カード型爆弾

2010年04月28日 00:44

盛大にヘタ蓮が見たくなりました。


"共演者キラー"なんて、別に呼ばれたくて呼ばれるようになったわけじゃない。
相手が自分に惚れる役なら本気で惚れさせる──位の勢いでやっているだけだ。
もし相手が本当に自分にそんな気持ちを抱いたとしたら、その作品にいい影響がでるわけで。
それはいい事じゃないか。

そう考えていた以前の自分を宇宙の彼方へまで葬り去りたい気分になる。
いや、今だって相手役の女性にはその位の気持ちで挑んでいるわけで。
俳優として、そのスタンスを変えるつもりはないんだけれど。
間違っているとは思わないのだけれど。
でも──

「……蓮。オイ、蓮!」
「あっ……はい?呼びましたか?」
「呼びましたか、じゃないよ……さっきからずっと呼んでた」
「すいません……なんでしょうか」
「別に用ってわけじゃないけどさ…オンとオフの差が激しすぎる。もうちょっとしっかりしろよ」
「え」
「まぁ撮影に影響はさせていないようだし、いいけどな、別に。ただ…」
「た、ただ…?」
「休憩の度にお前が深刻な顔で考え込んでるから、周りがちょっと引いてるぞ…」
「………」
「お前が何を心配してるかなんて…なんとなく想像つくけど、心配しすぎ」
「はぁ……」

社さんに言われて初めて自分の状況に気が付く。
特に変わった様子は見られない気もするが、そういえばいつもよりあまり話しかけてくる人はいないような気がした。

彼女が今やっているだろうドラマ。
相手役の俳優は"共演者キラー"という俺と同じ肩書きを持つ男。
同じではあるが、少し意味合いが違う。
そして、それに伴って怪しい噂が付き纏う人物。
その噂が本当がどうか、俺にはわからない。
わからないから益々不安になる。

「何を心配してるかわかってるなら……ちょっと調べてくれてもいいじゃないですか」

つい、マネージャーに八つ当たりしてしまう俺はやっぱりまだ子供だ。

「……調べたさ。聞きたいの?」
「……っ」
「聞かないほうがいいと思うけど」
「……そ、それじゃ言ってるも同然ですよ」
「大丈夫だよ。無理強いする人じゃないそうだから」
「なにが大丈夫なんですか…それ…」
「大丈夫だろ?……キョーコちゃんが簡単に他の男に心許すと思えないし。信用してないのか?」
「信用してますよ……」
「じゃ問題ないじゃないか。気にしすぎ」
「………」

そうだ、俺は彼女を信用している。
あんなにいつも俺の事だけを考えてくれている彼女に本気で疑いの目を向けた事などない。
勝手に……一人でやきもきしているだけだ。

「単発のスペシャルドラマなんだから、そう長い期間じゃないし…しっかりしろよな」
「……」
「まぁ仕事に影響させない点は褒めてやれるな。休憩中は大目に見てやるから…へこんでていいよ」
「それは……ありがとうございます……」

寛大なマネージャー様の許可を得て、休憩中は盛大に彼女の事だけを考える事にする。
症状が悪化しているように思えるのは気のせいだろうか。


「お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした」

仕事が終了した途端、控え室に戻る前に携帯を手にして彼女に電話をする。
社さんが少し呆れた目で見てるようだが、この際気にしない。

呼び出しのコールが長く続く。
まだ…出られないかな。

『はい……』
「もしもし?キョーコ?」
『あっ……お疲れ様です。もうそちらは終わりですか?』
「うん、終わったよ。キョーコはまだ現場かな…」

背後に聞こえる喧騒の音は、俺もよく耳にする現場の音。

『もう少し掛かりそうです。今ちょっと』
『京子ちゃん』

微かに聞こえた彼女を呼ぶ声に激しく反応してしまう。
挨拶程度しかした事のない男の声をよくこんなにも覚えているものだと、自分で自分に感心してしまう。

『す、すいません、また電話しますね…』
「いや…うん、仕事中にごめん。また電話するよ」

電話した事で余計に心配になり、切れた携帯を片手に俺は固まってしまった。
そんな俺を、社さんが呆れたように溜息をつき腕を掴んで引っ張っていく。

「ほら、帰るぞ。まったく…」
「わ、かりましたよ…引っ張らないで下さい」

子供の様に手を引かれ、俺は控え室へと戻った。



家についてから、しばらく携帯を持ったまま考え込む。
時間的に彼女ももう仕事を終え、帰っているとは思うけれどなんとなく自分からは電話ができない。
携帯の時刻表示を凝視する。
あまり遅くなると、電話できる時間を過ぎてしまう。
別に深夜だって電話くらいしたいのだけれど、お互い仕事のある身、無理はしたくないし、させたくないし……

まるで片想いの頃に戻ったかのように、電話ひとつうまくできない俺の耳に鳴り響く呼び出し音。
慌てて出てみれば待ち望んでいた声。

『もしもし?』
「もしもし…帰って来た?」
『はい…敦賀さんもお家ですか?…お疲れ様です』
「うん…お疲れ様」

彼女の声はいつも通りで。
今日の現場のたわいない出来事をいつもの様にお互い話す。
時折、彼女の話題に出てくるあの男の話。
でも、特になんの含みもなく、淀みもなく、あっさりと綺麗に流れていった。

「それじゃ、おやすみ…」
『はい…おやすみなさい』

俺の一日を翻弄していた彼女のそのおやすみの一言で、何事もなかったかのように一日が終わる。
いつもと変わらない日々も、心持ち次第で劇的に変化を遂げる。
振り回されてる、というより俺が勝手に一人で振り回ってるだけ。
そんな自分を馬鹿だな、と思えるまでに余裕ができ、ようやく俺は静かに眠りにつく事が出来た。



「これで終了です!お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」

撮影が全て終了し、キョーコは少しほっとして思わず溜息をついた。
単発のスペシャルドラマとはいえ、主演級の役は初めてに近い。
しかも恋愛の要素もあって、ちゃんとできるかかなり不安だった。

「お疲れ様でした、京子ちゃん。またどこかで会ったらよろしくね」
「は、はい、こちらこそ!よろしくお願いします!ありがとうございました」

声をかけてきた男性に、キョーコは思い切り格式ばったお辞儀をする。
この相手役の俳優には"共演者キラー"なんてどこかで聞いたような異名がついていた。
お陰で……誰かの姿がちらついて……ちょっと助かったかも、と撮影が終わった今、キョーコは思っていた。

(もっとこう、色っぽいというか…そういう人かと思ってたら意外にそうでもない普通に優しい爽やかな人だったわよねぇ)

誰にでも人当たりのいい所は似てるのかも。
キョーコがそんな事をぼんやりと思っていると、相手の男がほんの少し小さな声でキョーコに話しかけてきた。

「京子ちゃんはさ……誰か好きな人はいる?」
「ふえっ!?」

突然、思ってもなかったことを聞かれ、キョーコは思わず大声を上げる。

「えっ、あのっ、そのっ」
「あっという間に終わっちゃって残念だなぁ、もっと仲良くなりたかったよ」
「は、はぁ」

充分仲良くしてもらったと思うキョーコは、これ以上どうするんだろうと素朴な疑問を抱く。

「仕事でいろんな娘に会うけど……君みたいな娘にはなかなか出会えない」
「そ、そうですか?」

自分みたいな娘、というのはどういう事だろう。
確かに妄想癖はあるし、メルヘン思考だし、ちょっとおかしい所はあると自覚はしている。
ならべく普通にしていたつもりだったけど、やっぱりそういうところはばれちゃうのかしら。

あさっての方向にどんどん思考が動いていくキョーコの目の前に一枚のカードが差し出された。

「これっきりにはしたくないんだよね。思い出した時でいいからね、電話してくれるかな?」
「は?」

思い出す?何を?今回のドラマの事?

ポカンとしているキョーコに携帯番号を書いたカードを残し、人懐っこい笑顔で白い歯を輝かせ、彼は爽やかに立ち去って言った。

そのカードを片手に、キョーコは撮影の合間にした彼との会話を思い返す。
主にそれぞれの役柄についてなど、熱い演劇論を交わした記憶しかない。
ドラマが決まった時、散々蓮に気をつけるように言われ、思わず身構えていた自分が少し自意識過剰かと思うくらい、話す内容は仕事の事ばかりだった。
そのせいですっかり彼を仕事熱心な俳優と認識したキョーコに、彼の最後の言動はうまく浸透しなかった。

(要するに…芝居の話をしたいってことかなぁ……でもそういう話は私は……)

蓮としたい、と思うキョーコは彼に電話する気は毛頭なかったのだが、同じ役者としてスルーするのはどうかと考えた。
しかし、蓮以外の男とプライベートで電話をすることはやはり躊躇われる。

(あぁ……そうか、敦賀さんに言ってみようっと)

演劇論を語るなら、人数は多い方がいいじゃない。

そう考えたキョーコは薄いカード型の爆弾を持って、この日の夜、久しぶりに蓮のマンションへと向かった。



彼女がバスルームにいる間にわざわざゲストルームにまで来て電話をする。
あまり人には見られたくない姿だと自分でも思う。

「もしもし」
『もしもーし?なんだ、どうした蓮?』
「あの…すいません、今更なんですが…例のあの人について社さんが知ってる話聞かせてもらえませんか」
『あの人って…あれか、キョーコちゃんの相手役?』
「そうです」
『キョーコちゃんもう撮影終わっただろ?別にもういいんじゃないの?』
「いえ、それがちょっと微妙な事態に」
『微妙な事態……?よくわかんないな…』
「とにかく、聞かせてくださいよ」
『あぁ、まぁいいけど。お前はどこまで知ってる?』
「あまり詳しくは知らないんですよ…とにかく共演した女優さんと…仲良くなる…事が、多いって事しか」
『俺が聞いたのは、仕事というか役柄にかこつけて口説くらしいって事かな。お互いの役柄について熱心に話し合いしたがって、その結果、そうなったみたいな』
「は……」
『だから仕事熱心な女優さんほど引っかかりやすいって話。……だからお前には言いたくなかったんだけど』
「わかりました……ありがとうございます……」
『おいおい、なんか不穏な雰囲気だな……なんかあった?』
「彼は……彼女と熱い演劇論を交わしたいそうですよ……」
『はぁ?なんだそりゃ』
「芝居について語りたいみたいだから、俺もどうかって彼女が」
『どう……かって?』
「携帯番号書いたカード貰って来ました…」
『…………』
「…………」
『えーっと……なんだ…あれだな……ほ、ほらやっぱりキョーコちゃんは大丈夫だっていったろ?』
「確かに大丈夫なんですが……微妙に大丈夫じゃない気がするのは気のせいですか……」
『あー…うーん……そうだな……そうだ、男同士で演劇論語りたい、とか言ってそれ貰っちゃえよ』
「あぁ…それはいい理由になりそうですね…ありがとうございます……」
『役に立てたのなら…よかったよ…まぁ頑張れ…』
「はい……それじゃまた明日」
『あぁ……おやすみ……』

電話を切り、リビングに戻ってテーブルに置かれた白いカードを苦々しく見つめる。
手で走り書きされた携帯番号。
それはいいとして、このカードはなんだ。
名刺サイズのそのカードは裏も表も真っ白で、少しの歪みもない定型の白いカード。
その辺においてあるような紙じゃない。

(わざわざ……持ってるのか?こういう事のために)

カードの存在に少しイラついたが、これがなかったら普通に自分の目にはわからない形で携帯番号が交換されたかもしれない。
そう思うと、ありがたいのかもしれないが、そもそも……

「敦賀さん?」

バスルームから戻ってきた彼女がリビングのソファで一人腕組みをして考え込んでいる俺に声をかける。
俺は思い切り芝居がかった穏やかな笑顔で振り向くと、彼女を手招きした。
タオル片手に彼女はおずおずと俺の横に座った。

「これは……俺が貰っておくね」

忌々しい白いカードを手にしながら彼女にそう囁く。

「えっ…」
「彼とは……一度話してみたかったし。熱心な役者さんだからね」

褒めるのは腹立たしいが、実際、俳優としては実力はある。
だからこそ、今回彼女の出演したドラマの主演になったはずだ。

「でも、突然敦賀さんからお電話されたら驚かれるんじゃありませんか?」
「俺とキョーコは同じ事務所だし、仕事の話は普通にするよね?その延長で話が出たとしてもおかしくはないよ」
「はぁ……まぁそうですね」

いまいち納得がいっていない顔で彼女は視線を宙に漂わす。
我ながら強引な話の持っていき方だとはわかってる。
しかし、これは彼の口説き方だと言って、彼女の中にあの男について強い印象を残したくない。
変に意識してしまうと、返って向こうに行動させてしまうかもしれない。
偶然会っても普通にスルーするように。
寧ろ……避けるように。
もう少し煮詰めないといけないな。

「それとも…キョーコから彼に電話したかったりするんだ?」
「えっ」
「それは少し…気になるな……」
「えっ、いえっ、そんなことないですっ!私はただ同じ役者としてっ」

真面目な顔でじっと見つめると、彼女は少し焦ったようにオロオロとしてぶんぶん頭を振った。
俺の嫉妬深さを逆手に取ったずるいやり方だと思ったが、こう言えば彼女からどうこうはしないはずだと思った。
予想通りの彼女の反応を確認するかのように、じっと見つめ続けていると、そのうち彼女は少し頬を染めて困ったように眉を下げて俺を上目遣いで睨んだ。
その顔があまりに可愛かったので、俺はカードをその辺に放り投げて、そのまま寝室に彼女を連れ去った。



「で、演劇論とやらは語り合ったのか」
「誰が誰とですか」
「お前とあの人」
「……しませんよ」
「まぁ、そうだろうね」
「わかってるんなら聞かないで下さい」
「はは……じゃあ、カードは処分か」
「いえ、俺が持ってますけど」
「……持ってんの?なんで?」
「一応……チェックしておこうかと」
「……要注意人物リストでも作ってんのかよ」
「………」
「作ってるんだ」
「いや…そんな大げさなものじゃなく…」
「大げさにしちゃえば~?きっとこれから増えるよ」
「なっ」
「お前の方はある程度完成されてるけど……キョーコちゃんはこれからだもんな。いや、大変だね」
「社さん……」
「なんだよ」
「あまり俺で遊ばないで下さいよ……」
「いやいや、俺はね、お前とキョーコちゃんは絶対安定してると思ってるから。だからこそ、心置きなく遊べるんだ」
「は、はぁ…」
「だからお前も心置きなく……心配してなさい」
「…………」

寛大で敏腕なマネージャー様のお陰で、今日も俺の心配はつきない。




コメント

  1. | |

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

  2. Kanamomo | URL | EO0B5AXI

    こんにちは!

    無性にヘタ蓮が恋しくなりましたwいや大体ヘタってるんですけどね。
    デス・ノート怖いですね(笑)男性芸能人が死滅しそうです。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)