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お仕事の後で─9の1

2011年01月24日 12:32

久々の更新、お仕事の後で、です。
一話完結でやるって言ったのはどうしたんだよ、と自分で突っ込んでおきます(汗

お仕事の後で─9の1

嘘の功罪─1/5









遠くでサイレンの音が聞こえる。
何度も何度も。
眠りの淵を彷徨う中、聞こえてきたそれは徐々に大きくなり、近くまで来た時にピタリと止まった。
近くで止まった事が気になって目が覚める。

キョーコがベッドから身を起こすと、横から小さく、甘い声が響いた。

「目……覚めちゃった……?」
「ん……敦賀さんも……ですか?」
「うん……近くで止まると気になるものだね……」

起き上がろうとしていたキョーコを蓮はそっと引き止め、代わりに自分がベッドから抜け出した。
静かにベランダの窓を開けて外に出て行く。

「火事……ちょっと近いかな……」
「火事ですか……こんな時間に……」

時刻は深夜三時。
サイレンの音がその数を増やし、また鳴り響いてきた。
それでも、心配ないと確認した蓮はベッドに戻り、再びキョーコに寄り添った。
二人はなんとなく声を潜ませて言葉を交わす。

「こわいですね……大丈夫でしょうか」
「まぁ……大丈夫そうだよ……ここまでは影響なさそうだ」
「ここが火事になったりとかしたら」
「非常ベルが鳴るよ……そういう時はすぐに逃げるように」
「ふふ……それはもちろんです……それよりも火元にならないようにしなきゃ」
「あぁ、うん……それはそうだね」
「キッチンは勿論ですが、他の家電とか……ええっと……」

このマンションにある、火元となり得るような物について真剣に考えを巡らしているキョーコを見て、蓮は少し顔を綻ばす。
既にキョーコはこの部屋の"客"とは言えない位、居る事が特別な事では無くなっていた。

この部屋の住人になってくれるのはいつか──

蓮がぼんやりとその時が来るタイミング、言い出すきっかけ、必要とならば姑息な手段、などについて考え込んでいる間にキョーコの"火の用心"思考はかなり深くにまで進行していた。

「敦賀さん。この部屋のブレーカーってどこにありましたっけ?」
「へっ」
「目にしているようで……してないような……ちゃんと場所を覚えていないっていうか」
「…………」

ぶつぶつと呟きながら真面目に何か考えているキョーコを見て、蓮は思わず吹き出す。
眠る事を忘れてしまったキョーコは今にもブレーカーの位置を確認するために起き出しそうな勢いだ。
蓮は身体を起こし、そんなキョーコをベッドに繋ぎ止めるように上から覆いかぶさった。

「きゃ……敦賀さんっ」
「こんな時間に確かめなくてもいいだろう?」
「んー、でも一度気にすると、気になって眠れないといいますか……」
「そうか……じゃあ気にならないようにしようか」
「へっ」

ポカンとしたキョーコの額の上に、蓮の前髪がさらりと流れ落ちた。
気がつけばいつもの体勢で──
暗い寝室、ベッドの中で妖しく微笑んだ蓮は、キョーコを見つめながら静かに囁いた。

「大丈夫……すぐに気にならなくなる……から……」

そんな蓮を見て、キョーコの頭の中から"火の用心"は消え去り、頬はかっと熱くなる。

「なっ、な、どういう意味ですかっ……」

少し慌てたキョーコに構わず、蓮はキョーコを押さえつけたまま、その白い首筋に音を立てて吸い付いた。

「ひゃっ! つっ……敦賀さん……ま、またっ……こんな時間に……」
「目も覚めちゃったし……」
「なっ……ダ、ダメですよ! 明日……今日も早いのに……」
「うん……だから……早く……」
「あっ……やっ……」
「…………」
「んんっ……」

サイレンの音はもう聞こえなくなっていたが、二人はなかなか眠る事にはならなかった。





現場の準備が出来るまでなんとなく集まった出演者達。
蓮の隣には、遼子がいて何か会話をしている。
その横ではキョーコが若い女優達と一緒に集まってわいわいと騒いでいた。
二つのグループのちょうど中間地点で、社は両方の会話をなんとなく聞きながらいつもの手帳を見て今日と明日の予定の再確認などをしていた。

タイミングさえ合えば、なんとか近づこうとしている蓮とキョーコにはいつもいろんな障害が待ち受けている。
今日の形は、キョーコ達に向かっていた蓮の前に遼子が立ちはだかった状態だ。

(傍から見れば別に普通なんだけど……俺から見ると涙ぐましいよ……蓮)

自分の横にいる遼子の背中をちらりと見て、そんな事を考える社の耳に、両方の会話が途切れ途切れに聞こえていた。

「敦賀さん、今日は少しお疲れではありませんか?」
「いえ…そんな事は」


「京子ちゃん、なんか眠そうだね、夜更かし?」
「えっ……うーん…夜更かしって言うか」


「でも、ちょっとそんな風に見えますよ」


「睡眠不足は美容の敵だよう」


「寝不足かもしれません」
「お忙しいのですか?」


「目が……目が覚めちゃったです、夜中に」
「夜中に? なんで?」


「いえ、昨夜、少し外が騒がしくてですね」
「昨日の夜ですか? 何かありました?」



『深夜三時に消防車のサイレンが』



驚く位、シンクロした蓮とキョーコの言葉。
それは賑やかな現場が、まるで皆が申し合わせたように静まり返った僅かな瞬間に響き渡ってしまった。
続く沈黙。
ぎょっとした社がまずキョーコの方を見ると、今の二人の言葉が聞こえたらしい若い女優の一人がキョーコに話しかけていた。

「深夜に火事? こわいね……っていうか、京子ちゃんの家って敦賀さんの家と近いの?」
「えっ?」
「今、すごい同時じゃなかったー?」
「ええっ?」

状況をうまく把握できないキョーコは、その女優と蓮、そして周りにいた他の人間の顔を狼狽しながら順番に見回している。
次に社が見た蓮は、笑顔で平静を装っていたが少々フリーズ気味だ。
遼子はいつの間にか──キョーコを見つめていた。

「……LMEの娘はあの辺、住んでいる娘、多いんだよね」

社は咄嗟にありもしない事実をでっち上げた。

「そうなんですかぁ」

キョーコに話しかけた女優が社の言葉に反応した。

「まぁ、でもキョーコちゃんの所は蓮の部屋と……近いって程でもないかな? いや、結構近いか?」
「車なら……近い方かもしれません」

立ち直ったらしい蓮が適当に社に話を合わせた。

「まぁね。でも昼間はきっと道が混んでそうだから……消防車も到着が遅れそうだよな」
「深夜でしたから……返って良かったんですかね」
「そうかもな。不幸中の幸い? 大きい火事だったか?」
「そうでもありませんでしたが」
「夜中の消防車の音ってちょっと怖いな」
「そっ、そうですよねっ」
「アタシは爆睡しちゃうからすぐ近くに消防車来ても起きやしないって親に怒られちゃった事ある」
「あたしも結構大きい地震きても起きなかったって」
「あんた達、危機感がないなぁ。真っ先に死んじゃうよ~」
「あはは……」

何事もなかったように、賑やかに流れ始めた会話。
少し止まった空気も淀みなく流れ始める。
胸を撫で下ろした社だったが、蓮と遼子の会話はぴたりと止まっている事に気が付いた。

(あ、あれ……誤魔化し切れなかったのか?)

さっきまで盛んに蓮に話しかけていた遼子が沈黙していた。
様子が変わった遼子に蓮は少し戸惑っているようだった。
そんな二人の様子を見ていた社が内心焦っていると、スタッフが一人やって来て蓮に声を掛けた。

「すいません、敦賀君。ちょっといいですか? 監督が」
「あ、はい、今行きます」

蓮がその場を離れた。
他の若い女優達も、それぞれの準備に入っていった。
同じように動いたキョーコだったが、それを遼子が呼び止めた。

「京子さん」
「は、はいっ」

急に遼子に呼ばれ、慌ててキョーコは遼子の方に振り向いて返事をした。

「京子さん、お住まいはどの辺りかしら」
「えっ? 住まい?」
「そう」
「えっ、あ、あの、と、都内ですけど」
「都内……でしょうけど……もっと」

その場にいた社は大急ぎで自分のカバンから携帯を取り出す。
さも今電話が来てるかのように耳に当てると、秒数を数え始めながらキョーコを呼んだ。

10



「キョーコちゃん、事務所が呼んでる。ちょっと来てくれる?」
「えっ?」

急に社から呼ばれ、焦ったキョーコは遼子と社を交互に見回した。





「もう始まっちゃうかな? 急いで~! こっち、こっち」
「は、はいっ! す、すいません!」

キョーコは会話途中の遼子に軽く頭を下げると、早足でスタジオの出入り口に向かう社を小走りで追いかける。





「あ、あのっ……社さん?」
「…………」







出入り口を出てすぐ、社は握っていた携帯を素早くバックの中に放り込んだ。

「1、0……と」

ふぅと溜息をつき、ホッとした様子の社にキョーコは首を傾げながら呼びかけた。

「あ、あのう……」
「あぁ、ごめん、ごめん、電話は嘘」
「へっ」
「今の流れで……住んでいる所とか言わない方がいいよね」
「あ……」

さっきの出来事を思い出したキョーコは少し顔色を変えた。

「ごめんね? 咄嗟に俺がああ言っちゃったから」
「いえっ! とんでもないです……私がうっかりして」
「うーん、キョーコちゃんだけのせいじゃないよ」
「いえ、あのっ」
「大丈夫だと思うんだけど……後でちゃんと打ち合わせよう? それまではうまく誤魔化してね」
「は、はい……」

しゅんとしょげ返ったキョーコに社は穏やかな笑顔を向ける。

「大丈夫、大丈夫。ほら、もう撮影始まるみたいだよ、行かなくちゃ」
「あ、はい……」

社に少し弱々しい笑顔を返し、キョーコは現場へと戻っていく。
その後姿を見ながら、社はさっきの遼子の様子を思い返す。

(仁科さん、なんか感づいたか? いや、でも、消防車の音くらい別に……)

それでも、妙にぴったりとタイミングの合った蓮とキョーコの言葉。
そして"深夜三時"という時間。

(怪しもうと思えば、いくらでも怪しめるよな……)

撮影が開始された現場の様子を見ながら、社は腕を組んで今後の対策に考えを巡らせていた。



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