曇り空─2

2010年05月20日 11:03

曇り空─2


「もう……別にいいでしょう?」
「うーん」
「なんなら、品物の詳細な資料を提出しますよ?」
「いや、まぁそこまでしなくてもいいよ……キョーコちゃんが吃驚しないような奴だろうな?」
「もちろんその辺は考えてますから」

以前に"お弁当のお礼"と称していろいろ画策したのが途中でばれてしまい、彼女と社さん二人がかりで彼女に何か物を買うことは固く禁じられてしまっていた。
その後も何度か試みた事もあったが、どうも最初に買おうとしたものが二人の逆鱗に触れたらしく、俺の買う物には常に厳しい監視の目が付いていた。
だからといって買い物できない事もなかったのだが、快く受け取ってもらえないと意味もなく、結局今まで言われるがままに突然のプレゼントなどとは縁のない日々を送っていた。
しかし、そろそろ解禁されてもいいはずだと、まず障害となる社さんに、こちら側についてもらうことに専念した。
残念な事に、こういう方面の事に関しては俺より社さんの方が彼女の信頼は厚い。
俺の部屋に来る時、彼女はまめに買い物をして来るが、その時にカードを使ってもらう様にうまく手をまわしてくれたのも彼だ。
自分でなんとかできない事が若干情けないと思ったが、社さんが一言彼女に言ってくれれば、彼女も素直に受け取ってくれるはずだと考えた。

「まったくいつの間に……でさ、何買ったんだよ」
「まぁ……無難にアクセサリーでもと」
「指輪とか、その辺か」
「そうですね」
「左手の薬指……ってわけにはいかないか……」
「それやる時は遠慮はしませんから」
「な、なんかこわいぞ、お前……いや、そりゃその時は止めないけどね……」
「よろしくお願いします」
「………。……で、あれか、今回買ったのは右手用とかか」
「あー…まぁ右でも左でも…小指にでもと」
「へー………あーよくしてる娘見るよな。なんていうんだっけ……小指ねぇ……小指」
「……なんです?」
「普段は右手の薬指で、二人の時は左手に、とかでもやるんじゃないかと思ったんだけど小指なんだ」
「……」
「次は人差し指とか言わないよな」
「………」
「指輪って、親指用とかもあるよな」
「…………」
「…………指の数だけにしとけよ?」
「はは……」

勘の鋭い我が敏腕マネージャー殿には、彼女には首だって手首だって足だって耳だってあるんですよ、とは言わないでおいた。

宝飾店に寄り、頼んでおいたものを受け取った。
一緒に来た社さんが店内にディスプレイされている品物を見て固まっていたが、せっかく味方についてくれたのに逃すわけにはいかないとばかり足早に店を出た。

彼女に渡す指輪が入った紙袋を持って店を出ると、今日の天気もいまいちで、空は厚く黒い雲に覆われていた。
曇り空というだけであの日の彼女の言葉を思い出す。

思い出して……寂しくなります……

紙袋を手にしたままつい立ち止まり、空を見上げながら今日の仕事の予定を考える。
今日も時間的に厳しくて恐らく会えないだろう。

大勢の人が行き交う街角。
これからまた仕事でたくさんの人に会うだろう。
いつも一緒のマネージャーも口うるさく俺にあれこれと小言を言う。
会えない寂しさはそんな状況でうやむやにし、時間に追われたり、これからの予定を考えて会う時間を作る算段などをしてやり過ごしてきた自分に気が付く。

(そうだね……思い出すと寂しいね)

そう思うと、今手にしているものもまたその原因になってしまう気がした。

なら、思い出しても、俺の行動に飽きれてしまって寂しさなんて感じない位の数の、何かを贈りたい。
きっと彼女には激しく怒られてしまうのだろうけど、それでも笑って彼女の頭上からスコールの様に何かをばら撒きたい。

(そうだ……別に普通のアクセサリーでなくても石だけでもいいかな……)

今でもプリンセス・ローザの件はあのままにしてあるが、またあんな風にして細工したりするかもしれない。
あれと違い、俺がなんの作り話もせずにただ買ってくるものはあまり心に響かないかもしれないが、それはそれで別に構わない。
他にも何かないかと彼女の身の周りにある、ありとあらゆる物達に頭を巡らせていると、そんな俺の悪巧みを阻止するかのように社さんが声をかけてきた。

「ホラ、ちょっと通行人に気づかれ始めたぞ。早く行こう」

俺を遠巻きに見て、なにか囁き合う人々の姿が目に入る。
俺は少し苦笑いをして、素直に社さんの指示に従った。

車に戻り、次の仕事先に向かう途中で、ずっと空を覆っていた暗い雲はとうとう雨粒を落とし始めた。
いつもなら気が滅入る運転に邪魔なそれも、今の俺には何かのスタート合図に思え、自然と顔が笑ってしまうのを抑えられなかった。




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