曇り空─3

2010年05月20日 11:04

曇り空─3


「あら、ピンキーリング」
「モー子さん!」

ラブミー部の部室に来た奏江は、椅子に座ってテーブルの上に何か色々広げているキョーコの手の指輪に敏感に反応した。

「あんたが指輪……てことはそれは誰かさんからの贈り物かしら」
「えっ……えへへ」

くにゃりとした笑顔が答えになった。

「まぁ、今まで何も貰ってなかった方が不思議なくらいよ。でも、なんだか急ね。何かあったの?」
「うーん、特に何もないんだけど……」

少し照れくさそうに、それでもちょっと嬉しそうにキョーコは頬を染める。
そんなキョーコを見て和みながらも、奏江は気取られないようにキョーコの小指に鋭い視線を向ける。
シンプルなデザインだが、奏江の嗅覚は高価な匂いを的確に感じ取っていた。

「高そうよね……それ……」

つい素直に値段の事を口にしてしまった奏江だったが、キョーコも「そうなのよね……」と真剣に自分の小指を凝視する。

「でもね……指輪くらいなら素直に受け取った方がいいって言われたの」
「……誰に?」
「社さんに」
「へぇ……指輪くらいって他にも何かあったの?」

奏江の問いに、キョーコは思い出したとばかり形相を変えて声を大きくした。

「それよっ!前にね、私うっかり敦賀さんの前でかわいいって言っちゃったものがあってね」
「……何?」
「車」
「車?」
「うん……どうも敦賀さんその車買う気だったらしいのよ」
「車を?買い替える気だったの?」
「違うの…もう一台買う気だったの…」
「へっ」
「私用に……」
「あんた用って…だってあんた免許なんてないじゃない」
「もちろんないわよ……私が乗りたい時に言ってくれれば出すって言って」
「………」
「そ、それでその車用に駐車場借りようとしてたところで社さんが気づいてくれて……」
「そ、そうなの……」

一体どんな車かは知らないが、車本体の値段も、その維持費も、月々の駐車場代も、きっとあの人には大したことじゃなかったのね、と思うと奏江は自然と溜息が出た。

「ま、まぁ…車買われるよりはいいんじゃないの?指輪の方が……」
「うん、まあね……あぁ、そうだ、ね、モー子さんなら分かるかなぁ」

キョーコはそう言うと、テーブルに置いてあった小さな布の袋の口を開いて引っくり返し、無造作に中身をざらっと出した。
お菓子かキャンディのように袋から出てきたものは、色とりどりの小石のような物。
しかし、道端や川原に落ちているような自然な形はしておらず、あきらかに人の手が加わった造形、色彩、透明度──

「なにそれ……」
「これね、敦賀さんの知り合いのジュエリーのお店で売り物にならないから安く譲ってもらったっていうんだけど……そんな物ってあるの?」
「えっ…私はよくわかんないわ」
「こういうの細工するの好きだろ?とか言って……もう、だからってわざわざ買ってこなくても」

奏江は無造作に置かれたいろんな種類の石達に思わず目が釘付けになった。
あのプリンセス・ローザに勝るとも劣らないオーラを持つさまざまな色合いの石達。
どう考えても……売り物にならないなどと思えない。

「これなんかすごく綺麗なんだけど…どこがいけないのかしら?」

キョーコがひょいと摘んで部屋の灯りにかざす様にしたその中の一つは、無色透明で雨の雫の様にカットされていて尋常ではない輝きを放っていた。
その石がどうみても宝石の中でも一番高いと言われる種類にしか見えなかった奏江は思わず絶句した。
無造作にそれを扱うキョーコに、なぜ気がつかないのか激しく突っ込みたい奏江だったが、密かにキョーコの中の防衛本能がフル活動しているのではと思い直し、当たり障りのない言葉を選ぶ。

「……ま、まぁそれなりに高いと思うわよ?なくさないようにしなさいよ……」
「そ、そうよね……気をつけるわ」

急に慎重に石を集めて元の袋の中に大事に仕舞い始めるキョーコ。
そんなキョーコの姿を見ながら、奏江はキョーコが最近バラエティ番組にも多く出るようになった事を思い出した。

(私服とか私物をチェックするコーナーなんかにうっかり遭遇したら、この娘、ショック死するんじゃないかしら……)

細工し、身につける様にしていたら、その辺りを気をつけてあげたほうがいい。
そうだ、社さんはこの事を知ってるのかしら。
ちょっと聞いてみた方がいいかもしれないわね。
いえ、待って、変につついて事実が明らかになったらそれはそれで危ないかもしれないわ。
そっとしておくのがいいの?……でもこれ以上、数が増えるのはヤバイんじゃないかしら。
そこはやっぱり裏から手をまわして言っておいた方がいいかも───

無邪気な親友の心配で、奏江の頭の中までが激しくフル活動をし始めていた。




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