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お仕事の後で─7

2010年07月24日 02:15

お仕事の後で─7


彼はベッドの中では優しかったり、激しかったり、その日によって微妙に変化する。
今夜の彼がどんな人かなんて……始まってみなければわからない。
何が彼を変化させているのかわからない私は、何度数を重ねても、予想をつけて心構えをするなんて高度な技術を身につけることができない。

どれ位の時間、こうして肌をあわせているのかさえも、もうわからない。
何度も大きな波を超えて、意識を保つのがやっとだった。
既に力も入らず、シーツの上に横たわるだけの私の身体を彼はたやすく抱き上げる。
その力強ささえ、どこかで魅力的に感じている私はもう今夜は完全に彼の虜なのだろう。

瞳を閉じたまま、人形のように自ら動こうとしない私の唇に彼の唇が重なる。
甘い吐息とともに入り込んでくる舌になんの反応も返さないのは、静かでささやかな拒絶の意味なのだけれど、今夜の彼には通用しないようだった。

激しいキスの後、大きな手で髪を掻き揚げられ、彼の指がそっと私の瞼をなぞった。

瞳を開けて?

声には出していないけれど、そんな彼の言葉が指先から聞こえた気がした。
開きたくなどない。
どうせ目に入るのは、どんなに乱れていてもいやになるほど綺麗な男の姿だ。


固く瞳を閉じたままの私に、彼は手法を変えてきた。
今夜はずっと無口なままだったのに、急に私の耳元に唇を寄せて小さく私の名を囁く。
その甘い響きと、耳朶に微かに触れる唇の感触に身体が反応してしまう。
思わず漏らしてしまった声。
それを合図に彼は私の耳朶を軽く噛み、そのまま舌を耳の裏から首筋へと這わせていく。

「あっ……あ……」

僅かな抵抗の時間は終わりを告げ、再び私は彼の全てに翻弄される。
でも、彼の熱い手が私の胸を弄った時、急に昼間、現場で聞いた共演の女の子達の会話を思い出した。




「ねっ、聞いた……?」
「なにをー?」
「この間さ、敦賀さんと仁科さんのベッドシーンあったでしょ」
「あー、あったみたいね。敦賀さんとベッドシーンなんて、アタシだったらもう倒れちゃいそう!」
「それでさ……仁科さん、本気で脱いでやったらしいわよ」
「えっ!マジで?……仁科さんってそういうのNGな人なんじゃなかった?」
「だと思ってたんだけどさー、本人がやるって言って」
「うわぁ、すっごーい」
「相手が敦賀さんだからって……もっぱらの噂よ。気合入ってるんじゃないの~?」
「ひぇ~!でもあたしだったらどうかなぁ……自信ないよー」
「その貧弱な胸じゃねぇ……」
「なんだとう!胸は大きさじゃないよ!形よ形!」
「なに、形なら仁科さんに勝てる自信あんの?」
「くっ!……痛いところを!」
「あははは、あんた達なんて会話してんのよ~」




わいわいと楽しそうに会話する彼女達の声が頭の中に遠く、でも大きく響き渡った。
一緒に笑いながら聞いていたのに、胸の奥に密かに沸いた苦くて痛い複雑な想い。
それを思い出し、その痛さから逃れたくて、咄嗟に残っていた僅かな力で彼から身体を離そうとした。
けれど、それは逆に彼の行為を増長させた。
反対に強く引き寄せられ、ずっと私の中にいた彼が急に大きく動き出す。
少し落ち着いていた私の中が急激に熱を上げた。

「や………」

身体を揺さぶられながらも急に目に見える抵抗を始めた私を、彼は再びベッドの上に縫い付ける。
逃げる事など許さないとでもいうように強く押さえつけられ、荒々しく身体の中を掻き回される。
これ以上は怖いと思う自分と、素直に快楽を楽しむ自分が反発しあう。
彼が動くのと一緒に揺れ動く私の心と身体。
今にも消し飛びそうになっていた理性的な私の唇に彼の指が触れる感触を感じた。
無意識の内に、口を開き───それを噛んだ。

「つ……」

彼の動きが止まり、痛みを訴える声が小さく聞こえた。
それでも彼の指を噛んだまま、ゆっくりと目を開けてみると、そこには少しだけ眉を顰めた、でもやはり綺麗な彼の顔があった。

乱れていた前髪の間で伏せられていた瞳が私の視線に戻ってくる。
ずっと彼の指を噛んだ状態の私を見つめ───やがて彼は妖しく笑った。

「猫……みたいだね?」
「…………」

もっと強く噛んでやろうかしら、と思った瞬間に乱暴な勢いで彼の指は私の唇から離れた。
そしてすぐに今度は違う指が次々と私の口の中へ入ってきた。

「ん……んんっ……」
「いいよ……もっと強く噛んでもいい……」

そう言いながら彼は差し込んだ指をゆっくりと私の口の中で動かした。
同時に違う場所に差し込まれていたものも再び熱く激しく動かされる。
残っていた理性は形を変え、緩やかに身体の中から流れ出て消えていく。

「んんっ……!」

彼の荒い吐息が耳だけではなく肌の上から直接身体に染み込んでくる。
じわじわと身体の奥底から沸き上がってくる熱。
首筋を流れていく汗。
身体中の細胞がざわめき立ち、強烈な勢いで押し寄せる快感。
自分で自分の身体が制御できなくなり、煽るように口の中で蠢く彼の指を、つい強く噛んでしまう。
それでも彼の指は逃げ出すことなく、私の口の中に居座り続けた───





「あら、敦賀さん、どうかされたんですか?」

撮影が始まる直前、手から絆創膏を剥がす蓮の姿を見た遼子が声をかけてきた。

「どこかお怪我を?」

さりげなく触ろうとした遼子の手から、蓮は不自然にならないギリギリの速さで自分の手を遠ざけた。

「いえ、怪我というほどでは……ちょっと猫に噛まれましてね……」

逆の手で傷のあった指を隠すようにしながら、蓮はそう言って愛想よく笑った。

「猫?……敦賀さん、猫を飼ってらっしゃるんですか?」
「いえ、飼ってはいなんですよ……飼うのは……ちょっと難しいかな……」
「そうですよね、お忙しいと……あぁ、でも猫なら、いらっしゃらない時は自由に外に」
「とんでもない。飼うなら完全室内飼いですよ」
「そ、そうですか……そうですよね……」

急に強い口調でそう主張する蓮に遼子は少したじろいだ。
蓮はそんな遼子を気にすることもなく、一人静かに微笑む。

「猫……好きなんですよ……」

独り言のようにそう言って、傷のある自分の指を口元に寄せて、軽く舐めた。
ちらりと見えた紅い舌。
どこか妖しささえ漂うその蓮の姿に、隣にいた遼子や、近くにいた女性スタッフが数人足を止め、頬を染めながら釘付けになっていた。

「…………」

少し離れた場所から蓮と遼子の会話を聞いていた社は、猫なんてどこにいたんだ、と疑問に思っていたが、最後の蓮の様子を見て、"猫"が何を意味するのかを悟った。

(なんか……余計な事言って、余計な事やってるな……後でキョーコちゃんに言いつけてやる)

周りを見回し、蓮に熱い視線を送る女性の数の多さに溜息をつき、キョーコの心労を思いやる。
見えない場所なら構わないからもっと噛み付いてやればいいんだ、などとマネージャーらしからぬ事を思いながら、社は撮影開始を知らせるスタッフの声を聞いていた。




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