仕返し

2010年11月10日 01:06

ちょっと力の抜けた小話をひとつw
こういうノリは久しぶりかも。
いたずら─深夜Versionのその後、みたいな。



「おかえりなさい!」
「た……ただいま」

最近、連絡なしで彼女が俺の部屋に来るようになった

今日のように、玄関に入ってすぐに出迎えてくれる事もあれば
ベッドの中ですやすやと眠る姿を発見する事もある
どんな場合でもキッチンには簡単な食事が用意してあって
それを食べる俺をにこにこと見守る彼女の姿や
食べるよう促すメモが食卓を飾ってくれる

いつ訪れるかわからない幸せな夜
もしかしてと期待した夜は大抵裏切られる
今日はいないだろうと思う夜に限っていてくれたりする
俺の、そして彼女のスケジュールにさえ左右されない不意打ちの訪問
作為のない彼女の行動を予想するのは難しい

それならば、最初から期待しないで帰ればいいのだろうけれど
期待しないで帰ろうと思う事は、やっぱりどこかで期待しているのと同じ事で
結局、毎晩、玄関の扉を開けた瞬間に彼女の気配を探すようになった

ずっと続けてきた、彼女への定期連絡
会えない日の俺と彼女を繋ぐその糸は
交わす会話も、電話の向こうの彼女も、前と特に変わらない
しかし、俺だけが一人、何気ない会話から彼女のその日の様子と状況を探ろうと必死になっていく

今日は会えるのか、会えないのか
来て貰うしかない立場の俺がそのまま聞いたらそれは彼女の負担になる

「キョーコちゃんは罪作りだねぇ」

そんな俺の変化をずっと横で見てきたマネージャーが
ニヤニヤしながらぽつりと言った

「放っておいて下さい……」
「もちろん放っておくけど……仕事に影響出てきたら考えるよ?」
「影響なんて出ていないでしょう?」
「今はな」
「…………どう考えるっていうんです? まさか彼女に来るなとか」
「言わない、言わない。おかげで俺は前より楽になったからね。そろそろマズイんじゃないかと思ってスケジュール表と睨めっこする事もなくなったし」
「…………」
「ま、そのかわり、今度は毎日仕事終わり間際にそわそわする担当俳優の様子が気になるわけだけど……そうだ、携帯のGPSとかで」
「本人に知られないように使うのはさすがにどうかなと……」
「そりゃそうだよ……なんだよ、本気で考えた事あるな? 軽い冗談だったのに」
「…………」

気を許しすぎて隠しておくべき自分をうっかりさらけ出してしまう
長い付き合いのマネージャーの冷たい視線が俺に突き刺さり少し痛い

「残念ながら俺はお前の頭の中まで管理できないから……キョーコちゃんがいたらラッキー、程度に抑えておけよな」
「そんな事はわかっています……だから電話で直接問い質したりしていないじゃないですか」
「電話で必死に探りを入れるのもやめろよ……」
「ちゃんと約束できてゆっくり会える機会が増えれば……そんな事はなくなると思いますが?」
「いや……今のところ……しばらくはちょっと……そんな余裕は」
「じゃあ、放っておいて下さい」
「…………」

呆れたのかどうかわからないが
それっきり社さんはこの話題に触れることはなく
電話に全力を注ぐ俺を見て見ない振りを決め込んでいる


今夜、彼女はいなかった
思い切り深い溜息をついた俺は
それでも大人しくシャワーを浴び
明日のために、いつの間にか一人では広く感じるようになったベッドに潜り込んだ
元々、来て貰えるような時間じゃない
期待できるようになっただけマシじゃないかと無理矢理前向きに考えながら──


そして迎えた次の日の朝は
俺に新たな変化をもたらした

「これは……反則だろう?」

キッチンに置かれたコーヒーカップとサンドイッチ
そして、彼女の気配が残った小さなメモと弁当箱
彼女がここにいないのが不自然な位の状況に
早朝から少し狼狽えて声を出して独り言を言う
もしかしたら昨夜彼女はどこかに隠れていたのではないかと思い
慌てて部屋中を捜索するがどこにも彼女の姿はない

納得いかないまま、身支度をした俺は
黙々とサンドイッチとコーヒーを口にし
弁当箱を片手に仕事に向かう

彼女の弁当を手にしながら不機嫌な俺が珍しいのか
社さんの追撃が激しい
かわし切れなくなった俺が大人しく今朝の状況を告げると
何か思い当たるふしでもあるのが、社さんは少し考え込む

「そういえば……急に入った仕事があるって聞いたかなぁ……時間が遅いとか早いとか言ってたような」
「…………」

ようやく出来た空き時間、俺は携帯を握る
繋がるかどうかは微妙だったが、彼女に会えなかった分、運が残っていたのか
直接彼女と会話する事ができた

『今日はとても早い時間に予定があったので緊張して眠ったら早く起きすぎてしまいまして』
「うん……」
『時間があったのでお弁当作って持って行ったんです』
「サンドイッチも?」
『あれは敦賀さんのお部屋で作ったんですよ』
「………起こしてくれればよかったのに」
『忙しいんですから、睡眠時間は大事ですよ?』
「うーん……まぁ、そうなんだけど……」
『食事もちゃんとして下さいね』
「キョーコ……」
『はい?』
「睡眠よりも、食事よりも、キョーコに会う方が大事」
『えっ』

電話越しでも彼女が焦って慌てている様子がわかった
真昼間に、雑然とした仕事場の片隅で言う台詞じゃないなとは思ったが
今の俺に出来る最大限の仕返しはこれくらいで
次に夜会えた時にはもっと、などと思いながら電話口で精一杯虚勢を張り
彼女を狼狽えさせるような愛の言葉を次々と電波に乗せる

「早く結婚できるといいな……」

電話を終えた俺に向けられた
冷やかしでもなく、遊びでもない感じのマネージャーのその言葉に
俺はなぜか少し打ちのめされながら
再び彼女がいる事を期待しながら帰宅する日々に戻る事にする
この日を境に、夜だけでなく朝までもが彼女を期待する時間帯になっていった



コメント

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  2. Kanamomo | URL | EO0B5AXI

    ようこそです!

    はじめまして!
    コメントありがとうございます。
    のんびりペースで活動中ではありますが、楽しんで頂けたのならよかったですっ。
    ヘタ蓮好きwなのでしょっちゅう蓮がヘタれてしまいますが(笑)かわいく見えましたでしょうか~。
    一笑いして頂けると喜びます♪笑ってやって下さいですw

    これからもよろしくお願いいたします♪

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