続き妄想、ACT.161

2010年08月16日 09:57

続き妄想、ACT.161






「…社長───…」
「ん…?」
「やはり 俺には必要ありません ────御守りは」

その表情に暗い影を落としながらそう呟いた蓮を、宝田はしばらく黙って見つめていた。
やがて、ゆっくりと煙草を吹かしながら同じ様にぼそりと呟いた。

「随分と余裕がないな……?」
「……そんな事は……ありませんが……」
「何があったんだ……」
「別になにもありません……とにかく……必要ありませんから」

視線を合わせようともせず、沈んだ表情で頑なにそう言い続ける蓮を見て、宝田は溜息をついた。

「まぁ……お前がそこまで言うんなら仕方ねぇな……ヒール兄妹は……終了だ」
「そう……して下さい」

暗い表情のまま、蓮はそう答えた。
しばらくの間、沈黙していた二人だったが、宝田が発した次の一言で蓮の瞳に普段の色が戻ってきた。

「最上君は……別の男の所に行かせよう」
「は?」

宝田の言った言葉の意味が分からず、思わずその顔を凝視した蓮だったが、宝田は構わず言葉を続けた。

「お前ほどインパクトはないかもしれんが……まぁいいだろ」
「ちょ、ちょっと待って下さい……何の話ですか」
「何のって……最上君をお前の所に行かせたのはな、ラブミー部員としての仕事なんだよ」
「はぁ……」
「いつまでたっても成長しねえから……ちょいと荒療治のつもりだったんだ」
「荒療治?」
「作りもんの家族でもなんでもいいから、自分を必要としてくれる人間と一緒にいることで……必要とされることで彼女が忘れている気持ちを取り戻せねぇかなって思ってな」
「…………」
「お前なら適任かと思ったんだが……まぁ、お前も色々とあるだろうから無理強いはしねぇよ」
「あ…の…」
「今のお前と一緒にいると……へたすりゃ症状が悪化しかねんしな」
「…………」
「他にも最上君が必要で……大事に思う奴はいるからな。そっちへやってみるか」
「大事に……思う奴って……」

蓮の脳裏に、キョーコの幼馴染の──嫌いな男の顔が浮かんだ。

(大事になんて……思っていないだろ?あいつは)

さっきまでの暗い気持ちが吹き飛び、蓮は声を荒げて宝田に抗議する。

「しゃ、社長!いくらなんでも別の事務所の人間は」
「はぁ?……何言ってやがる、なんで別の事務所が出てくるんだ」
「へっ?」

予想していなかった宝田の答えに蓮はポカンとしてしまった。

「別の事務所にも誰かいるのか?……なんだ、意外とモテるじゃねえか、最上君」
「えっ……うちの事務所……なん…ですか?」
「俺は事務所内のそういう方面にはチェック厳しいぞ?社内恋愛は大歓迎だ。仕事に差し支えない範囲でな」
「だ、誰の所に……」
「お前にそんな事言う必要はねぇな」
「…………」
「うちの事務所のタレントだぞ、人間的にはまったく問題ない。……お前より素直だからかえっていいかもしれんな」
「社長……」
「また設定を考え直さなきゃいかんな……まぁ普通に代マネって手もあるか……」
「社長」
「それじゃつまらんなぁ……なにか面白い設定は……」
「し ゃ ち ょ う」
「なんだ」

どこかへ連絡しようとしたのか、派手な携帯を手にした宝田の手を掴み、蓮は低いトーンの声でゆっくりと、でもはっきりと言葉を発した。

「前言撤回します……」
「ふざけるな……今のお前じゃダメだ。俺のかわいいラブミー部員を任せられん」

そう言って宝田は蓮の手を振り解こうとしたが、蓮は強硬にその手を離そうとはしない。

「撤回します」
「うるせぇ、もう遅い」
「撤回しますって」
「しつこいぞ……なぁ、蓮、俺はな、別にお前と最上君を無理矢理くっつけようなんて思っちゃいねえんだ。お前の気持ちが分かっていたから優先してやっただけだ。それをいらねぇって言ったのはお前だろ?」
「て っ か い し ま す」

狭い車内で、宝田の携帯を巡り、蓮と宝田が熱い攻防が繰り広げていた時、車のドアを軽く叩く音がした。
その音で一時休戦となった二人の前に、そっと開かれたドアの隙間からジェリー・ウッズの顔が現れた。

「ダーリン、お話中ごめんなさ~い……いいかしら」
「どうした、テン?」
「今……キョーコちゃん、真っ青な顔して走って行っちゃったけど……何のお話してたの?」
「え」
「……もうセツは必要ないみたいだから、どうもありがとうございましたって……一体どういう事~?」
「…………」

少しだけ開いていた車の窓ガラス。
それを見て、蓮はさっと顔色を変えた。

「あーあ……ほら見ろ……どうするんだ、まったく……」
「…………」

次の瞬間、急に車から飛び出そうとした蓮の腕を、今度は宝田の方から強く掴んで引き止めた。

「どこへ行く。お前はこれから仕事があるだろう?」
「……っ」
「最上君も……仕事だろうが」

動こうとしていた体勢で固まった蓮は、そのまましばらく固まり続けていたが、やがてがっくりと肩を落とし、項垂れた。

「テンよ、悪いが……まぁ、もうちょっと待機していてくれ。また後で連絡する」
「はーい……」

ジェリー・ウッズが返事をしながら車のドアを閉めた後、宝田は運転手に声を掛けた。

「時間だ……出発してくれ」

動き出した車の中。
一人、頭を抱えて落ち込む蓮を見て、宝田はその腕を離し、再びゆっくりと煙草を吸う。
そして一言「バカめ」とだけ呟いた。




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