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ひどいひと。─前編

2010年05月10日 18:03

GW前にUPして逃走(なぜ)しようとしていた話をコソコソUP。
一応、前編はエロ風味です。
さらっと読み流して下さい。


ひどいひと。─前編









彼女の全てを手に入れてるというのに
俺の欲望は尽きる事がない。
これ以上何を望むのか
試しに自分で自分に尋ねてみれば
あきれるくらいに出てくる事柄。

どんな瞬間の彼女も見逃したくない。
すべての瞬間の彼女を俺だけのものにしたい。

その笑顔も、怒る顔も、泣き顔も、視線も、声も。

養成所仕込みの完璧な発声とブレス。
普段はハキハキと喋る彼女。
だけど、この時だけは
一体どこに隠していたのか
俺を魅了する魔法のような声で
静かに耳から俺を侵食して行く。

どこに在ったかなんてきっと彼女も知らない。
心の、身体の、奥底にひっそりと仕舞われていたそれを
自分だけが手にしている事の充足感。

まだ
まだあるだろう?

意地汚く掻き回すように彼女の中を弄って
一欠けらも残さないように
丹念に探索していく。

「やっ────」

ほらまた、ひとつ見つけた。
身体は素直に俺を受け入れるのに、なぜか抵抗するような掠れた声。
それでいてちゃんと俺を惹きつける力を持っている。
一体どこに隠していたのかな
そしてどこから出てきたの───

答えを求めるように彼女の顔を見つめれば
なぜか俺から逸らすように横を向いている。

あぁ駄目だよ、視線さえ逃したくないんだ。

そう思ってすぐさま彼女の顔に手を当て俺の方に向ける。
少し余裕のない自分の動作を誤魔化すように
思い切り顔を近づけて、彼女の瞳を覗き込む。



まだ好きだと自覚する前から
チラチラと見る事があった妖艶な彼。
付き合うようになってからはそんな彼に頻繁に出会うようになり
闇の中では身体が焦げ付く位に近づいてくる。

こんなにいつも"彼"に出会ってしまっていると
そのうち本当に自分が駄目になってしまいそうで
何とか抵抗を試みるのだけれど
いい対策がまるで浮かばない。
このまま最後までいってしまえばまた一つ自分が駄目になる。
そう思って横に視線を逸らし、ほんの少しの時間稼ぎ。
そんなタイミングに合わされたかのように深く入ってきた彼に
身体中が反応する。

「やっ────」

我慢できずに声を上げると
横を向いていた顔を思い切り元に戻された。
そのまま何の心の準備もなしに
至近距離で彼と見つめ合う。
闇の中でもはっきりと見えてしまう彼の瞳。
小さな抵抗がたちまち崩れていくのがわかる。
彼はまだ動いてもいないのに
勝手に身体の中からざわざわと快感が沸き上がって来る。

「何を考えているの……」
「何も……」

即答してしまい、後悔する。
もっと彼の心を揺さぶるような言葉を言えば
少しは太刀打ちできたかもしれないのに。
ぎりぎりのラインで冷静を装うのだけれど
身体は勝手に彼を締め付ける。

「………っ」

それが功を奏したのか、彼の表情が少し歪んだけれど
それに気をよくしたのが、私の最大の油断になった。

少し切なそうな表情の彼に心を囚われ
突然激しくなった彼の動きにもう何も考えられず
最後の抵抗の壁がガラガラと崩れていく。
無意識のうちに口にしてしまう淫らな言葉達。
またこうして彼に壊されていく自分
最後には一体どんな自分が残るのだろう。

壊れた自分の欠片で彼を埋め尽くしてしまえばいい───

開き直ったような自分の考えで最後の理性が飛び
最後にはもう自分からも動き出してしまう。
さっきまでの少し意地っ張りな気持ちも完全に消え
すっかり快楽の波に飲まれきっているというのに
急に彼の動きが止まった。

突然発たれた、快感への道。
我慢できず、自分で腰を捩って取り戻そうとするのに
貼り付けられたようにぴくりとも動かせない。
それがなぜかわからない事への不安で激しくなる心臓の鼓動。
ひたすら熱くなる身体に冷やりとした彼の手を感じた。

氷のように冷たい手で私の身体の動きを完全に封じてる彼に気づき
なぜ、どうしてと必死に彼を見つめ返せば
そこにいたのは私の胸を焦がす夜のあの人じゃなく
TVの画面の向こう側にいる、落ち着いた穏やかな笑顔の───敦賀蓮?

でも違う。
何かが違う。
穏やかなその笑顔の後に揺らめく妖しい黒い影。
怖い、と思ったのはほんの一瞬。
危ないと何かが警告するのに
あっという間にそんな彼に魅入られ、身体の奥まで熱くなる。

さっきまで目にも入らなかったベッドサイドの淡いルームランプの灯りが
急に暖かな陽だまりの様に彼を照らした。

「どうしたの……?」

静止したままの彼をよそに、一人勝手に身悶える私に
悔しいくらいに平静な言葉が注がれる。
頭の中と身体の中の感覚の落差に耐えられない。

混乱した頭の中で懸命に今の状況を考えた。

これはきっと彼の卑劣な手口だ───

途切れ途切れの意識を必死で繋ぎ
さっきまでの快楽に流れる自分を懸命に打ち捨てて
震えてしまう手で彼の脚を掴んで押し返そうとする。
いつも優しく私を支え、乱暴な事などされた事はない。
それなのに、こんな時は驚くぐらい強い力で私を押さえつける。
びくともしない彼の身体を、無駄とわかっても叩き続ける。

それが再開を求めるものか、抗議の合図か自分でもわからない。
彼を責める言葉を何か口にしたいのに
どんな台詞を口走るのか自分でもわからなくて怖くて声が出せない。
目的を失った口でただ息をするだけ。
涙で曇る視界。
穏やかな笑みを浮かべている彼を睨みつけた。
そうしている間にも私の中の彼は熱く尖ったままで
戸惑う私を嘲笑うかのように微かに蠢く。

僅かな変化にも敏感に反応する自分の身体を制御できず
小刻みに震えながら横たわるしかできない私の
目から流れるものにそっと口付けた彼は
そのまま息のかかる距離で私に静かに優しく微笑んでいたけれど
ようやくいつもの"彼"が戻った。



「何を考えているの……」
「何も……」

彼女の視線を捕まえ、思わずその心を問い質す。
こうして俺に組み敷かれているのに、まだ君はいつもの自分を失っていない。
一体どれだけ攻め立てればその全てを手にする事ができるのか
少し途方に暮れている俺を彼女は強く締め付ける。

「………っ」

我慢できずに、激しく突き動き始める。
そんな俺に合わせるように揺れる彼女の白い身体。
紅潮した頬と同じように紅い唇から
次々とこぼれ出す、この時にしか聞けない魅惑的な言葉達。
その一つ一つを耳に焼き付けている内に
昏い欲望に溢れた自分が闇の中からゆっくりと顔を出す。

まだ、もっと、どこかにあるはず
俺の知らない君をもっと手に入れたい

素直に快楽に流れる自分とそいつが俺の中でせめぎあい
勝ったのは───

歯を食いしばって、動くのを止める。
もう既に俺の手中に堕ちていた彼女を
欲望に満ち溢れた性質の悪い俺が笑顔で出迎える。

「どうしたの……?」

今、俺はどんな顔をしているのかな。
もう自分でも自分がよくわからない。
君の全てを手に入れたくてこんなにも必死なんだ。
それだけは分かって欲しいと殊勝な俺が遠くで彼女に訴えるけれど
彼女の目に映っている俺はきっとそれとは正反対。

そんな俺に恐れをなしたのか
必死で抵抗し、俺の脚を叩く彼女。

その力の弱さに、歪んだ征服欲が満たされて
切なく俺を睨む愛しい瞳を手に入れたことに気をよくし
震えながら俺の小さな動きにも悩ましく身悶えるその姿に満足し
その効果を証明するかのように瞳から溢れでたものをそっと口にすると
ようやくそいつは姿を消した。

とたんに泣かせてしまったことを後悔し
恐れ、嫌われてしまったら堪らないとばかり、彼女の反応だけを辿る事に専念する。
極限まで自分の快感を我慢し、今までの記憶を総動員して
彼女の熱く火照った身体に優しく手を這わす。
そのせいなのかどうなのか、いつもよりも激しく乱れる彼女。
艶やかに変化していくその姿に誘われるように
また性懲りもなくあいつが顔を出す。
その度に急いでそいつを追い返すのだけれど
それを繰り返す毎に彼女の反応が激しくなり
その事に気が付いた俺は今度は故意にあいつを呼び出し始めた。

そのうちにもう、俺もあいつも一緒になって
泣いて何かを懇願する彼女のその言葉と、指先の小さな動きにさえ欲情して
優しさなど吹き飛ばして、思いつく限りの場所を蹂躙し始めた。

最後には息が絶えそうな程の悲鳴にも似た声を上げ、力が抜け動かなくなった彼女。
汗ばみ、紅く染まった身体で自分を失ったかのように虚ろな目をし
小刻みに息を吐きながら、俺の動きにまだ敏感に反応して甘い声を上げる彼女の中に
欲望に塗れたあいつが最高の快楽を掴むために、手加減一つせずに全力で全てを注ぎ込む。

やがて静かに目を閉じた彼女を気遣うのはいつもの俺で
不安と満足が入り混じった複雑な気持ちで彼女の身体を抱きしめながら
消えてしまわないように、と祈りながら俺もいつの間にか眠っていた。



いつもの彼に戻った事に安堵してまた身を任せる。
普段ならとても苦手なはずの
夜の妖艶な彼に会えてほっとするなんておかしい思いながら
それでもさっきの彼よりはマシと、少し安心したのに
まだチラチラと見え隠れする彼の姿。
その度にほんの一瞬、彼の動きが止まる。
再び動き出すまでの僅かな時間に
口に出来ない不安と、認めたくない歓喜で心が上下し
現れては消え、消えてはまた現れる彼の姿に
身体だけでなく心の中まで余す事無く掻き乱されて声にならない悲鳴を上げる。

ひどい。
ひどいひと。

それなのに私に触れる彼の手はどこか優しく
いっそ意識など飛べばいい、と思うのにそうする事もできない。
抵抗する力など一欠片も残ってなく
なにもかも全てが彼に侵されていく自分を感じ
怖くなって逃れようとすればするほど彼の力が強くなる。

迫り来る快感が強すぎて、自分が保てなくなり
救いを求めて掴もうとしたシーツもただ指先を滑るように波打つだけで
掠れてしまった声で耳を覆いたくなるような言葉を叫びながら
どこかで待ち望んでいた最後の瞬間を迎える。

朦朧とした意識の中、残ったのは快楽に身を任せた堕落した自分だけで
自分をきつく抱きしめ、激しく求める彼の姿に僅かに笑顔さえ浮かべ
誘うような声を上げながら、覆いかぶさる彼の身体の肌の感触だけで恍惚となり
それを恥じらい戒める自分は深い暗闇に落ちていき
気が付いたらいつの間にか朝になっていた。



朝、目を覚ました俺の前に姿を現したのは、一部の隙もない、天使のような笑顔の彼女。

「張り切って作りすぎちゃいました」

そう言って指し示されたテーブルの上には驚くような量の──朝食。

「無理に全部食べなくてもいいんですからね?」

そう言いながら笑う彼女は、朝の食卓には、これ以上はない程に相応しい穏やかさで、まるで慈愛の女神の様だった。
そんな女神様の無言の圧力に負けて、俺は大人しく彼女の作ってくれた朝食に手をつけ始める。
俺を見つめる一見穏やかで優しげな彼女の笑顔は些かテンプレート通りすぎる気がした。
彼女の実力なら、もっと自然に笑うことができるはず。

(これは…やっぱり少し怒ってるのかな……)

それならば、と甘んじて女神様の罰を受けるべく、端から順に淡々と用意されたものを口にする。
山のように焼いて積んであるトーストを見て既に言葉もないのだが、スクランブルエッグの隣に目玉焼きがあり、茹でた卵もあった。
ボール一杯のサラダの周りには各種スープが囲むように並べてある。

「…………」

まだキッチンで何かが火にかけられている気配を感じ、冷や汗がでるが、とりあえず食べ始める。
あっという間に限界が来て、顔色を変えていると彼女がテーブルに置かれていた食事を片付け始めた。

「……やっぱり多いです。も、いいですから……」

申し訳なさそうにそう言う彼女は普段どおりの彼女で。
俺は謝りながらも胸を撫で下ろし、食事を切り上げ、出掛ける準備を始めた。
すっかり元通りの気分で準備を終えて出掛ける俺は、玄関まで見送りに来てくれた彼女に軽く出掛けのキスをする。
そして持たされた"今日のお弁当"にぎょっとした。
少し眩暈を感じながら出掛けていく俺に「いってらっしゃい」という彼女の明るい元気な声が止めを刺す。

(これだって……初めて見る彼女だよな……)

エレベーターの壁に寄りかかりながら、そんな風に考えておく。
そして、ずっしりと重い重箱に入った彼女の愛を抱えて今日も仕事へと向かった。




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