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5.真相

2010年02月06日 05:39

5.真相

「あー…携帯がない。どこかへ忘れたかな…」
「……車の中…じゃないか…?」

さっきまで持ってたろ、とぼそぼそ呟く社はぐったりした様子で控え室のソファにひっくり返っていた。

「なんですか、その格好は。だらしないですよ」
「うるさい。誰のせいだよ、とんでもない運転しやがって…」

そうぼやいた後、あんなの警察に見つかったらすぐ捕まるぞっまったく冗談じゃないっ、などと怒り出した社から逃げるように「携帯探してきますから」と言い残し、蓮は控え室を出た。


地下駐車場に駐車してある自分の車の運転席、フロアマットの上に、蓮は転がっている自分の携帯を見つけた。
いつ落としたのか、少し考えたが、さっきまでの荒れた自分を思い出し、蓮は考えるのをやめた。

(さすがに少し大人気なかったな…)

反省はしたものの、結局またしばらくキョーコに会えない状態が続くのかと思えば仕方ないじゃないか、などと心の中で言い訳をしてみる。
それでも、運転中は気をつけたほうがいいな、と社の様子を思い出しながらもう一度反省し、携帯を手にしてドアを閉め、ロックした時、後ろに人の気配を感じた。
TV局の地下駐車場であるここは、それなりに人も車も出入りする。
新しく入ってきた車はなかったように感じたが、これから帰る人だろうと蓮は特に気にも留めず、控え室に戻ろうとした時「敦賀さんっ」と震える声で名を呼ばれた。

…できれば聞きたくない声だった。

それでもゆっくりと振り向くとそこには蓮の予想通りの人物、国崎春奈が立っていた。
挨拶する気も起きず、蓮は無表情で、ただ春奈を見つめていた。
よく声を掛ける気になるものだ、意外と度胸があるな、などと妙な感心をしている蓮に春奈は半ば叫ぶように喋りだした。

「あっあのっ…本当にこの前は申し訳ありませんでした!」
「…………」

謝られても対応に困るんだが、と蓮は沈黙を通していたが、春奈はそんな蓮の様子に気づく余裕もないかのように必死だ。

「あんなことをして、ご迷惑おかけしてっ…怒っていらっしゃるのはわかっていますっ……で、でも!」
「………でも?」

でも一体なんだというんだ、少しそう非難の色をみせて吐かれた蓮の言葉だったのだが、蓮が反応したことで春奈が勢いづく。

「でも!あの位しないと、きっと敦賀さんは私のことなど気にも留めてくださらないと思って!」
「は?」
「あ、あのっ……ずっと前から好きなんです!敦賀さんが!」

蓮はあまりの予想外の春奈の言葉に混乱した。

俺が好き?
好きな男をスキャンダル捏造という罠にかけたのか?
いや、好きだから捏造したのか?
でも捏造してどうなる?
あぁ気に留めて欲しいんだっけ?
そういう意味なら確かに成功だ。
だけど…それって一体なんだ?
というか結局写真売ったんじゃないか、それはどういうことだ。
いやそのまま記事にされても困るけど。

蓮の考えていることがわかったかのように春奈は続ける。

「写真はちゃんとお返しするつもりだったんです!でも勝手に売られていて…」

目に涙を浮かべてそう叫ぶ春奈だったが、蓮はまったくその言葉を信用することができず、まさか今この瞬間にもどこかでカメラを持ってる奴がいるのでは、と辺りを伺い始めた。
そういえば、彼女はそれなりに演技力もあったよな…そこまで考えて春奈を見る蓮の目付きがよほど怖かったのか、春奈は一瞬顔を強張らせたが、再び、
「好きなんです!本当です!」
と叫んでいた。
その春奈の様子に「演技」は見えないな、と判断した蓮は…深く長い溜息をついていた。

───好きな男の気を引くためにあそこまでするのか?

確かに「国崎春奈」の名前は当分忘れられそうにないし、気を引くという点では大成功なのだが、好意になることも永遠にないだろう行為をなぜ彼女は決行したのか。
なにがそこまでさせたのか、と疑問に思った蓮だったが、ふと長い間キョーコに片思いしていた自分を思い出し…煮詰まると意外となんでもしてしまうのかもしれないな、と思った。
それでも今回の事はさすがにやりすぎだろうと考え
「今度のことはLMEの人間にも大勢対応してもらったんだ、もちろん社長にもね。…君の事務所はどこだったかな」
と、言った。
事務所を通して正式に抗議する、という気は、考えてはいたものの、この時点で既になくなっていた蓮だが、少しは強く反省してもらわないと、と思い、匂わせた発言をする。
すると春奈は顔色を変えて、ちらりと蓮の後ろの方向を見た。
振り向いた蓮は駐車場の出入り口に立っている一人の男の姿を見つけた。
春奈のマネージャーだ。

(ある意味、あっちが黒幕ってところかな…)

そう考え、その男の方に向かい掛けた蓮を「あ、あの…」と春奈が遠慮がちに呼び止めた。

(あー…そうだ…告白された…んだったな)
と、思い出し
「申し訳ないけど、好きな人がいるから君とはどうなることもできない」
あっさり、そして素直に告げた。

「………そうですか…」

暗い顔をして落ち込む春奈に「もう二度と今回のような真似はしないでくれ」と冷徹に言い、その反応を確かめもせずに蓮は男の方へ歩いていった。


男の近くまで来たところで蓮は
「…担当俳優で小銭稼ぎですか?あまりいい趣味ではないですね」
と、挑発的に言い放った。
おそらく違うかな、とは思っていた。
案の定、心外だとばかり男は
「違うっ…あれはカメラを頼んだ奴が勝手に暴走したんだ。今行方を追ってるから後で対応させてもらうよ」
と、語気を荒くして答えた。

「そうですか。まぁその辺は任せます」
とだけ蓮は答える。そして
「で、あんな写真でどうするつもりだったんです?俺を脅して彼女と付き合えとでも?」

おそらくあなたの入れ知恵なんでしょう?と睨む蓮に男は悪びれるどころかふてぶてしいとさえ思える態度で
「まぁそんなとこだ。……きっかけさえあればいいと思ったからな」
と、こともなげに言った。

「きっかけ、ですか…。脅されて付き合ったところでどうにもならないと思いますけどね」

そんなきっかけで始まる恋愛など聞いたこともない。

「君は隙がなさ過ぎたからね。それ位しないと。春奈とすれ違ったって形式通りの挨拶くらいしかしなかったじゃないか。そんな状態で普通に告白したってどうせあっさり断るだろう?そういう話をたくさん聞いていたからね」
「それはそうですが…」

正直、蓮は春奈とどこかですれ違ったことがあったかどうかさえも覚えていなかったが、さすがにそれを口にはできなかった。

「春奈は仕事も真面目だし実力もあるし性格だっていい。…悪くはないだろう?あんなに君を想っているし」
「想っているしって…」

想うだけでなんとかなるなら誰も苦労しない。
それがわからないような男にも見えないのに、といった意味も込めて蓮が男を軽く睨むと
「とにかく春奈を見てやって欲しかったんだ。それだけだよ」
そういって男は軽く自嘲気味に笑った。

蓮は改めて春奈のマネージャーだというその男をよく見た。
年は四十代くらいだろうか。
短髪で浅黒い肌にがっしりとした体格、おそらくマネージャー暦も長く、業界のことにも長けているだろうと思えた。

「………例の噂もあなたの仕業ですか?」
「まぁね、軽い下地作りのつもりだったんだが、君は人気があるからね、予想以上に広まったよ」
「下地作りって…。本当にもうやめてくださいよ」
「あぁもうやめるよ…どうやら少しも見込みはないようだからね。これ以上は春奈が傷つくだろうし」
「俺のことはどうでもいいんですね」
「自分は春奈のマネージャーだからね。春奈のことだけを考えている」
「……そうですか」

ここまでのやりとりですっかり毒気を抜かれてしまった蓮は、溜息をつき、もういいですとばかりにその場を立ち去りかけたが、
「噂は完全に出鱈目…じゃないみたいじゃないか。好きな女がいるとはね」
と、男に言われ、ぴたりと足を止め、振り返った。

「調査が甘かったなぁ。まぁ特定の女はいないだろうと思っていたからその辺はちゃんと調べなかったんだがね、どんな女性だ?付き合ってるのかい?」

男はそう続けて冷やかすような目で蓮を見る。
蓮は少しの間、沈黙していたが、さっきよりも幾分かトーンの落ちた声で切り出した。

「教える必要はないですね」

ギリギリ保っていた「敦賀蓮」はとうとう姿を消した。

「変な詮索も、それを口外するのもやめて下さい。また調査なんてことをしたら俺にも考えがありますよ?場合によっては…」

表情を一変させ、強い口調でそう言う蓮の様子に少し驚いた男は
「はは、そんな怒らないでくれ、別に誰か知りたいわけじゃないよ」
そう蓮を宥めるようにして笑って言った。

そんなんじゃ相手が知られちゃまずい──芸能人だって言ってるようなものだよ、と男は思ったが、さすがにこれ以上はまずいなと考えそれは口にしなかった。
業界大手のLMEから本格的に動かれたら、春奈だけでなくこっちの首もヤバイ、本当はあの写真のやり取りだって危なかったんだ、と男は内心冷や汗をかく。
もともと乱暴で危ない手段だったが、少し時間を置いてからあの写真を理由に春奈に行動させるつもりだったのにな、と写真を勝手に売った知人の男を恨めしく思う。
そして、これ以上「敦賀蓮」を怒らせるのは得策ではないな、とそろそろ撤退を考えた。

男が駐車場でひとり立ち尽くす春奈に目をやると、まだ逃がさないとばかり、蓮は身体を少し横に動かして男の視線を遮る。そして
「………あなたのお名前、まだ聞いていませんでしたね」
と、高い身長を生かし、見下ろしながら凄んで言う。その迫力に男は少し押された。

「…佐川だ」
「佐川さん……覚えておきますよ」

険しい顔のままそう言う蓮に、十以上も年下の男に押された自分が多少悔しく、佐川はそれを誤魔化す様に平静を装いながら興味深そうにゆっくりと蓮を眺めてから言った。

「こうして話してみると…随分印象が変わったよ。さっきの春奈への突き放しっぷりも見事だったし。これが本当の君かい」

佐川は多少、蓮の春奈への冷たい対応に抗議する意味も込めたのだが、蓮は意に介さずといった風で
「まぁ…そうですね。彼女も熱が冷めたんじゃないですか」
と、他人事のように言った。

「だといいけどね。…手間とらせたね、もうちょっかいは出さないから。……そのうち熱愛報道でもされるのを楽しみにしているよ」

そういって佐川は春奈の元へ去っていった。
蓮はそんな佐川を見送りながら、マネージャーとしてはきっと優秀なんだろうな、と思ったが、もう二度と関わりたくないな、とも思い、今度こそ控え室へ戻るために歩き出した。

(しかし……マネージャーが恋愛事で担当を煽るのが流行ってたりするのか…?)

蓮はキョーコとのことで自分をよく煽っていた以前の社を思い浮かべ、他にもまだそういう輩が多くいるのでは、と少し不安になった。



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