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お仕事の後で─8の6

2010年09月17日 01:04

長くなった8ですが、これで最後になります。

お付き合い下さった方々ありがとうございました!


お仕事の後で─8の6

MissingPink─6


「おはようございます」
「おはようございまーす」

撮影現場に入ったキョーコは既に待機していた蓮の姿を奥に見つけた。
同じ現場にいるのは久しぶりで、それだけでキョーコはどこか少し嬉しくなる。

しかしその隣には───いつもの主演女優。

(すっ、姿見ただけで喜んでる場合じゃないのよ……きょ、今日は……)

今日こそは、遠くからこそこそとその姿を伺っているだけの自分を少し変えたいとキョーコは思っていた。

(今だって仁科さんにはあんまりよく思われてないみたいだし……だったら少しくらい私だって敦賀さんと……)

ぐっと拳を握り、二人に割り込んでいうべき言葉を色々と考える。

(ええっと……まず、おはようございます……それから……それから……)

「…………」

続く言葉が何ひとつ思い浮かばないキョーコは、蓮と遼子の方に一歩踏み出したものの、そのまま硬直してしまっていた。

「おっはようございまーす」
「おはようございま~す。あれ、京子ちゃん……どうしたの、そんなところに突っ立っちゃって」
「あ……お、おはようございます……」

その間にクラスメイト役の若い女優達が次々と現場入りしてくる。
結局、キョーコはいつも通り、彼女達の輪に入り、他愛の無い会話を交わしていた。

(……やっぱり私って意気地なし……勇気が足りないんだわ……)

自分にがっかりしたキョーコは肩を落とし、半分ぼんやりとした状態で賑やかな会話に耳を傾けていた。
その時、突然周りにいた皆が一斉に大きな声で挨拶をした。

「お、おはようございます!」
「おはようございます!」

その声の大きさに驚いて、キョーコが彼女達が見ている方に振り向くと、いつの間にかすぐそばにまで蓮がやって来ていた。

「おはよう」
「おっ……おはようございますっ、敦賀さん!」

慌ててお辞儀するキョーコに蓮は近づくと、持っていた白い紙袋を差し出した。

「……なんでしょうか?」
「これ……事務所の方からね……渡してくれって頼まれたんだ」
「えっ?……そうなんですか?すいません、敦賀さんにそんな……」

キョーコには事務所から渡される物など何も思い当たらなかったが、とりあえず受け取り、袋の中身をちらりと見る。
そこにはなじみのあるピンク色が見えた。

「!!」

キョーコは驚いて頬を赤らめ、大慌てで抱きしめるように袋の口を閉じた。

あの夜の次の日の朝。
キョーコはどうしても蓮に弁当を作りたいと思っていたが、起きてから色々あり、かなり時間が押してしまっていた。
それでも短い時間で奮闘し、なんとか完成させ、蓮に持たせる事はできたものの、気が付けば自分の予定がある時間もギリギリにまで迫っている。
キョーコは蓮の部屋にいつも少しだけ置いてある自分の服に着替えると、大急ぎで部屋を飛び出していた。

ピンクのつなぎは蓮の部屋に置き忘れたまま──

「す、す、すいませんでした!わざわざ」
「いえいえ」

袋を抱え、狼狽えるキョーコに蓮はにっこりと微笑む。
そして、そのままキョーコの周りにいた女優達に話しかけた。

「聞いた事なかったけど……みんな、本物の高校生なのかな?」
「はい!そうで~す!高校生です!」
「ひとり十九歳がいまーす!」
「なっ、いいじゃない言わなくて!」

蓮に話し掛けられて彼女達のテンションがあがる。

「敦賀さんは……女子高生はお好きですか……?」

以前、危ない妄言を言った事のある長い茶髪の少女が相変わらず独特の雰囲気で、ぼそりと蓮にそんな事を聞いた。
一瞬、蓮を始め、皆、引いてしまったが、少し引き攣りながらも蓮が笑顔で答えた。

「き、嫌いじゃないですよ?でも何かその聞かれ方は……」
「そうよ、そうよ。なんか親父に聞いてるみたいじゃない」
「親父はひどいなぁ……」
「や、やだ!もちろん敦賀さんの事じゃないですよー!」
「これでもまだ二十一ですから」
「そうですよね!でも敦賀さんはすごい大人っぽくて」

わいわいと盛り上がっていく会話。
遠くでちらちらとこちらを伺う遼子の姿がキョーコの目に入った。
普段、キョーコも含めて彼女らにあたりの厳しい遼子はキョーコ達の方には近づきにくいようだった。
そして蓮はそのまま、キョーコと若い女優達との会話に興じている。
いつもとは少し違う、会話の輪の形。
大勢の人数の中での蓮とのささやかな逢瀬だったが──自然とキョーコの顔も綻んでいく。
やがて、撮影準備ができたというスタッフの呼び声が聞こえた。

「始まるみたいだね」

各自が準備に入る。

「じゃあ、京子さん、それからそこのお嬢さん方、よろしくお願いしまーす」
「はーい」

キョーコは蓮から受け取った紙袋を一時、どこかに置いておこうと場所を探す。
すると、社がやって来てキョーコに声をかけた。

「キョーコちゃん、それ、とりあえず俺が持っててあげるから」
「あ、すいません、社さん。お願いします」

キョーコはすまなそうに社に紙袋を渡すと、ペコリとお辞儀をして、セット内へと向かって行った。
そんなキョーコの背中を見送っている蓮の横に、社はそっと近づいて囁いた。

「微妙に……姑息な手段?」
「別に……俺は何も?」
「ふうん……まぁいいさ……今度、今時の女子高生の話題になるような事でも調べておこうか?」
「そっ……そこまでしなくていいです……」

思わず顔を顰めた蓮を見て、社は声を殺し下を向いて笑った。
ふと目に入った、紙袋の中のピンク色。

「ん……なんだ、キョーコちゃんのつなぎか。何持ってきたのかと思ったよ」
「覗かないで下さい」
「覗いてない…見えただけだよ。というか、つなぎだろ?別に」
「いいから……見ないで下さい」
「なんだ?……おい、他にもなに…か……入ってるのか……」

つなぎと一緒に置いて行く可能性があり、人に見られたくないキョーコの衣類の種類を想像して、固まってしまった社の手から蓮は紙袋を乱暴に取り戻す。
社はそんな蓮を呆れたような目で見て、小さな声で呟いた。

「うわ……お前やっぱり親父」
「なっ、親父って……なんですか……失礼な」
「じゃなかったら大雑把……もう少し考えて持って来いよ……こんな袋にいれて」
「他にいいのが見つからなかったんです……」
「別に全部持ってこなくてもいいだろ?……置いとけよ、お前のとこに……」
「気に入っていたものだったので……無いと寂しいんじゃないかと」
「そっ、そんな事をだな、俺に報告するなっ」
「社さんが聞いたんじゃないですか」
「聞いてないだろっ」
「聞いたも同じですっ」

現場の隅で、難しい顔をして静かに言い争いをする敦賀蓮とそのマネージャー。
その様子を見た、通りすがりのスタッフがなにかトラブルですかと心配げに聞きにきて、二人の会話はそこで終了した。




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