--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

曇り空─1

2010年05月20日 11:02

2万ヒット記念と勝手に銘打って、「キョーコのお弁当大作戦」で放置していた伏線を解消。
えっ、そんなのあったっけ?と思われても問題ありません(笑)。
蓮がお礼をする話です。


曇り空─1


一日中空を覆っていた厚く白い雲は日が落ちかけるとそのまま淡い紫色に染まった。
快晴の日の綺麗なグラデーションを描く夕暮れ空に比べ、ぱっとしない地味な空色だと思っていたが、彼女の白い肩を浮き上がらせるにはいい色だと思った。

「んっ……」

逢う魔が時とはよく言ったもので、こんな時間に彼女に会える機会が少ないせいで浮かれてハメをはずした俺は少し危ない男になった。
窓際まで追い詰められた彼女はそのガラス面に熱い息を吐き白い曇りを作る。
あぁ、あまり強く押し付けてはいけないな、と頭では冷静に考えるのだけれど、身体はいう事を聞かない。

「駄目です……こんなところで……」

一体どこが駄目なんだと激しく問い詰めたくなるような、甘く香る小さな囁き。
こんなところで、なんて言うけれど、ここはいつもの俺の部屋。
ソファでだって抱いた事がある事を考えたら、そんなに特別な場所じゃない。
でも、ほんの数メートル位置がずれただけなのにどうしてこんなに背徳感があるのだろう。

すっかり暗くなったリビングの隅で、何かに追い立てられるように絡み合う。
窓ガラス一枚隔てた、ベランダを囲う閉鎖的なフェンスが二人以外誰もいないという事をより強調してくれる。
そんな雰囲気のせいか、なぜか俺も彼女も声を潜めて囁きを交わす。
その身体とはうらはらに、少し怒ったような彼女の言葉に見っとも無い位浮き足立った俺の行動は益々エスカレートしていく。

力が抜け崩れていく彼女の身体を追って、俺も床に伏せるようにしてその身体を閉じ込めるように抱きこんだ。
ただでさえ、世間には秘密な関係なのに、自分の部屋の中でも隠れるようにして彼女と愛を交わす。
一度終わったかの様に見えたそんな行為も、彼女の顔が見えなかったという俺の勝手な理由で再び繰り返しされ始めた。

どれくらいの時間、こんな事をしていたのだろう。
いつの間にか空は藍色になり、あれだけ重たく空を覆っていた雲は消えたようだった。
僅かに差し込む月の光で彼女の顔がぼんやりと見えた。
幾分か普段より紅い唇からはもう抵抗や怒りの言葉は出ていない。
その代わりに俺に向けられる言葉は、俺の中にダイレクトに響く甘い麻薬のように染み込んできて、その効き目に頭がおかしくなりそうだ。

忙しない自分を少し落ち着かせるために一度動きを止め、彼女の顔を眺める。
仄かに紅く染まった頬に、少し潤んだ瞳で彼女はぼんやりと床の上から窓の外に広がる夜空を見上げていた。
いきなりこんな事をして、疲れさせてしまったかもしれないなと心配し、謝罪の言葉を口にしようとした俺よりも早く、彼女の唇が動いた。

「こんなの……」
「ん……?」
「思い出して……寂しくなります……」
「え……?」
「窓ガラスとか……ベランダとか……今みたいな月を見て……」
「…………」
「一人の時に思い出したら……寂しくなります……」
「キョーコ……」
「待つのは平気です……でも急にいろいろ思い出すと寂しくなります…」
「…………」
「他にも……たくさんあるんですよ……?」
「…………」

思わず言葉を失った俺を見て、彼女ははっとした顔をした。

「ごっ、ごめんなさい…変な事言って……気にしないで下さいっ」

少し慌てたようにそう言う彼女の顔を俺は黙って見つめた。
緩んでしまうのを隠すために、顔を彼女の首元に寄せて、耳元でそっと囁く。

「思い出して……くれてるんだ……」
「え……」
「……他にも……あるの……?」
「そんなこと……秘密ですっ……」
「聞きたい……」
「やです……」
「聞きたい……」
「や……あっ……」

恥ずかしがりやの彼女から聞けた、思いがけない愛の言葉。
寂しがらせて喜ぶなんてひどい男だと思いながら、会えない時の彼女も占有できている事への喜びで胸が一杯になる。
こんな時にそんな事を言うなんて、益々俺を増長させるに決まっているじゃないか。
疲れさせたんじゃないのか、などという気遣いもどこかへ行ってしまった。
彼女の白い足に舌を這わせ、その反応を確かめる。
彼女の身体で俺がまだ触れていない所なんてないような気もするが、それでもどこかに見逃している場所があるんじゃないかと懸命に探す。
気が付けば思い出作りに必死だ。

お互い忙しくて会う時間も場所も限られている。
事務所、TV局、そして俺の部屋。
殆どが夜、そしてその夜から続く朝。
昼間会う事があっても、それは同じ事務所の先輩、後輩としてで、限定した場所と人の前でしか恋人としては振舞えない。
どう考えても、普通に"恋人"として、及第点をつけられないだろう俺に滅多に不満など言った事の無い彼女。

そんな彼女がぽつりと漏らした不満は 

どうしても仕事に時間を割いてしまう俺の事ではなく
どこへもまともに連れて行ってあげられない事でもなく
いつも俺の都合に合わさせて
隠れるように俺のマンションに来させて
一人、部屋で待たせることや
こんな風に性急に身体を求めてしまう事でもない。

会えない寂しさを思い出す機会を増やしてしまったという事。

食事に無頓着な俺の世話を焼き
チャンスがあればやたらとベタベタしたがる俺に困り果て
強すぎる俺の独占欲に、振り回され
時には聞き分けのない子供の様に我侭をいう俺や
身勝手な嫉妬を向ける俺に困る事もあるはずだ。

そんな俺を全て受け入れて、その上まだそんな言葉を言ってくれるのか。

「好きだよ……」
「えっ」
「愛してる……」
「なっ……なんですか…急に……」
「いや…本当にそうだから……」
「こっ、こんな時に、こんな場所でそんな事急に言わないで下さい…っ、も、もう」

こんな時に染める色とは少し違う色合いで、たちまち顔中を真っ赤に染める彼女。
そんな彼女に構わず、うなされるように俺は同じ言葉を繰り返す。

「もうっ……嫌がらせですかっ…思い出しちゃうって言ってるのに……」
「好きだよ……」

俺に組み敷かれたままで焦ったように顔を背ける彼女からはもう、お返しの愛の言葉は貰えなかったけれど、それを望むのはあまりにも贅沢だと思った。


カーテンが閉められ、灯りのついたリビングで彼女の作った夕飯を食べながら、彼女に何をしてあげられるのかを考える。
時間を作る事さえ、一人ではままならない。
強引に作ろうと思えば不可能ではない気がしたが、結局、それは回りまわって、また彼女に気を使わせるような気もした。

「せっかく早くお仕事終わったんですから、早く眠るんですっ」

夕飯の後片付けからその後もずっと彼女に纏わり付く俺に、彼女は少し強い口調でそう言いながら俺をベッドに押し込める。
わざと大人しい子供の様な返事をして素直に横になると、彼女は困ったように少し笑って部屋の灯りを消し俺の横に潜り込んできた。
疲れていたのだろう彼女はすぐに静かな寝息を立てて眠りに付いた。
幸せそうなその寝顔を見て、なんだか胸が痛くなる。

(何を……してあげられるのかな……)

散々考えて思いついたのは、ごく平凡で、ささやかな小さな事。
それでも何もやらないよりはマシだなと思い、明日からそれを阻む存在の懐柔に乗り出す決心をした。




コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/154-dd6b18a5
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。