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お仕事の後で─3

2010年06月10日 01:25

お仕事の後で─3


「そりゃ、設定は少し過激かもしれないけど、ドラマの中じゃ仄めかす程度の描写しかないだろ?」
「…………」
「だから事務所もOKを出したし、キョーコちゃんもやるって言ってるし」
「……なぜ、複数の男、なんですかね……いいじゃないですか相手が一人だって」
「そりゃ、お前の見せ場作るためだろうよ。カラオケBOXでその連中の中からお前がキョーコちゃん助けだすんだろ。相手が一人じゃいまいち迫力がないんじゃないの?」
「…………」

蓮の演じる主人公に振られたキョーコは、その傷心の隙をつかれて素行の悪い男にひっかかる。
その男には同じ様に悪そうな仲間が数人いて、キョーコはその男と仲間に、いいように遊ばれている状態になっていた。
蓮はそんな連中と一緒にいるキョーコの姿を目撃し、ハメをはずし、カラオケBOX内でキョーコに好き放題する男達の中からキョーコを救い出す、ということになる。

ドラマの設定に文句を言う蓮は珍しいな、と思いつつ、社はハンドルを握りながらぶすっとした顔をしている蓮を見てこれから向かう仕事の現場での蓮の様子を心配する。

(……まぁ…仕事に影響させることはないと思うんだけど……)

心配する社をよそに、蓮はまだぶちぶちと文句を言い続けていた。

「設定だけって言ってもですね、変なイメージがついて……影響がでたらどうするんですか」
「なんだよ、変なイメージって。キョーコちゃんは普通の女の子の役で、別に悪いイメージは」
「ですから……そのシーンですよ。ドラマで描かれるような連中がいるような場所にキョーコがいて、目をつけられたりしたら」
「キョーコちゃんがそんな場所行くかよ」
「カラオケBOXは行くんじゃないですか?」
「カラオケBOXにそうそう、そんな性質悪い奴らは集わないぞ」
「そうとも限りませんよ……時間帯によっちゃ変な連中もいますよ」
「時間帯ってどの時間だよ。お前が気にする時間にキョーコちゃんが一人でカラオケBOXいかないだろ」
「……何かの打ち上げとか、付き合いとかで」
「そういうのなら他にちゃんと人がいるじゃないか」
「たまたま一人になった隙にとか……」
「おいおい……お前なぁ、そんな事言ってたらキョーコちゃんどこにも行けなくなるじゃないか」

呆れ顔の社に視線を向ける事なく、蓮は赤信号の待ち時間の間、苛々しげに指先でハンドルを叩く。

「お前が助けに行くんだからさぁ……いいじゃないか、別に」
「どうせなら、最初っから助けたいですね」
「…………」

蓮の言葉を受けて、社はあらためてドラマの内容を思い返す。
カラオケBOXのシーンはあくまで主人公の蓮に目撃させるためのもので、キョーコのその状態はこの時が初めてというわけではなかったはず。

「なるほど……もう設定自体が気に入らないんだな?でもさ、キョーコちゃんは主役二人の仲の障害みたいな存在になってるんだから、こういう扱いになっても……まぁ仕方ないんじゃないかと」
「ここまでやる必要あるんですかね」
「そう言われてもなぁ……まぁちょっと刺激的な部分が欲しいんじゃないの?主役の仁科さんをこうは扱えないだろうし」
「…………」

久しぶりに見る、真っ黒なオーラに包まれる蓮に少し脅えながら、社は、青信号とともに動き出すだろう車のスピードに注意していた。





「つ、敦賀さん……」
「ん…?」
「あ、あの……動けないんですが……」
「…………」

比較的早い時間に蓮が帰宅し、キョーコも蓮のマンションへ来る事ができた夜。
キョーコはいつもの様に蓮の食事などを気にする発言をしていたが、蓮は来たばかりのキョーコをソファに押し倒し、そのまま何をすることもなくただ黙って抱きしめていた。
何も言わず、ただ抱きしめているだけの蓮にキョーコは少し戸惑い、声をかけたが蓮はそれでも動こうとはしなかった。

今日撮影したシーンを、蓮がかなり前から気にしていたのは知っていたが、特に問題も起きず無事終了し、キョーコはほっとしていた。
これで蓮も同じ様に安心してくれるかな、とキョーコは思っていたが、自分が考えていた以上に蓮が気にしていた事がわかり、少し嬉しいような、気が利かない自分が残念のような、複雑な気持ちになっていた。

(主役でもないのに敦賀さんに助け出されるのがちょっと嬉しかったなんて……言わない方がいいのかしら……)

蓮の演じる主人公は、キョーコの役柄にとって元々は家族ぐるみの付き合いのある幼馴染。
恋人としての関係は終わりを告げたが、その間柄は変わることはなく、主人公はなにかとキョーコに気を使う。
そこを利用して、主演二人の仲に波風を立てるのがキョーコの役どころなのだが、今回のシーンが一番大きくクローズアップされる場面になっていた。

(振られて自暴自棄になって変な男と付き合って、それでまだ主人公の気を引こうだなんて……気持ちはわからなくもないんだけど……それであんな事になるなんてやっぱりちょっと……)

男達から助け出された後、二人でいる所に、追って来た一人が現れる。
油断していた蓮はそこを襲われ、頭を殴られて大きな怪我を負う。
キョーコはそのシーンを思い出し、自分を抱きしめたままの蓮の髪をさらさらと撫でていた。

「ん……?」
「殴られて……痛くなったりしていませんか?」
「全然……あくまで振りだからね……」
「でも……敦賀さんの倒れ方……すごくリアルで…本気で悲鳴あげちゃいましたよ……」
「そう……?」

キョーコの言葉を聞いて、ようやく蓮は顔を上げ、キョーコに微笑みかけた。
しかし、相変わらずその表情にはどことなく影がある。
そんな蓮の様子に、キョーコは少し口を尖らせて文句を言い始めた。

「今日のシーンは私よりも、敦賀さんの方が大変だったと思いますっ……助け出す時とか、倒れる時とか……私よりもよっぽど危ない場面がたくさんあったじゃないですか」
「そんなに危なくなんてなかったよ……?周りの人も皆、ちゃんとした役者さんだし、打ち合わせも何度もしたしね……」
「それはもちろんそうなんでしょうけど……やっぱり心配になるんですからねっ!私よりも自分の事を気にしてくださいっ」
「はは……わかったよ……」

怒り始めたキョーコに、蓮は困ったように笑って起き上がろうとしたが、今の自分の体勢が、今日のキョーコの撮影時のシーンを再び思い出させた。

狭い部屋の中。
部屋の一番奥まった場所のソファの上に横たわるキョーコ。
キョーコが着ているブラウスの胸元は大きく開かれていて、スカートは下着が見えないギリギリの所まで捲れ上がり、その白い脚は惜しげもなく晒されていた。
四人の男がキョーコを取り囲み、その内の一人はそのキョーコの脚の間に挟まり、覆いかぶさっている。
キョーコの細い両腕は周りの男達が押さえ込んでいて、きっとどんなに抵抗しても動かせないだろう事が見えてとれる。

その光景を思い出し、蓮の背筋は再び寒くなる。

あれは作られたもの。
あくまで虚構の世界だ。
現実のキョーコにはどこにも傷ひとつ付いていない。
あの男達だって、普通の俳優で、今日現場に入った時、皆、真面目に挨拶してきたじゃないか……

起き上がり、ソファに座りなおして溜息をつく蓮を、再びキョーコは心配そうな顔で覗き込む。

「あ、あの……敦賀さん……?」

そんなキョーコの顔を見て、蓮はさすがにこれ以上深刻な顔をしていると余計な心配をかけるな、となんとか気を取り直し、強引に微笑むと「そろそろお腹が減ったね?」となるべく普通を装った声で言った。
キョーコはその蓮の言葉を聞き、ほっとしたような顔で「ご飯作りますからねっ」と言い、キッチンへと向かって行った。



キョーコの後姿を見送った後、蓮は頭の中にこびりついた光景を払拭しようと軽く頭を振り、再び大きな溜息をついた。

(我ながら……弱いな……彼女の事になると気にしがちになる……)

なかなか気が晴れない蓮がいるリビングに、キッチンへ行ったはずのキョーコが戻って来て、ごそごそと自分のバッグに手を突っ込んでいた。
バッグから財布を取り出したキョーコに蓮が声をかける。

「ん?どうしたの?」
「あー、うっかり買い忘れちゃったものがあって……ちょっとコンビニまで行って来ます」
「えっ」

蓮は思わず既にカーテンが閉められていて外が見えるはずもない窓の方に視線を飛ばす。
外は見えなかったが、もうとっくに日は落ち、暗くなっている。

「……ダメ、もう外暗いよ。俺が行って来る」
「ええっ!……だ、だめですっ、敦賀さんにコンビニなんて行かせられません!」
「なぜ?平気だよ、ちゃんとわからないようにして行くから。なにを買い忘れたの」
「ぎゅ、牛乳ですけど……うーん……や、やっぱりダメです!」

蓮がコンビニのレジで牛乳を買う姿を想像して、キョーコは一人理由もなく絶望的な気分になった。
ぶんぶんと頭を振り、その想像を頭の中から吹き飛ばし、もう一度強く主張する。

「ダメです!絶対ダメ!敦賀さんがコンビニで牛乳なんか買っちゃダメです!」
「……コンビニがダメなのか、牛乳がだめなのか、よくわからないけど……こんな時間にキョーコが一人で買い物に行くのもダメ」
「こんな時間って、確かに外はもう暗いですけど、そんなに遅い時間でもないですよ」
「とにかくダメ」
「いつも私、普通に一人で歩いてる時間ですよ?」
「…………これからはちょっと考えた方がいいかな」
「へっ」
「俺が迎えにいける時は行くし……そうだな、後はタクシーをもっと……」

なにやら一人でブツブツと呟き始めた蓮をキョーコは恐々と見つめ、そのままそっと部屋を出て行こうとした。
しかし、蓮はそんなキョーコにすぐに気が付いて引き止める。

「あぁ、ダメだって。俺が行くから」
「で、でも……」
「んー…、じゃあ、一緒に行こう」
「え!」
「コンビニに入らなければいいんだろう?外で待ってるから……俺とわからないようにしていくし」
「あ、え、でもコ、コンビニ行くためだけに変装とか……わざわざしなくっても私が行けば」
「変装なんて言うほど凝らなくてもいつもとはちょっと違う服装でいけばいい……後は……これでも役者だからね」
「で、でも……あ、あの……」

キョーコの制止を振り切り、蓮は着替えるためにクローゼットへ行った。
リビングで立ったまま固まっていたキョーコの前に現れた蓮は、ボサボサの髪をし、カーキ色の厳ついミリタリージャケットを着ていた。
下は激しくダメージ加工されたジーンズ。
一度も見たことのない、そしていつもとはあまりに違う蓮の格好に、キョーコは言葉を失った。

「どうかな」
「こわいです……」
「いや……そうじゃなくて俺とわかるかどうか……」
「わからないです……」
「じゃいいね、ホラ早く行こう」

蓮は呆然としているキョーコの手を取るとそのまま玄関へと向かう。
いつの間にかご丁寧にもサングラスまでかけていた。
どこに置いてあったのか、やはり見た事のない、ジャケットと同じ色合いのジャングルブーツまで履いて蓮は堂々とキョーコを連れてマンションを出ていった。



(は、早くして……!)

通勤帰りらしい人が多くいたコンビニは、会計に時間の掛かる者もいたせいか、レジも混んでいて、キョーコは牛乳パックを両手で握り締めながら自分の順番を今か今かと待っていた。
コンビニの出入り口のすぐ横には、遠くから見てもわかってしまう程に異様なオーラを放つ背の高い男が一人、立っている。
コンビニの前を通り過ぎる人は警戒するような目でその男を見て足早に通り過ぎ、中にはコンビニ入ろうとしてやめる男性もいた。
店内でキョーコと一緒にレジで並んでいる客も、チラチラと蓮を気にして見ているようだった。
それが「敦賀蓮」だとわかった者はいないようだったが、それでもそのおかしな目立ち方にキョーコは焦りまくり、必死でレジの順番を待っていた。




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