4.もみ消し

2010年02月06日 04:37

4.もみ消し

「あー例の件、握りつぶしておいたからな。ハハ、お前のスキャンダルを消す日が来るとはなぁ」
「……それはどうも」

あの日から数日後、LMEの社長室、いつものように形容しがたいがとにかく派手な衣装を身に纏いニヤニヤする宝田社長と、仏頂面で短い礼を言う蓮の姿があった。

「別にやましいことがねえならそのままでもよかったんじゃねーのか?」
「やましいことはありませんが意地でもいやです」
「ずいぶんと頑なだな。無遅刻続けてるように、スキャンダルもゼロで行きたいってか?」
「そんな事は考えてませんが…」
「じゃああれか、愛しい彼女に誤解されたくねーってところか」
「別にそういうわけじゃ…」
「ん?最上君には何も言ってないのか?」
「…あなたよりも早く言ってありますよ」

そりゃ、手回しのいいことで、と呆れた風に大げさなジェスチャーで両手を挙げた後、宝田はA4サイズの茶封筒を取り出した。

「ホレ、これだ。よく撮れてるなぁ」

そういって封筒から写真を出す。

「写真…あるんですか…」
「そりゃそうだ、買い取ったんだからな。大きく現像してみたぞ。お前の間抜け面がばっちり写ってるしな」
「悪趣味ですね…」

蓮はがっくりと肩を落とし、溜息をついた後、いやいやながらも写真を見てみる。
それはタイミングぴったりの、躓いた振りをした春奈が蓮に抱きついた瞬間の白黒写真だった。
「お前の話じゃマネージャーもグルっぽいんだろ?お前の噂を聞きつけての売名行為ってとこかと思ったんだが…」
宝田はそう言ってから少し首を捻る。

「…なんですか?」
「そんなことをする娘には見えねえんだよなぁ。それにそこまでしなきゃいけないほど売れてねぇってわけでもないぞ?」
「それはそうかもしれませんが…」

宝田は国崎春奈をそれなりに評価していたらしく、納得いかない様子で何度も「おっかしいよなぁ」と呟いている。
しかし、蓮はそんなことはどうでもよく、とにかく騒ぎにならなかった事だけに安堵していた。

「あと、写真はな、こっちから手を回す前に向こうから売り込んできたんだぞ?」
やっぱり、おかしいだろ?と言わんばかりの宝田だったが、蓮は興味なさ気に
「じゃあ金目的ですね」
と、あっさり返す。

宝田はそんな蓮をつまらなさそうに横目で見る。

「芸能人のスクープ写真なんざそこまで高いモンでもないぞ?まぁ、お前のはちょっと相場より高くついたがな。さすがだな」
「うれしくありません」
「なんだよ、少しは誇れよ。……まー、結局、何がしたかったのか、よくわからねえんだよなぁ、正直なところ」
「はぁ…まぁそうですね…」
「あぁもうなんかすっきりしねえ!まったく、余計な手間くわせやがった上に考え事まで増やしやがって!もう少し気をつけやがれ!」

憤慨してそう怒鳴る宝田に、何か必要以上に怒られてるんじゃないか?と少し不満に思う蓮だったが、対処してもらった事に大人しく感謝し、社長室を後にして待っていた社と合流した。


事務所を出る前にラブミー部が気になった蓮だったが、社に「キョーコちゃんならいないよ~」と先手を打たれ、渋々と次の仕事場へ向かう。

「まぁとにかく変な記事にならなくてよかったよ。せっかく今までスキャンダルなしでやってきたんだしねぇ」
移動の車中の助手席でそういう社に蓮は
「別にそういうつもりでやってきたわけじゃないんですけどね」
と、ぼそりと返した。
スキャンダルがどうこうではなく、とにかく変な注目を浴びて…キョーコに会い辛くなる、蓮はそれだけが嫌だった。
「まーそうだろうけど、どうせなら最初はキョーコちゃんと…じゃないのか?」
「どうせならって…」

でもその通りだな、と、つい蓮は心の中で社の言葉に同意してしまったが、それを悟られないように微妙に話題を変える。

「そろそろ…噂も飽きられたんじゃないんですか?なんの記事にもならないし……もういいんじゃないですかね?」

我慢するのも限界だ、と思い、それとなく「許可」を求めてみるつもりでそう言った蓮だったが、
「うー…ん…それがさぁ……」
思いの外、反応の悪い社。
そんな社の様子に嫌な予感が沸いてくる蓮。
「…なにか…あったんですか…?」
社の表情がたちまち曇る。
「噂がさ…収まるどころか悪化して広がってるんだよ…」
「は?」
「…一体どこから漏れたのかわかんないんだけど、噂の中で……名前が出ちゃってるんだよ」
「名前って…」
「お前がつきあってんのは国崎春奈らしいってね」
「なっ」
「で、うちがもみ消したことも微妙に漏れてて…妙にリアリティ増しちゃってさ……ます…ま、す…」

見る見るうちに表情が険しくなっていく蓮を見て、社は最後まで言葉が続けられなくなった。

「ちょっ、落ち着けよ、な、蓮。さ、さすがに名前がでるのはおかしいと思うからちゃんと調べる!事務所の方にも頼んであるし!な、オイ」

必死でなだめる社をよそに、すっかり凶悪な顔付きになってしまった蓮は乱暴なハンドル操作で車線変更を繰り返しながらアクセル全開で車を走らせていた。



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