「ですよね、すごく器用なんですよ。俺もびっくりして」


(うわぁ……蓮……話もギリギリだってのに、顔もギリギリだぞぉ……)

社はスタジオの隅で、緩み始めた担当俳優の顔を見ながら内心冷や汗を掻いていた。
プライベートな写真を何枚か用意して欲しいという要望の元、提出するはずだった数枚の写真。
それは直前になって一枚だけ変更になっていた。

「これは大丈夫でしょう?」
「うーん……」

蓮が使いたいと言ったケーキの写真にはキョーコのものらしき手がちらりと写ってはいたが、傍目には誰の手であるか、そしてどこで撮影されたものかはわからなかった。
それでもなんとなく危険を感じた社はその写真を使う事を渋っていたが、最後には粘る蓮に根負けし、余計な事は言わないという約束で許可を出した。
しかし、今現在の蓮の顔を見て社はそれを後悔する。

(キョーコちゃんが褒められて気が緩んだな? あぁ、もう、早く次の写真行ってくれ……)

微妙に惚気ている蓮に気づいた社は、無意識の内に胃を押さえる。
巧妙な手口を用い、公共の電波を使ってそうとはわからないように惚気る事に味を占めたりしないだろうな、などと考えながら社が担当俳優の顔の筋肉の微妙な動きに神経を尖らせていた時、預かっている蓮の携帯が震えた。

(あれっ……もしかしてキョーコちゃんか?)

生放送に出演中の蓮が電話に出られるはずもないのだが、動揺したキョーコが慌ててかけてきた可能性もあるなと思った社は手袋をしながら静かにスタジオの出口へと向かう。
一応他人のものである携帯を勝手に見るのは気が引けたが、微かに感じる胃の痛みへの腹いせも兼ねつつ、相手の確認のためにもと無造作に開いた蓮の携帯を見て社は思わず言葉を失った。
ディスプレイには、たった今、スタジオ内で話題になっていた写真のキョーコの顔入りバージョンが表示されていた。

「…………」

どこか恥ずかしそうな表情でケーキをこちらに向けるキョーコの写真は着信が終わると同時に消えた。
静かになった蓮の携帯としばらく見つめ合っていた社だったが、今度は自分の携帯が震えているのに気がついた。
無言で手にしていた携帯を閉じ、自分の携帯を取り出す。

「あー…、もしもし?」
『やっ、社さん! すいませんっ、今大丈夫ですか? あの、TV、TV見ていたんですけど!』
「あぁ、うん……」

(キョーコちゃん、知ってるのかな……今の写真……)

何をどう説明し、どこまで言っていいのかを判断できなくなった社はキョーコの声を聞きながら通路の天井を途方に暮れたように見上げていた。



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