6.キョーコの変装大作戦

2010年02月06日 06:40

6.キョーコの変装大作戦

「あ、いた」
「!」

仕事帰りに事務所に寄り、ラブミー部の部室にいたキョーコのところへ奏江が顔を出した。

「モーーーー子さぁぁーーーん!」

お約束のように、奏江を見るなり飛びついてきたキョーコの顔に張り手を食らわし「いい加減それはやめなさいっ」と奏江が怒鳴る。

「い…だい…ひどいよぅぅぅモー子さぁぁぁん」

幾分か顔を赤くして文句を言うキョーコに奏江は「心配して損したわ」と言った。

「え…心配?」
「噂聞いたから、敦賀さんの」
「あぁ…あれ…」

あの噂を聞いて、奏江が自分を心配してくれたんだ、と思うと嬉しくて、キョーコはまた奏江に飛びつきそうになったが
「まぁ完璧デマだってわかったけど、やっぱり自分の恋人が別の女と付き合ってるなんて噂聞いたら面白くないでしょう?」
「えっ?別の女って?」

奏江のいう噂の内容がなんとなく自分が聞いたものと違うような気がしてキョーコは動きを止め、思わず聞き返してしまった。
誰と付き合ってるんだろう、って話じゃなかったっけ?そう思ってポカンとしているキョーコに奏江は怪訝な顔で
「えっ?あんたも聞いたんでしょ?敦賀さんの噂」
と聞き返す。

「う、うん…聞いたけど…」
「国崎春奈、だっけ。なんでそんな名前が出てきたのかしらね。別に敦賀さんと親しいわけでもないでしょ?」

奏江からその名前を聞いた瞬間、キョーコはあの日の蓮からの電話を思い出した。
そうだ、確か国崎春奈、と言っていた。


会えなくなってから毎晩、キョーコの元には蓮から電話が来ていた。
毎回蓮のストレートな愛の言葉にしどろもどろになったり、絶句したりしていたキョーコだったが、蓮はそんなキョーコの反応を面白がってよくからかったりしていた。
しかし、あの日を境に少し蓮の様子が変わっていった。
キョーコをからかう余裕がなくなり、切羽詰まったようにキョーコに「会いたい」と繰り返す蓮。
それはキョーコにとって嬉しい言葉ではあったが、それ以上にそんな蓮の様子が心配になって来ていた。
会いたいのはキョーコとて同じだったが、噂を立てられ騒がれている上にキョーコに気を使う蓮。
ついさっきも蓮からの電話があり、あの日の事は大事にはならずに済みそうだと聞かされていた。
でもどことなく元気のない蓮の声が気になっていた。


蓮ばかりが苦労している気がして、じっとしていられなくなり、キョーコは密かにある決心をしていた。
会いに行こう。
事務所にはまだ止められているけど、なんとかして自分から会いに行こう。
自分が行ったところで特に役に立ちそうなことはできない気がするけど、たとえ何もできなくてもいいから、せめて元気づけるだけでも…!
それでもそれを決行するのにはまだ躊躇いがあったキョーコだったが、今、奏江から聞かされた国崎春奈の名前。
また蓮が自分を気遣って苦心するのでは…そう思ったキョーコは、ようやく決心したとばかり、考え込んでいたキョーコの様子を伺っていた奏江に向かって
「ねっモー子さん、今日仕事はもう終わり?時間ある?」
と元気よく声を張った。
「えっ、も、もう今日は終わり…」
「ホントっ?じゃあちょっと見て欲しいんだけどっ」

そう言ってキョーコは足元にあった大きな紙袋を持ち上げ、部室のテーブルに勢いよく、どすんと置いた。

「なにそれ」

困惑する奏江をそのままに、キョーコは袋の中から茶色のロングカールのフルウィッグを取り出してかぶった。
そして黒いロングコートも取り出して着、サングラスをかける。

「どうこれ?私ってわかる?」

しばらく呆気に取られていた奏江だったが、すぐに、わかった、という顔をした。

「ははぁん。もしかして変装?それで敦賀さんのところへ行こうっていうわけだ」
「うんっ!前も帽子かぶったりはしてたんだけど…事務所にまだ止められてるからもっと完璧にしようと思って!……なんていうかね、いろいろ心配でっ…いつまでも待っていられないっていうか…」

急に照れくさくなって、モジモジするキョーコだったが、そんなキョーコを奏江は「熱いわね~」と少しからかった後、
「でもそれじゃだめね。あんたとはわからないけどアヤシすぎて返って目立つわ」
と、ダメだしをした。

「えっ、ええ~!うーん、じゃあこれは!」

キョーコは次に黒のロングストレートのウィッグ、赤のコート、そして…サングラスをかける。

「…赤は目立つんじゃない?それから…サングラスはやめなさいよ。それが一番アヤシイ」
「え~でも顔は隠したいなぁって」
「別にサングラスじゃなくったって眼鏡とか…。あーもーいいわ、その衣装、事務所の?」
「ううん、事務所には内緒だから…適当に家から持ってきたり、知り合いのスタッフさんに借りたり…」
「…それでなんか極端なものばっかなわけね。いいわ、一緒に考えてあげる、うちに来なさいよ」


そして数時間後、明るいグレーのスーツを着たキョーコの姿が奏江の部屋にあった。
「あとこれ、伊達眼鏡。ちょっと地味かしら。でも目立つよりはいいわよね。あー髪はさっきの茶色のでいいんじゃない。一応普通のOL風…のつもり」
「モー子さん、スーツとか持ってるんだね~」
「前にバイトで使ったのよ。安いの狙って買ったからちょっとサイズが大きめだけど」

大丈夫、平気、平気といってなんだか楽しげに鏡の前で自分の姿を見ながらくるくる回るキョーコを見て、奏江はふと、なにか思いついたようにニヤリと笑う。
そしてキョーコがスーツの中に着ている白いブラウスの襟元をくいっと軽く引っ張って中を覗いた。

「ちょっっ!モー子さん!?」
焦るキョーコに奏江は
「完璧に変装するんでしょ?顔が見えるとか見えないとかより効果的なことがあるわよぉ~」
と言って、今度は張り切って自分のチェストの中を漁り始めた。
「な、なななにするの?」
「まー待ってなさい……そーね、Dカップくらいにしてあげる」
「なっ!」
「もっと大きくする?あんまりやりすぎると無駄にエロくなるわよ」
「エ、エロって!!しかもDなんて!!い、いや、そうじゃなくって!そんなことしなくてもっ」
「なにいってんの、バレたらマズイんでしょ?」
「そ、そうだけどっこのままでも十分…!」
「ダメダメ、完璧を目指さなきゃ」


しばらく間、あーだこーだ大騒ぎしていた二人だったが、数時間後、結局、奏江のいうがままの格好で蓮のマンションに向かうキョーコの姿があった。



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