16.その時の社さん

2010年02月04日 16:38

16.その時の社さん


蓮とキョーコ、二人をしばらく睨むように見ていた不破尚が特に何も言わずその場を立ち去ったのを見て社はほっと胸をなでおろした。

(ヘタしたら傷害事件だったよな…)

尚と対峙していたさっきまでの蓮の様子を思い出し、社はぞっとする。


次の現場へ向かう途中、突然蓮がぴたりと足を止めた。
そして進行方向とは違う通路の奥をじっと見据えていた。

「どうした?」

社のその言葉に答えないまま、蓮は見ていた方向に歩き出した。

「おい?蓮、どこいくんだ」

社が蓮の進む方向に目をやると、そこにはキョーコらしき後姿と…不破尚の姿があった。
尚がキョーコの腕を掴み、なにか揉めている。
そこへ足早に蓮が近づいていく。

(うわっ…これって…)

急いで蓮の後ろを追いながら、社はこれからの展開を予想して対応策を必死で考える。
その時、
「なにが仕事だよ!ただの家政婦同然の女のくせによっ!」
と、尚の声が響き、急に蓮の動きが止まった。

(あっ……!)

今のはかなりヤバイ、社はそう思った。
短い時間でうまく考えがまとまらなかったが、とにかくヤバイと思った。
当然その声が聞こえただろう蓮は、凍りついたように動かなくなっていた。
一瞬、蓮に何か言いかけた社だったが
「家政婦家政婦ってしつこいのよっ!言っておくけどアンタの家政婦っていうならもう死んでもゴメンなんだからねっ!」
というキョーコの声に視線を奪われた。
そしてもう次の瞬間には尚の腕を捻り挙げる蓮の姿が見えていた。

「つ、敦賀さん!」
「蓮!止めろ!」

必死で蓮の腕にしがみつくキョーコに社も続いた。
「敦賀蓮」の仮面をかなぐり捨てた蓮は、それこそ触れるのにも躊躇う位の凶悪なオーラで尚の襟首を掴んでいた。

(頼むからやめてくれ!蓮!)

祈りにも似た思いで必死に蓮を止めようとする社をあざ笑うかのように尚の言葉が続いた。

「そんなに怒るなよ、ツルガさん…?」
「…………」
「こいつ…便利だろ?……だから譲ってやるよ、いい家政婦として」

(何てこと言うんだよ!!)

そんな尚の台詞に絶望しつつも、社は蓮を抑えることに全力を尽くす。

「つ、つるがさん…敦賀さんっ」

やがて、泣きながら叫ぶキョーコに気づいたらしい蓮は力を抜き、尚から手を離していた。



(と、とにかく…最悪な事態は回避できてよかった…)

そう思い、社は深く長い溜息をついた。
手を出してしまったら、蓮を嫌っている不破尚が黙ってはいないだろう、いやそのまま大乱闘になったのかも…社がそんなことを考えているとキョーコが蓮に必死に謝っている姿が見えた。

(キョーコちゃんが謝る必要なんてないんだけどな…)

そして、そのキョーコの足元に見慣れた紙袋が見えた。

(あっ)

社の頭の中に昨日キョーコと交わした会話が蘇った。
時計を見るとキョーコがここへ来るにはまだ早すぎる時間。

(もしかして、学校さぼってまで持ってきてくれたの、キョーコちゃんっ)

さっきまでの緊張がとけ、社の口元が緩んだ。
気になって蓮の様子を伺ってみるが、蓮は少し俯いて何かを考え込んでいるように動かない。
そんな蓮をキョーコも不安気にじっと見つめている。

社は辺りを振り返る。
人影はない。

それを確認した社はそっと二人から離れ、さっき歩いていた通路まで戻った。

(人が来るとしたらこっちの方からだな…)

そうして見張り番よろしく、通路の角に立ち、遠目で二人を見守った。
やがて蓮がキョーコに近づき、何か会話しているのが見える。

そして───キョーコを抱きしめる蓮の姿。

(おっ……うまくやれよ蓮?)

社はそれを見た後、満面の笑みを浮かべながら後ろを向き、明日からは違う方向で蓮で遊べるなぁなどと楽しげに思い、ギリギリまで待ってやるつもりで時計を見ていた。



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