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お仕事の後で─9の2

2011年01月25日 13:33

お仕事の後で─9の2

嘘の功罪─2/5






「まったく、仲がいいにも程がある」
「はは……」

帰路の途中、社は助手席で蓮に今日の現場での事をぼやいていた。

「すごい同時だったよな。びっくりしたよ」
「いや……俺だって驚きましたよ」
「あの瞬間だけ周りがしんとしてたよなぁ。神様のいたずらって奴か?」
「嫌な……いたずらですね」
「それにしても一言一句一緒ってのもな。俺的には、はいはい、ご馳走様って感じだ」
「す、すいません」
「まぁ、こういう事もあるだろうよ……でも、妙なバレ方は嫌だろう? 少しお前が緊張感持ってくれよな」
「わかっています」

確かに少し気が緩んでいたかもしれない──そう思った蓮は何気ない一言にも気を使おうと心に決めた。
そんな蓮の横で、社が難しい顔をしながらぼそりと切り出した。

「うまく誤魔化せたとは思ったんだけど……仁科さんがちょっとな」
「何か……ありましたか?」
「急にさ、キョーコちゃんに、どこ住んでるのかなんて聞いたりしてた」
「え」
「もしかして怪しんだりしているのかなぁ……女の勘、とやらが働いて」

社の言葉に、蓮は思い切り顔を顰める。

「だるまやに下宿中、っていうのはちょっとおかしいよな……俺、あんな風に言っちゃったし」
「そうですね……」
「そもそも、お前の所と近所だなんて言えないし」
「…………」
「じゃあ、あれだな……ちゃんと設定しようか」
「設定……ですか?」
「お前の近所にキョーコちゃんが住んでるって事にしとけばいいんだろ? 消防車の音が同時に聞こえてもおかしくないような場所にな」
「あぁ……そういう事ですか」
「お前、仁科さんに自分が住んでる場所言ったりしたか?」
「言ってません」
「だろうな……まぁ、でも一応、遠すぎず、近すぎず、な場所を探すよ」
「LMEの人が大勢住んでるっていうのは」
「あれはいいんだ。俺が言っただけなんだから、キョーコちゃんは詳しく知らなくてもいい事だろ?」
「なるほど……そうですね」
「考えるだけなら簡単なんだけど……」

そう言ってから社は溜息をついた。

「社さん?」
「ちょっと失敗したなぁと思って」
「え」
「俺はね、これ以上キョーコちゃんにいろいろ気を使わせるのはちょっと気が進まないんだよなぁ」
「…………」
「住んでる所を偽装させるとか……どうかなぁって思ってさ」

社の言葉を受けて、蓮は改めて嘘がつき通せないキョーコの性格を思い返す。
それでなくても我慢させている事や、気を使わせている事が多いのにこれ以上──
沈んでしまった蓮の表情を見て、社が慌てて取り成す様に明るく言った。

「いや、ま、そんなにしつこく聞かれたりしないさ。一度、聞かれた時に答えておけば……後はお前がなんとかできるだろう?」
「あ、はい……そうですね……」

蓮は少し暗くなってしまった自分に気が付き、無理やり笑顔を作ってそう答えた。



「じゃあまた明日な、お疲れさん」
「はい。お疲れ様でした」

社を部屋の前まで送った後、蓮は一人運転席でぼんやりとハンドルを見つめたまま、深く溜息を付いた。

朝方に見たささやかな夢を思い出す。

── 一緒に暮らしたい

キョーコが頻繁に自分のマンションに来てくれるようになって、近づいたような気になっていたそれは、いまだ遠くにある事を知る。
自分が望む事が全てキョーコの負担になるという現状をどうにか打開したいと思うものの、何一ついい考えが浮かばない。
唯一の解決策は時が満ちるのを待つだけ。

(強引に事を進めても……俺がいい目を見るだけなんだよな……)

毎晩家に帰るとキョーコがいる。
それだけで自分は幸せになれる気がしたが、果たしてキョーコはどうだろうか。
マンションの出入りに今まで以上に気を使い、言動にも気をつかうだろう。
そのくせ、今日のようなうっかりでバレた時に負うリスクは自分よりもキョーコの方が遥かに大きい。

「…………」

狭い車内で、蓮は天を仰いだ。

今のままでも充分じゃないか。
多くを望み過ぎて大事なものが壊れてしまったら──

ふるふると頭を振り、蓮はハンドルを握りなおして車を発進させた。

(とりあえず……今日の事だけ……頼むしかないな……)

道の途中、音はなく赤いランプだけを点滅させて走る消防車とすれ違い、蓮は思わず苦笑いをした。





蓮が自宅へと戻ると部屋にはキョーコが来ていた。

「ただいま……」
「おかえりなさいっ」

明るい笑顔で玄関先まで小走りでやって来たキョーコに蓮も笑顔で答える。

「ついさっき、社さんからお電話頂きまして……パソコンお借りしてます」
「え?」

キョーコと一緒にリビングに入った蓮の目に、テーブルの上に置かれたノートパソコンが映った。

「ん……住宅情報?」
「社さんがよさそうな場所を教えてくれて……この辺に私が住んでいる事にしようって」
「ああ……」

仕事の早い社に蓮は少し驚いたが、さっき自分がつい暗くなってしまったせいで気を使わせたか、と考えた。

(俺から言わなくていいようにかな……相変わらず優秀なマネージャー様だな……)

着替えた後、蓮はパソコンの前に座るキョーコの横に座り、一緒にその画面を覗き込んだ。

「実際にある所を想定すればわかりやすいっておっしゃってました」
「うん、そうだね……」

キョーコは興味津々で賃貸物件の情報が羅列されているディスプレイを見つめている。
蓮はそんなキョーコの表情を横からこっそりと窺った。
凝った嘘をつかせる事に少し抵抗があった蓮だったが、キョーコ本人は特に気に病む風もなく、ディスプレイを眺める姿は楽しげにさえ見えた。
そんなキョーコの様子に蓮は少し安堵する。

「いろんなお部屋がありますよねぇ……あっ、敦賀さん! この部屋三角ですよ!」
「うん? あぁ、本当だ」
「この三角の先っぽは……どうやって使ったらいいんでしょうか」
「うーん……そこの形に合わせて家具をオーダーするとか」
「敦賀さん……このお部屋賃貸ですよ? 家具を作るお金でお家賃何ヶ月も払えちゃいますっ」
「そう……?」

蓮の少し常識はずれな言葉に、キョーコはキッと厳しい視線を向ける。
蓮はくすくすと笑い、なにやらぶちぶちと呟きながらパソコンを操作し続けるキョーコの横顔を穏やかな笑顔で見つめていた。

(今でも……充分幸せだろ?)

焦らなくても、いつか堂々と一緒に暮らせる日が来る。
そんな事を思い、蓮は真剣にパソコンに向かうキョーコの肩をそっと抱き寄せようとした。

「敦賀さん!これ見てくださいっ!」
「わっ」

突然叫びだしたキョーコの声に驚いて、蓮は伸ばした手を引っ込めた。

「な、なにかな……?」
「ここ、ここ! すごいですっ、住人専用のレンタサイクルですって」
「へ、へえ……色々あるんだね。ん、ここにするの?」
「いえ……ちょっと見ていただけです……これ賃貸じゃありませんし、こんな高級マンションに私がって不自然です……」
「んー…」

蓮はディスプレイを覗き込み、キョーコが見ていたマンションの情報を見た。

「あっ、あの、これはただ見ていただけで……私が住むつもりの所はこっちの方にしようかと」

そう言ってキョーコが指し示したのは白いこじんまりとしたマンションの画像だった。
他の物件とは少し違う、西洋風の外観が蓮の目を引いた。

「……見た目がちょっと……お城っぽいね?」
「そっ、そ、そうですか?」
「ほら、エントランスの所とか……凝った作りで」
「そ! そういえばそうですね! 細かい所までは、ちゃ、ちゃんと見てないんですけどっ」

真っ赤になって慌てるキョーコを見て、蓮は笑いを噛み殺しながらキョーコの選んだマンションをじっくりと観察する。

「こういうの……キョーコ好きそうだよね」
「いえっ! あくまで場所で選んだだけで! 私の好みとはあまり関係なく!」
「ふうん……そうかなぁ……」
「好みとかっ、そんなんじゃありませんからっ! もう敦賀さんはこれ以上見ちゃだめですっ!」
「どうして?」

わたわたと慌てながらディスプレイを隠そうとするキョーコを、蓮は取り押さえる様にして、今度こそちゃんと抱き寄せた。

「よく覚えておくよ」
「なっ」

腕の中で何かを盛んに叫びながら暴れるキョーコを抱きしめたまま、蓮はさっき見ていた夢を、遠くなった分、大きく膨らませていた。



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