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お仕事の後で─8の1

2010年09月10日 21:02

一話完結でやるといったくせに!……と自分に自分で突っ込んでおきます(汗
なんだか妙に長くなりました。スイマセンorz

あんまり間は空けないようにUPいたします。


お仕事の後で─8の1

MissingPink─1



以前はあんなに嫌だったショッキングピンクの服も、久しく着る機会がないと少し寂しささえ感じられるくらい、キョーコにはなじみのものになっていた。

(まぁ……だからといって着たい、って事もないんだけど……)

久しぶりにラブミー部のつなぎに着替え、予定のなかった午後、キョーコは事務所の雑務に精を出していた。


「あら、珍しいわね。雑用?」
「モー子さん!」

散乱した書類をまとめ、整えていた時、部室に奏江がやって来た。

「今日は午後から暇だったの。だからちょっとお手伝い」
「ふーん、あんたは相変わらずマメねぇ。のんびりすればいいのに」
「まぁ、そうなんだけど……何かしてないと落ち着かないっていうか」
「じっとしてられない性質なのねぇ……だったら誰かさんの世話でも焼いてればいいんじゃない?」
「え……」

挨拶のように出てきた奏江の冷やかしの言葉に、キョーコの表情がたちまち曇った。
そのキョーコの様子に驚いた奏江は、少し慌てて恐々とその理由を聞いた。

「ちょっと……何、どうしたのよ……喧嘩でもしてるの?」
「えっ……あっ、違うの」

真剣に自分の様子を伺う奏江に気が付いたキョーコも少し慌て、激しく首を横に振った。

「喧嘩なんてしてない……っていうか、する暇もないみたいな」
「へ?」
「んー……あの…ね、ここ数週間、実物に出会ってないの」
「え」
「ここのところ、ずっと敦賀さんすっごい忙しくて……」
「今、あんたドラマで共演中じゃない。現場で顔くらい」
「そ、それが、今は私とはあまり絡まないシーンの収録が多くて……びっくりする位、日程が合わないのよ」
「そうなんだ……」
「帰るのはかなり遅い深夜で、出るのも朝早いみたいだし……そ、そこに押しかけるのも……」
「うーん」

押しかけても構わないのではないか、と思う奏江の横でキョーコは寂しげに溜息をついた。
奏江はそんなキョーコの様子を見て、その思いの先にいるだろう人物の事を考えていた。

(この子の方がこんな状態だなんて……向こうはどんな惨状になってるのかしらね……)

寂しげな親友の心配をしつつも、芸能界で一番忙しい男の今の様子を見てみたい、などと奏江が考えていた時、部室の扉がノックされた。

「最上君、いるかい?」
「は、はい!」
「お、琴南君もいたのか、こんにちは、琴南さん」
「こんにちは、椹さん」
「えーっと、最上君、いいかな?ちょっとお使い頼まれてくれないかな」
「あ、はい、なんでしょう」
「急ぎでね、この書類TV局まで持っていって欲しいんだ。大丈夫かな」
「はい、大丈夫です」

椹は分厚い書類袋をキョーコに手渡し、届け先の詳細を伝える。

「じゃあ、よろしくね。それ渡したら今日はもう帰ってもいいよ」

椹の言葉を受け、ニ人が見た時計は既に夕暮れを示していた。

「あら、もうこんな時間……そういえば主任に呼ばれていて」
「松嶋主任なら、今いないみたいだけど」
「えっ……そうなんですか?」
「何かあったみたいで、ちょっとバタバタしていたよ。まぁ、でもすぐ戻って来るんじゃないかな」
「そうですか。じゃあちょっと待ってみます」

部室を去って行く椹を見送った後、キョーコは自分の荷物と頼まれた書類を手に、出掛ける準備をした。

「じゃあ、私行くね~。またね!モー子さん」
「……あんた、その格好でいくの?そのまま帰るんでしょう?」
「あ」

キョーコは自分の着ているピンクのつなぎを見て、一瞬固まったが、少し考えた後、軽く埃でも払うように胸元を叩いて言った。

「んー、でも、やっぱりラブミー部の仕事はこれでないと!」
「まぁ……あんたが平気ならいいわよ……いまさら気にする事もないか」
「慣れって怖いわよねぇ」
「私は慣れてないわよ」
「えー、慣れようよ~!せっかくのお揃いよ?」
「……いやよ」
「モー子さん冷たぁ~い!」
「いいから……早く行きなさいよ。急ぎなんでしょう?」

頬をふくらませて拗ねるキョーコを奏江はさっさと部室から追いやった。





ドラマ収録を終えた蓮の控え室で、社は蓮に今日の予定に変更があった事を告げた。

「延期?」
「そう、向こうで何かトラブルがあったみたいでね。どうにか延ばしてくれって頼まれてさ。まぁ仕方ない」
「そうですか」
「明日から、より一層忙しくなるな……参ったよ」
「…………」

連日のハードなスケジュールで、さすがの社も疲れの色を隠せず、ふうと軽く溜息をつく。
その横で蓮も静かに溜息をついた。
身体の疲れもあったが、精神的な疲労の方が大きかった。

(顔も……見れていない……)

少しの暇を見つけてはキョーコに電話やメールなどをしていたが、殆どが一方通行なやりとりになっていた。
うまく感情の込められない無機質な文字の羅列と、機械を通した音声の交換でしのぐ毎日。
落ち着いて逢える日がまた遠のいた事に落胆し、無意識の内に暗い表情になってしまっていた蓮の横で、社はいつの間にかニヤニヤとした顔をして蓮を眺めていた。
そんな社を見て、蓮は訝しげな視線を向ける。

「……?なんですか?」
「……延期だって言っただろう?」
「はぁ……」
「だからさ、今日はこれで終わりなんだ。もう帰ってもいいよ」
「えっ」
「明日からまた忙しいから、今日は早く帰って休んでくれよ」
「え、あ、そ、そうですか……」

突然空いた時間。
時刻はまだ夕飯にも早い時間だった。
社の言葉を聞いて、蓮の視線はゆっくりと自分の携帯が入っているはずのバッグへと向かった。
冷静な振りをし、無表情のまま、さりげなく自分のバッグに手を伸ばした蓮だったが、次の社の言葉であっけなく崩された。

「さっき、そこでキョーコちゃん見たよ」
「えっ!」

目の色を変えて振り向いた蓮に、社は思わず吹き出した。

「まったく……なーに、なんでもないような顔してんだか……」

社は笑いを堪えながら、ばつが悪そうに目を逸らした蓮に言葉を続けた。

「届け物があってここに来てたみたいだよ。ここの場所と今日の予定変更、教えといたから……もうちょっとしたら来てくれるよ。一緒に帰ればいいよ」
「あ……ありがとうございます……」
「俺は事務所行かなきゃいけないから先に行くよ。俺は一緒じゃないのでうまい事やって帰る様にな。……キョーコちゃん、久しぶりにあのピンクのつなぎだったから、まぁ、なんか……大丈夫かな」

目に眩しいあのピンク色を思い出し、蓮も、キョーコがあの格好なら二人だけでも変に勘ぐられることもないか、などと考えた。

「じゃあな、お疲れさん!」

まだ仕事があるというのに妙にご機嫌な社が別れの挨拶をして蓮の控え室を出て行った直後、蓮は大急ぎで動き始めた。
無駄一つない動きで素早く着替え、帰る準備をしているうちに、段々と顔が緩んでいく。
頭の中で勝手にいろんな予定を立てているうちに気も緩み、扉がノックされた時、それがキョーコ以外の人間が立てたものであるなどと考えもせずに無防備に出迎えてしまった。

「敦賀さん、ちょっとよろしいですか?」
「……仁科さん…」

ついさっきまで現場で顔を合わせていた共演女優を見て、蓮は慌てて"仕事中の自分"を再び立ち上げる。
穏やかににこりと笑い、遼子に声をかけた。

「どうしました?」
「あのっ、先ほど監督さんからお話があった変更について、少し」

仕事の話ならば耳を傾けない事もないとは思ったが、既に蓮の中では今日の仕事は終わっている。
一刻も早く帰りたいと思っていた蓮は、この場を回避する理由を瞬時にでっちあげようとした。
しかし、最も適当だろうと考えた「次の仕事」は遼子の言葉で封じ込まれてしまった。

「さっき、マネージャーさんがお電話しているのが聞こえたんですけど…今日はもうお仕事終わりなのですよね?それで大丈夫かと思いまして」
「…………」

型どおりの"敦賀蓮"の笑顔が少し強張る。
社がどこで電話をしていたのかはわからなかったが、周囲に響き渡る大音量で話していたとでもいうつもりか、などと少し棘のある自分が目を覚まして毒づき、口を支配しそうになる。
辛うじてそれを抑えたが、その間に遼子は控え室の中へと入り込んでいた。

「どうでしょう?この後、お食事でもしながらお話したいのですけど」

当然断るべく、蓮が言葉を探していた時、いつの間にか閉じられていた控え室の扉が再びノックされた。

「あっ、監督さんかもしれませんね?まだ何かあるのかも……はーい」

当たり前のように大きな声で返事をし、扉に向き直った遼子に蓮は少し狼狽える。

(なっ)

止める間もなく遼子によって開かれた扉の外には───誰の姿もなかった。

「あら……誰もいませんね……いやだわ、いたずら?」
「……………」

"敦賀蓮"をなんとか繋ぎとめていた細い糸は、そこでぷつりと切れた。

蓮は無言で遼子に背を向け、自分の荷物を手早くまとめだした。

「あ、あの、敦賀さん?」

少し様子が変わった蓮に戸惑う遼子を無視し、蓮は淡々と作業を進めていく。
帰り支度を終えた蓮は、所在無く部屋で立ち尽くす遼子に向き直ると事も無げに遼子の申し出を断った。

「申し訳ありませんが、今日はこれから予定があるんです」
「あ、でも…あの…」
「仕事ではなくプライベートです。それでは失礼しますね」

蓮はこれ以上はないほどの上等な、しかし、嫌味なくらい作り物の笑顔を浮かべると、遼子をその場に放置したまま、急ぎ足で控え室を出た。




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