SilentRevenge

2010年08月11日 02:30

二人で奴に復讐を…のつもりで書いたのですが、ちょっと違う方向に曲がった気がします(笑)
キョーコと尚の接触がほんのちょっとでもあると嫌!な方はスルーでお願いします。
基本的には奴にダメージを与える話のつもりです。





珍しく、今夜は彼女の方からソファに座る俺の膝の上に乗って来て、ずっとくっついている。
でも残念ながら、その表情はあまり冴えたものではない。
何も言わないが、色々迷っているのは確か。

「……そんなに悩むのなら……断るのも手だよ?別に一緒に仕事しなきゃいけないってわけじゃない」
「…………」
「キョーコはキョーコでちゃんと仕事をして、ちゃんと成長してるよ……それで充分だろう?」
「そうなんですけど……」

難しい顔で考え込む彼女。
その彼女がテーブルの上に置いていたバッグから携帯の着信音がした。
その音に驚いたのか、びくりと体を震わせてから彼女はバッグを見たが、黙って見ているだけで電話を取ろうとはしない。
彼女を抱きかかえたまま、代わりに俺が彼女のバッグから携帯を取る。
それでも彼女は何も言わない。
沈黙を続ける彼女の目の前で見た携帯には「非通知」の文字。
この時間に事務所からは滅多に電話はかかってこない。

心当たりは一人だけ。

彼女と見つめ合い、無言の了解を得て、俺は彼女の携帯に出た。

「もしもし」
『……なんでてめぇが出るんだよ……俺はキョーコに電話してんだ、出せよ』

予想通りの声が聞えて来た。
俺の腕の中にいた彼女にもそれが聞こえたのか、たちまち彼女の眉間に皺が寄る。

「代理だ」
『ざけんな……いいから出せ』
「用件はわかってるから伝えておく。じゃあな」
『ちょっ……オイ!』

問答無用で電話を切る。
俺の手の中にある自分の携帯をしばらくじっと見つめていた彼女は、急に決心したとばかり立ち上がり、力強く宣言した。

「やっぱりっ……やります、私!」
「キョーコ」
「ここで断ったら負ける気がします!」
「勝ち負け……になるのかな」
「わ、わかりませんけど!……断ったらアイツが勝手に勝ちを宣言しそうな気がするんです!」
「うーん……」

ぼんやりとだが、逃げたな?と言って彼女に向かって不敵に笑うアイツの顔が思い浮かんだ。
おそらく俺よりも鮮明にそれを思い描いているだろう彼女は、俺の前でアイツのその顔を殴り飛ばさんばかりに拳を握りしめている。

「キョーコがそう言うのなら……俺も止めないよ」

少し癪に障るが、確かに逃げたように思われるのも腹立たしいだろう。
ただ、彼女への正式な仕事の依頼となると俺には手出しできないのが歯痒いだけだ。

「仕事に託けて、アイツがおかしな真似をしないかが……少し心配だな」
「そんな事しようとしたら、今度こそぶっ飛ばしますからっ!」
「……キョーコが怪我したりしないようにしてくれよ?」

殴る時は親指を中に握りこんではダメだよ、と、つい、余計な事を教えてしまった。





(用もないのに……現場に乗り込むわけにもいかないしな……そもそも、その前に自分の仕事がある……)

彼女がアイツとの仕事に行った日。
やっぱり、どうしても彼女の事が気に掛かる。
そしてそんな俺を見て、当然の様に社さんが突っ込んできた。

「まぁ……あくまであっちも仕事なんだし……大丈夫だろうとは思うけど、よくお前許したなぁ」
「許すも何も……彼女に来た仕事ですから……彼女が決める事です」

前回のPVの評判が良かったから、という理由で彼女に舞い込んだ、不破尚の新曲PVへの再出演依頼。
残念な事に、仕事としては悪くはない。
むしろ、以前よりも少し知名度も上がった彼女にとってはプラスになる仕事だ。

(アイツの私情が挟まってるのが、気に入らないけどな……)

PVの詳しい内容までは俺にはわからない。
しかし、採用されたのは彼女一人。
どういう相手役になるのかなんて……改めて考えてみなくてもわかる。

相手が誰であろうと、そしてどんなシーンだろうと、演じてみせるのが役者の仕事。
彼女も一人の役者、女優としてその道を確実に歩みだしている。

わかってはいても、心は騒ぐ。
ましてや、今回の相手はアイツだ。

移動の時間、休憩の時間、ちょっとした合間に思い出し、つい目付きが険しくなる。
ふと、社さんの視線を感じ、我に返った俺が慌てて取り繕うとした時「まぁ今日はいいよ」と軽く流された。
不思議な事にそう言われた事で、少し気分が楽になった。





「あ……」

玄関を開けた途端、目に入った彼女の靴。
廊下の向こう、リビングから灯りが漏れている。
迎えに出てきてくれる様子はなかったので……なんとなく足を忍ばせて近づいていく。
TVもついていない静かなリビングのソファに、彼女がうつ伏せで突っ伏すように倒れ込んでいた。
眠ってしまっているのか?と思い、そっと声をかける。

「キョーコ……?」

小さかった俺の声に、彼女は大きく反応して、すごい勢いでその身を起こした。

「つっ!敦賀さん!おかえりなさいっ!」
「た、ただいま……」

彼女のその勢いに驚いてしまった俺の前で、彼女はPVへの出演を決めたあの夜のように力強く喋りだした。

「今日のし、仕事は!きっちり!ばっちり!やり遂げてきましたからっ!」
「そ、そっか……なにかおかしな事は」
「おっかっしっな……事なんてなにもありません……でした!えぇ、ありませんとも!」

例によって強く拳を握りしめ、叫ぶようにそう言いきった後、彼女は急にスイッチが切れたようにプツリと止まり、視線が宙を舞った。

「キョ、キョーコ?……キョーコさん?」

目の前で掌をヒラヒラさせてもなかなか戻ってこない。
仕方がないので、俺はそんな彼女を抱きかかえてソファに座った。
そのまましばらくの間、彼女が俺の元へと帰還するのを待っていたが、黙っていると一晩中帰って来ないような気がしたので、そのこめかみに軽くキスをした。

「ほぇ?」

ようやくその瞳に俺が映る。
彼女は目の前にある俺の顔を見て、少し驚いたように目を瞬かせ、やっと普段どおりの彼女になった。

「あれっ!ご、ごめんなさい……私、ぼーっとしてました?」
「すごくしてた……大丈夫?」
「だ、大丈夫です!こ、こんなの、なんでもありませんからっ!」

こんなの、の詳細をとても聞きたかったが、また彼女が遠くへ行ってしまいそうな気がしたのでぐっと堪える。
すると彼女は真剣な目で俺を見つめ、急に……俺に問いかけて来た。

「なっ、なんでもないですよね!」
「へっ」
「なんでもないって……言って下さい!」
「や、あの、キョーコ……?」

何が何だかわからない俺は唐突な彼女の問いかけに戸惑ったが、彼女は……瞳に涙をいっぱい溜めてなんだか必死だ。

「なんでも……ないよ?」

言われるがままに発せられただけの俺の言葉で、彼女は安心した様に俺に抱きつきしばらく動かなかった。

(…何……やらされたんだ……)

霧のように掴めない不安が沸いた俺に対して、この後の彼女は普段どおりの彼女に戻っていた。
でも、いつもより甘えがちで、時折、俺を見て何か言いたげな微妙な表情をする。
問い詰めたい気持ちが何度も膨れ上がったが、暗く落ち込んだ気配はなかったので、今日撮影されたPVを実際目にするまでは我慢しようと決めた。





「はい、これ……例の奴」
「あぁ、すいません。ありがとうございます」

ようやく俺の手元に届いた、あの日撮影されたアイツのPV。
受け取ろうとした時、社さんは妙に難しい顔をして俺に向かって差し出したDVDを中途半端な位置でとめた。

「……なんです?」
「お前……やっぱ見るよな……これ……」
「そりゃ見ますよ……なんですか、あんまりいい出来じゃないとか」
「いや、いい出来だと思う……キョーコちゃん、可愛い……というより綺麗だったよ……」
「へぇ……」

アイツのPVの中に、綺麗な彼女がいるという事に既に不愉快な気持ちが沸いたが、それでも黙って手を伸ばし、社さんの手にあったDVDを奪うように受け取った。

「明日は……取材とかの仕事は入っていないな……なら、まぁ大丈夫かな」

受け取ったDVDを素早くバッグに仕舞いこむ俺を見ながら、社さんが独り言のように呟いた。

「なんです、今から明日の仕事の心配ですか?今日はそんなに忙しいんでしたっけ?」
「いや、別にいつも通り……お前、それ今日の夜見るんだろ?」
「多分見ますけど……そんなに長いPVじゃないでしょう?」
「長さは別に……明日のお前の機嫌を心配してるだけ」
「…………」

彼女といい、社さんといい、二人の様子は真綿で首を絞めるようにじわじわと俺を追い詰める。
軽く眩暈がしてきたが、それでも俺はこれを見なくてはいけないと思った。





仕事を終え、帰宅した自分のマンションのリビング。
今夜は一人。
もう就寝するだけの状態の俺は、覚悟を決めてDVDをデッキにいれた。

流れてきた奴の曲。
歌も曲も悪くはないとは思うが、気分は急降下していく。
音を消してやろうか、とも思ったが大人気ないなと思い、我慢してそのままにした。

画面に現れた彼女は、前と同じ様に髪の色も瞳の色も違った。
透き通るような碧色の大きな瞳。
きっちりメイクされた彼女は───とても綺麗だ。
アイツのPVじゃなければ、何度だって見たいのに、と少し恨めしく思う。
長い金色の髪は一本に編みこまれていて……本当に妙に長かった。

(ずいぶんと長いな……)

西洋風の古く高い塔のような建物の天辺の部屋にいる彼女。
古めかしいドレスを着た彼女のその編みこまれた長い金髪は、窓から流れ、下の地面にまで届いていた。

(こんな話、どこかで聞いたような気もするが……なんだったかな……)

彼女好みのメルヘンの世界の話がモチーフになっているのかな、と考える。
アイツの……考えそうな事だ。
それでも俺の知らない彼女の好みをアイツは知っているのだと思うと、そんな所でまた腹が立つ。

少し気が散ってしまった俺が次に目にしたシーンは、アイツが窓から彼女の部屋に入る場面。
アイツにしては地味だったが、所謂、"王子様"風の格好なんだろうな、と思った。

部屋の中にいた彼女は、それは嬉しそうに、笑顔でアイツの元へと駆け寄った。

近づいた二人。

ピクリと頬を引き攣らせた俺の目の前で、画面の中の彼女はアイツの首に手をまわし───彼女の方から誘うように笑ってアイツにキスをした。





「おはようございます」
「おはよう……」

いつも通りの朝。
いつも通りの朝の挨拶をする俺に、社さんは思わず笑ってしまう位、慎重に挨拶を返してきた。

「なんですか……人を化け物でも見るような目付きで見て……朝から失礼ですよ」
「あー…いや、別にそんなつもりじゃ……蓮君の今日のご機嫌はいかがかなぁと思って」
「別に普通ですよ」
「そうか…?なら…いいんだけど………お前、あれ見てないの?」
「見ましたが」
「そっ……」
「いいんですかね、あれ。アイツはあんなのでも一応人気のあるミュージシャンでしょう?ファンとかに変に恨まれちゃ彼女が迷惑です」
「えっ…あっ……あぁ、そういう問題もあるかな………って、最初の感想がそれかよ。随分と余裕が出てきたんだな……お前……」
「余裕なんて……ないですけどね。そうじゃなくて……」
「なくて?」
「あー…いえ、まぁ……」

例え仕事でも、アイツと彼女がキスをする場面など、腹立たしい事には変わりない。
バレンタインの日のあの場面が脳裏をかすめる。
昨日見たPVだって、もう二度と見ることはないだろう。

でも───

「今日は……TBMでしたよね、最初」
「えっ?あ、あぁ、そうだよ」

無理矢理、話を切り上げた俺に、少し戸惑った社さんだったが、黙って運転に集中しだした俺にそれ以上は突っ込んでこなかった。
いつも通りに仕事の予定についての会話をしながら仕事先に向かう。
普段と変わらない、俳優とそのマネージャー、だったのだが、TBMに近づくにつれ、社さんの挙動がおかしくなった。

「あー、蓮、ホラ、早く、こっちこっち」
「…………」

地下駐車場に車を止めて降り、歩き出した瞬間から、社さんは俺の前を早足で歩き、辺りを少し伺い、誘導するように俺を手招きしながら進んでいく。

(変な所で……うまく誤魔化せない人だな……)

俺の事なら、怖いくらい敏感で鋭い癖に自分の動揺は隠せないんだな、などと思ったが、マネージャーである社さんに役者並の演技力を求めるのもおかしな話だ。
それに、そのお陰で、アイツが今、ここにいる事を確信する事ができた。

(ちょうどいいタイミングだ……)

社さんの誘導を無視し、アイツがいそうな場所に向かって俺は歩き出す。
そんな俺を見て、慌てたように社さんが追って来た。

「お、おい、蓮!どこ行くんだ!」
「まだ時間は大丈夫でしょう……」
「いや、その、そうなんだけど……どこ行くんだよ!」

社さんの制止を振り切り、俺はアイツを探す。
一つだけ───確認したい事があった。

早足で歩く局内の廊下。
彼女の事になると、俺の勘は冴え渡るような気がする。
普段、さほど気にした事もない局内の構造や、俺には関係のない番組の時間編成などが次々と頭の中に浮かぶ。
そして面白いようにスムーズに、マネージャーと一緒の……アイツを見つけた。

アイツよりも先に俺の存在に気付いた、アイツのマネージャーが俺を見て、立ち止まる。
そして、それに続いてアイツも振り返った。

俺に気付いたアイツは───怒りに満ち溢れた、突き刺さるような目で俺を激しく睨みつけた。

「…………」

そのアイツの目を見ただけで、思わす口の端が上がってしまう。
我ながら、性格が悪いな、とは思うが、どうしても笑ってしまうのを抑えられない。
勝ち誇ったようなアイツの顔も一応想像していたのだが、今、俺の目に見えているのは……まさに俺の望んでいた通りのアイツの顔。

それを確認しただけで満足した俺は、アイツに挨拶ひとつせず、そのまま振り返って今来た道を戻る。
自分の方へ戻ってくる俺を見て、どうやらその場で固まっていたらしい社さんがほっとしたような顔をし、再び俺と一緒に歩き出した。

「……驚かすなよ……喧嘩売るのかと思った……」
「……しませんよ、そんな事は」

そもそも喧嘩を売って来たのはアイツの方。
しかも、俺が手を出しにくい方法で。
仕事を理由に彼女とあんなシーンを演じて見せたのは、俺に対する嫌がらせ。
そして、もしかしたら、彼女の中にまた入り込む隙間でも見つける気だったのかも知れない。

俺が買いたくても買う事ができなかった喧嘩を一人で受け止めた彼女は、俺の分まで上乗せしてアイツに叩き返してくれた。
それにアイツが気が付いているのかどうかを……知りたかっただけ。

アイツの顔を見て、こんなにも気分がいい事なんて今までなかった。

(聞いてみたいものだよ……自分の好きな女が、他の男を思いながら見せたあんな顔で、自分にキスしてきた時の気分を)

アイツにキスをした彼女のあの顔は……俺の部屋でしか見せない、俺の前でしか見せない、俺だけの顔。
衣装を身につけている事に違和感があった位の、普段の彼女とは違う、夜の顔。

どこまでアイツにわかったかは知らないが、彼女がアイツを全く見ていない事ぐらいはわかったはずだ。

(少し……サービスしすぎだね……キョーコ……)

あの夜、彼女の様子が変だった理由に、それも含まれているといいんだけど、と思った俺は、早く彼女に会いたいと思い、電話ができる時間が来るのを仕事が始まる前から待っていた。





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