SilentRevenge─AfterStory

2010年08月11日 02:30

SilentRevengeの後日談になります。
オチですw





俺ばかりがいい思いをしちゃいけないなと考え、今夜は妙に力が入った。
彼女の目はもう虚ろで、額には汗が流れている。
白い肌に浮かぶ、淡いピンク色の部分はどれも紅く染まり、熱を帯びながら俺を誘う。
触れるたびに小さく震えるその身体の反応だけをゆっくりと追っていたつもりだったが、やがてその柔らかで滑らかな手触りを楽しんでいる自分に気が付いた。
結局、やっぱり自分だけがいい思いをしているんじゃないかと気が付いた俺は、少しペースを落とす事にした。

力なくシーツの上に投げ出された彼女の手の甲に軽くキスをして、一旦、その身体から離れた。
横からそっと腕に抱き、汗で額や頬に貼りついた髪を整えてやる。
しばらくの間、そのまま、ただ寄り添っていたが、彼女が少し落ち着いてきた所を見計らって、あのPVを見て気になった所の話を振ってみた。

「あれは……何かのお話が元にあるのかい?」
「えっ?」
「随分と髪の長い……お姫様だったけど」
「お姫様……ではないんですけど……ラプンツェルっていうお話で」
「へぇ……」
「……子供の頃は好きだったお話なので……ア、アイツに話した事があったのかも……しれません」
「子供の頃……は?」
「そうです……大人になってから読み返したら、なんだかあまり好きな話じゃなくって」
「そう……なんだ」
「そうなんです……今となってはなぜあんなに好きだったのかなぁ……なんて」

そう言って彼女はくすくすと笑った。
最後の彼女の台詞は、あくまで"ラプンツェル"という話の事なのだろうが、俺はつい、自分に都合のいい様な意味に解釈してしまう。

"ラプンツェル"がアイツの事を指し示しているように───

アイツの事をいまだに気にしている俺は……やっぱり心の狭い男なのかもしれない。
そんな自分を誤魔化すために、違う嫉妬を少し出してみる。

「PVでキスシーンだなんて……ちょっと驚いたよ」
「えっ、あのっ……」
「あぁ…キョーコを責めたりはしないよ……言われればやるしかないからね」
「そ……そうなんですけどっ……」

彼女はそう言うと、俺の首にぎゅっと巻きついた。

「それでも……アイツとキスなんてもう……とっても嫌で!」
「うん……」
「そ、それで……もう、どうしようかと思いまして……最終手段を!」

ぱっと顔を上げて彼女は強い口調でそう叫んだ。

「最終手段?」

まだ悩ましくほんのりと薔薇色にそまった白い頬と身体で、彼女は急に夜の顔を捨てて力強く叫びだす。
最終手段、とやらを聞くためにじっと彼女を見つめていた俺に、彼女はあの夜見せた微妙な表情で俺を見つめ返した。
そして言い辛そうに、モゴモゴと口を動かした。

「こ、ここはやはり敦賀さんにお願いしようかと」
「え?」
「アイツを……思いっきり敦賀さんだと思い込みまして……」
「あぁ……」

PVで見た、彼女の表情を思い出し、俺は静かに微笑む。
彼女が愛を語る相手は、どんな状況でも俺───それは俺には嬉しいことだった。
しかし、彼女は申し訳なさそうな顔で俺に謝罪の言葉を向けた。

「あ、あのバカと敦賀さんを一緒にするなんてっ……もう本当に申し訳ない気持ちで一杯なんです!」
「いや……別に構わないっていうか……寧ろうれし」
「それにですねっ、強く思い込みすぎたせいか、あのシーン周辺の数分…数十秒?…をよく覚えていなくて」
「へっ」
「その……覚えていなさ加減がですね……あの……なんといいますか……」

そこまで言って彼女の身体は頭の天辺からつま先まで茹で上がるように真っ赤に染まった。

「…………」

PVで見たあの彼女の顔は……いつもの夜の、彼女の理性が完全に飛ぶ少し前の顔。
あの後の彼女は、少しだけ大胆になる。
時々、戯れにその時の事を口にしてみると「そ、そんな事してません!」と言って彼女はいつも大慌てで焦リ出す。
照れ隠しでそう言っているのかと思っていたのだが、よく聞くと本当に覚えていない事も多く、それはそれだけ夢中になってくれてるという事か、などと内心喜んでいたのだが───

「……本当に覚えていないの?」
「少しだけの間なんですけど……それ位切羽詰っていまして」
「…………」
「あのバカと敦賀さんを一緒にした上、なにをやったかよくわからないし、アイツは何も言わなくなるし、でも麻生さんにはいい出来だって褒められて……PV見ても全部は使われてないようでしたし」
「キョーコ……」
「はっ、はいぃ!」

ならべく冷静を装っていたつもりだが、どうにも隠し切れない想いがあるせいか、彼女はぴょこんと飛び上がるように身を起こし、正座をした。
顔色を変え、俺を見る彼女はつむじの辺りの髪が数本跳ねた様に立っている。
怒っちゃいけない……そう自分に言い聞かせ、寄った皺を隠すようにして眉間に手を当てた。

撮影現場での事だ。
周りにはたくさん人がいる。
そしてカットされた部分だって、そんなに長い時間じゃないだろう。
アイツのあの様子じゃ、彼女のその状態に気付いてそれに便乗し、アイツから何かしたとも思えない。

大した事はしていないだろう……そう考えて、久しぶりに俺の中に沸いた、どす黒い嫉妬心を隠すためにできるだけゆっくりと話す。

「もう……アイツからの仕事が来ても受けるの禁止」
「へっ!」
「ダメ、もう絶対にダメ……別に断ったって負けじゃないんだ。一緒に仕事する必要なんてない。キョーコはキョーコで自分の仕事を頑張っていけばいいんだ……」
「はっ…はい……仰るとおりでありますっ……」

目をぐるぐるさせて正座をしたまま妙な敬礼をする彼女を見て、俺はようやく自分の状態に気付く。
アイツが絡むとどうしても剥き出しの感情が表にでる……少し反省し、眉間に当てた手でコツンと自分の額を叩き、気持ちを落ち着かせる。
そして、まだ硬直したままの彼女に出来る限り穏やかに笑って見せた。

「うん……じゃあ消毒しておこうか」
「は?」

消毒なんてとっくに済んでいる。
でも、念には念を……と、俺は彼女の柔らかな頬に手を当て、その唇にそっとキスをした。

「ん……」

そのまま、ベッドに再び倒れこむ。
さっきの続き、なのだけれど、今度は執拗にキスを繰り返す。
そのまま朝までキスだけで攻める勢いだったのに、気が付けばいつも通りで。
いつそうなったかを覚えていない俺の目の前には、いつの間にかそれは柔らかで優しく愛しい彼女の笑顔があった。
これだけはアイツには永遠に見られる事はないのだろうと思った俺は細かい事は忘れてその夜は彼女と一緒に穏やかに眠りについた。





「お前なぁ……椹さんに笑われちゃったぞ。なんだよ急に、あの時はあんなに余裕だったのに」
「色々と事情が変わったんです」
「いつどこで変わったんだよ……最初は『彼女が決める事です』なーんて言ってたのに」
「……聞きたいですか?」
「いや、全然」
「…………じゃ、いいじゃないですか」
「そうなんだけど、不破からの仕事はキョーコちゃんに伝わる前に全部断る様に頼んでおくなんて直球なやり方、お前らしくないなぁって思ってね」
「この件に関してはなりふり構わない事にしたんです」
「ふーん……ま、いいけど。どうせなら最初っから素直にそうやっとけばキョーコちゃんがアイツとキスすることもなかったのにな」
「………っ」
「物分りのいい彼氏を装おう、なんて無理するから」
「なっ……そ、そんな事はっ」
「そりゃキョーコちゃんは女優だし、他にもいろいろあるけど……きっと不破に関しては一生変わらないんじゃないの?そのスタンス」
「………」
「まっ、不破絡みの仕事だけにしとけよ?調子に乗ってキョーコちゃんの他の仕事にまで手を出したり」
「しません!」

覚悟はしていたとはいえ、社さんに滅多打ちに合う俺。


彼女は勝ち負けを気にしていたようだけれど、そもそも仕事を利用してきた時点である意味アイツは負けている。
そして俺も勝てるわけはないわけで……最初っから彼女の大勝利は決まっていたようなものだ。

負けても幸せだと思う俺は、これで満足しておくべきだろうと思って、この件はできるだけ思い出さないようにする事にした。




コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/206-c65303e8
    この記事へのトラックバック