青い鳥

2010年06月28日 17:53

自分では珍しい片想い蓮からスタート。
最後はいつも通り(笑)の小話をおひとつ。


青い鳥


ちょっと休憩に───そんな小さな理由を必死で握り締めてラブミー部の部室へ足を向ける。
休憩なんて、どこでだってできるのだけれど、社さんがそう話を振ってくる場合は……部室に彼女がいる時。
もう隠しても無駄だという事を悟っている俺は素直に訳知り顔のマネージャーに従うことにした。
何か飲むもの買ってくるからと言い残し、一人どこかへ行ってしまうマネージャー様。
俺は部室の扉の前で少しだけ自分を整えた後、軽くノックをしてからゆっくりと扉を開けた。

目に入ってきたのは、とても嬉しそうな顔で携帯を見ている彼女の姿。

「こんにちは、最上さん」
「あっ、敦賀さん!こんにちは!」

彼女はそのままの笑顔で俺に挨拶をしてくれた。
期待していたとはいえ、いきなり俺を直撃する彼女の……可愛い笑顔。
もうこれだけで用が済んだ気にもなったが、来た早々やられてどうする、と思い直し、何がそんなに彼女を喜ばせているのか探りを入れた。

「どうしたの?ずいぶんと嬉しそうだけど」

俺の問い掛けに、彼女はパッと顔を輝かせて手にしていた携帯を俺に向けながら近づいてきた。

「こっ、これ、見て下さい~!ちょっとわかりにくいかもしれないんですけど」
「ん?」

彼女が俺に見せてくれたのは携帯の画面に映し出されている一枚の画像。

「どこかの……森?木の写真?」
「えっと、今日ロケで行った場所なんですけど……木がメインじゃなくてですね、ここなんです、小さいけど」

彼女は画像の中央を指差した。
そこには僅かに青い色が見える。

「これは……何かな?」
「これはですね、青い鳥なんです!私、青い色の野鳥なんて初めて見ました!」
「へぇ……」

深緑の木々の葉と枝の隙間に少しだけ見える小さな青い鳥。
彼女はその画像を俺に見せながら、本当に嬉しそうに今日の出来事を語ってくれた。

「野鳥の写真を撮っている方がいまして、教えてくれたんです、青い鳥がいるよって。携帯のカメラで写せたなんて運がいいね、なんて言われちゃいました!珍しくはない鳥なんだそうですけど人が近づくとすぐに飛んで逃げちゃうみたいで」
「そうなんだ……それにしても、ずいぶんと嬉しそうだね」
「私、普段運が悪いですからっ!きっとこんな事滅多にないと思いまして!」
「はは……」

青い鳥の写真を撮れた事が嬉しいのか、運がいいねと言われた事が嬉しいのか、よくはわからなかったが、彼女が嬉しそうにしているのを見ているだけで……なんだか俺まで嬉しくなった。
幸運の青い鳥、って奴の効果かな…などと思っていた俺に、再び彼女は目を輝かせて勢いよく言った。

「そうだ!この写真、敦賀さんにも差し上げましょうか?縁起がいいかもしれません!」
「へっ」

いつの間にか縁起物になっていた青い鳥の写真。
少しおかしな方向になっているのはわかったが……彼女が俺にくれるというものならなんでも欲しいと素直に思った。

「あ……じゃあ」

そう言いかけたところで、突然、俺に向けられていた彼女の携帯が鳴り響いた。

「あっ!……す、すいませんっ……も、もしもし!最上です」

手にしていた携帯を慌てて確認し、恐らく椹さんからだろう電話にしばらく応対していた彼女は通話を終えると───その携帯をパタンと閉じた。

「すいません、私、椹さんに呼ばれましたので、これで失礼しますっ」
「あ、あぁ……うん、仕事だね、頑張って…」
「はい!敦賀さんもまだこれからお仕事ですよね?頑張ってください」
「うん…」

丁寧にお辞儀をして部屋を出て行く彼女を笑顔で見送った後、もう部室には誰もいない事をいいことに大きな溜息をつく。

(写真一枚で……何へこんでるんだ……俺は……)

一目ではそれとわからないような、小さく微かに、その色だけが写った鳥の写真。
それなのに……どうしてもそれが欲しかった自分がいた。

目前で逃げていってしまった小鳥。

掴まえることができる日は来るのかな………

そんな事を思いながら、もうすぐ迎えに来るはずのマネージャー様に理由を説明できない落ち込みから早く脱出しようと自分を立て直す努力をした。




* * *




「そ…んな事…ありましたっけ…?」
「覚えてないんだ……」

俺の帰宅をリビングにあるノートパソコンでネットをしながら待っていた彼女は、そのディスプレイに青い鳥の画像を表示させていた。
どうやらあの鳥の事を思い出していたらしい彼女は、鳥の名前を調べていたようだった。
それを見て、あの日の事を思い出し、彼女になんとなく言ってみたが、彼女は俺に写真を見せたことさえ覚えていなかった。

「あっ、いえ、あのっ……あの時は随分と浮かれていましてっ!いろんな人に見せてまわっていた記憶はあるんですが……」
「ふーん……」

無意識のうちに不機嫌な顔になってしまったらしい俺が、そのままの顔で着替えるためにクローゼットへと向かおうとした時、急に俺の左足に彼女がしがみついた。

「おっ、おっ、怒ってますね?」
「怒ってないよ?」
「嘘です~!絶対怒ってますっ!」
「怒ってないから……」

そう言って再び歩き出そうとしたが、床に座り込みながら俺の片足にしっかりと抱きつく彼女のせいで動けない。
見下ろしてみれば、少し涙目になりながら俺を見上げ、必死に足に縋り付く彼女の姿。
そんな彼女の姿を見ただけで、怒ると言うよりも子供の様に拗ねていただけの自分はあっという間にどこかへ消え去ってしまった。

「ほら……怒ってないから……歩けないよ?」

心からそう言って出来る限り優しく微笑んだつもりだったのだが、彼女はまだしっかりと俺の足にしがみついたままだ。
俺は向きを変え、彼女の手を取ると、そのままその身体を子供の様に抱き上げた。

「ほーら、怒ってない、怒ってない」
「なっ!……こ、子供じゃありません!」

俺に抱き上げられた彼女は真っ赤になって少し暴れたが、俺は強く力を込めて体勢は崩さない。

「子供だなんて思ってない」
「大体ですねっ……そんな昔の事で拗ねるなんて敦賀さんの方が子供」
「そんなに前の話じゃないだろう?」
「結構昔の話ですよ?」
「そうかなぁ……俺にはつい昨日の事のように」
「あっ!やっぱりまだ怒ってるじゃないですか!」
「怒ってない、怒ってない」
「嘘です~!やっぱりまだ……ってどこ行くんですか!」
「どこがいい?」
「へっ」
「寝室か……バスルームか……」
「なっ、なんでその二択なんですか~!」

また少し暴れだした彼女を再びしっかりと抱きしめると、俺は無難な所で寝室へと向かった。
寝室へ入った後、何か叫んでいる彼女を片手で支え、後ろ手できっちりと扉を閉める。

青い鳥が逃げ出さないように───










「も、もうっ……降ろして下さいっ!」
「ダメダメ……飛んで逃げちゃうんだろう?」
「えっ?」

俺の言葉で彼女の動きが止まる。
チャンスとばかりに、そのまま一気にベッドへと一緒に倒れこんだ。
俺に覆い被さられ、次の展開を覚悟したのか、ベッドの上の彼女はもう抵抗する素振りを見せなかった。
その代わり、静かに俺を見つめてぽつりと言う。

「飛んで逃げちゃうって……私がですか?」
「まぁ……ね」

思い切り逃げられてしまったあの日を思い出し、少し苦笑いする。

「私が……青い鳥なんですか……?」
「もちろん……」

俺に幸せを運んできたのは君。

「どちらかというと…私…よりも…敦賀さんの方が……」
「俺?……俺は鳥って柄じゃないけど……」
「柄って……そ、そうじゃなくってですね……」

あぁ、でも妖精の国の王子様だったな…などと思い出してはみたが、彼女の言いたい事とは少し違うようだ。

「あの……ですから……青い鳥っていうのは……」

彼女はまだ色々と言いたげだったが、俺はもうそれには構わずにその唇を塞いだ。




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