--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

お仕事の後で─9の5

2011年01月28日 11:07

最終話となります。
お付き合いくださった方々、ありがとうございました!

お仕事の後で─9の5

嘘の功罪─5/5






「ん? これかな?」
「ありましたか?」
「多分……ちょっとお前の見せてくれ」

現場の片隅で、LMEの看板俳優と、手袋をしたそのマネージャーがそれぞれの携帯を手に、頭を突き合わせながら小声で会話を交わしていた。

二人が覗き込んでいる携帯のディスプレイには都内のとあるマンションの画像が表示されている。
それはキョーコが遼子に言ったという、"蓮が住んでいるマンション"の外観図。
おおよその話を聞いた社が携帯でそのマンションの情報を探し出し、既にチェック済みにしていた蓮の携帯と内容を照らし合わせて最後の確認をしている所だった。

「同じ画像」
「です、ね、それで合ってます」
「OK、じゃあこれを……」

「おはようございます」

携帯に夢中だった二人が気づかぬうちに現場入りしていた遼子は、目聡く蓮の姿を見つけ、すぐ側にまでやって来ていた。
突然背後から投げかけられた遼子の挨拶に、蓮と社は同時にびくりと体を揺らして沈黙したが、すぐに蓮が振り向いて挨拶を返した。

「おはようございます、仁科さん」
「おはようございます」

同じように遼子に挨拶をしてからそっとその場を離れていく社を横目に、蓮は携帯を静かに閉じながら、遼子に愛想のいい笑顔を向けた。

「今日はお早いですね」
「ええ、ちょっと……あ、もしかして社さんと何かお話中でしたか?」
「いえ、大した事では」

当然、何を話し合っていたかなどを遼子に言えるはずもない蓮は曖昧にその場を流した。
すると遼子は手にしていた雑誌を開き、それを蓮の方へと向けた。

「なんです?」
「あの、ここで紹介されているお店、ご存知ありませんか?」
「店?」
「最近オープンしたばかりみたいなんですけど、雰囲気がとてもいいんですよ。それで……」

遼子の話を適当に聞きながら、蓮は雑誌を覗き込む。
紹介ページの隅に載っていた店の地図は、今、携帯で見ていたあのマンションの近くを示していた。

「もしかして、ここ、敦賀さんのお宅のお近くだったりしません?」
「えっ?」

地図を見ながら蓮がどう対応するか考えていた事に、遼子の方から切り込んできた。

「近い……ですけど、よくご存知ですね……」

できたばかりの自分の設定通りに、蓮は答える。

「知り合いのLMEの娘が噂しているのをちらっとお聞きしちゃいました」
「へぇ……」

悪びれもせずに笑ってそう言う遼子に、蓮も笑顔で答えたが、若干声のトーンが落ちていくのを抑えられない。
しかし、遼子はそれには気づかずに、話を続けていた。

「それで、敦賀さんならもしかして知ってらっしゃるかと思いまして」
「そうですか……」
「どうでしょう、ご存知ありませんか?」
「残念ですけど知らないお店ですね……」
「新しいお店ですものね。でも評判よさそうなんですよ? お近くなら今度ぜひ」

そこで、蓮は急に何か思い立ったように手の中に収めていた携帯をじっと見つめ、ゆっくりと開いた。

「敦賀さん?」
「…………」

側にいる遼子に構うことなく蓮は黙々と携帯を操作し続けている。

「何か……お調べですか?」

携帯を覗き続ける蓮を見て、遼子が首を傾げながらそう聞いた。

「ええ、ちょっと色々と確認を」
「確認? ですか?」
「近々、引越しが……あるんですよ」
「引越し?」

驚いたように発せられた遼子の大きな声に、二人から少し離れた場所にいた社が振り向いた。

「敦賀さん、お引越しされるのですか?」
「なかなかまとまった時間が取れないので毎日少しずつ進めないと」
「あ、あのっ」
「荷物はそれほどないんですが、いろいろと細かい作業もありますし」
「つ…………」
「なんなら業者に全て任せようかとも思ったんですが、自分でやったほうがいいと言われまして」
「つ、敦賀さん」
「……はい?」

携帯を操作しながら一人で妙に饒舌に語っていた蓮は、遼子の呼びかけにようやく反応し、キラキラと眩しい笑顔を遼子の方に向ける。
それを受けて遼子も笑顔だったが、どこか少し強張っていた。

「あ、あの……どちらへ引っ越されるんですか……?」
「都内移動です」

恐る恐るといった様子で発せられた遼子の問いに、蓮は眩しい笑顔のままのさらりとそう答えた。

「都内移動……ですか……」
「できるだけ早いうちに済ませてしまいたいんですよね」
「えーっと……そのどの辺に……」
「以前から考えてはいたんですが、今度ようやく決まりまして」

再び携帯に目を戻した蓮はそう言って今度は静かに、そして穏やかな笑みを浮かべた。

「今から待ち遠しいんですよ……」
「はぁ……」

ある意味、取り付く島もない様子の蓮に、遼子が詮索を諦めた頃、主演女優を呼ぶ現場のスタッフの声が聞こえてきた。
返事をして現場に向かう遼子を見送った後、蓮も自分の出番に備え、手にしていた携帯を預けるために、近くでずっと二人の会話に耳を傾けていた社に近づいた。

「よく言うよ……」

すぐ近くにまで来た蓮に、社はぼそりと呟いた。

「別に嘘は言っていませんよ」
「あぁ、そうかもな。お前が引っ越すなんて一言も言ってないんだもんなぁ……」

まだ携帯に目をやっている蓮に、社は呆れたように言った。

「別にほっといてもよかったんじゃないか?」
「まぁ、そうなんですけど……あのマンション、意外と俺の所と近いんですよね」
「へっ」
「どうせならもっと遠くにと思いまして」
「…………」
「今ちょっと別のを探そうかと」
「い、いや、ちょっと待て……今みたいにとぼけてりゃいいじゃないか……」
「申し訳ありませんが、社さんも」
「あ、あんまり嘘を広げるとキョーコちゃんが気にするぞ?」

携帯を操作し続けていた蓮の手がぴたりと止まった。

「そう……ですね……」

思い止まったようにそう言うと、蓮は手にしていた携帯をそのまま社に差し出す。
社は手袋をしたままの手でそれを受け取ると、手早くぱたりと閉めた。

「んじゃ、これはもういいな?」
「はい……」
「まったく……なんか危ないな、お前は……気持ちはわかるけどさ」
「…………」

しれっとした顔をしている蓮に、社は再び呆れたようにそう言ったが、すぐに真面目な顔になり少し声を低くしてゆっくりと言葉を続けた。

「一緒に暮らす……となるとバレた時のダメージは大きくなるからな? 気をつけてくれよな」
「わかっています……最大限努力しますよ」

同じく真面目な顔でそう答える蓮を、社は少しの間じっと見つめていたが、すぐに顔を綻ばせ、いつもの"遊び心"を顔に滲ませた。

「しかし、よく言い出せたよなぁ、お前」
「えっ」
「今までだって考えてたくせに……ずっと言えなかったんだろう?」
「あー……まぁ、今度の事がいいきっかけになったといいますか」
「なるほどねぇ……そうだな、なんのきっかけも無かったら、お前は延々と悩んだまま言い出せそうにないもんな」
「…………」
「いろいろ心配もあるけど、俺的には大いに助かるよ。キョーコちゃんと会えないとお前、飯はまともに食わないし、妙に消耗するしで大変なんだもん」
「なんだもんって……」
「笑顔もどんどん怖くなっていくし、こっちは気が気じゃないよ」
「ひどい言われようですね……」
「だって本当の事じゃないか。その点が解消されるのはありがたい」
「もうちょっと言い方はないんですか」
「俺は嘘がつけない性質でね」
「よく言いますよ……」
「お互い様だな」

顔を見合わせ、沈黙した後、二人は同時に吹き出した。
そんな俳優とそのマネージャーの元に、今日も、撮影が始まる事を告げるスタッフの声が届いた。





コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/280-b4741c9a
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。