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すれ違いと巡り会い─後編

2010年04月15日 00:57

すれ違いと巡り会い─後編


「バッカじゃないの、お前。くだらない嫉妬であんな態度とって」

移動の車内で、既に後悔で一杯の蓮をいつになく厳しい態度で社が糾弾していた。

「いい年して子供かよ。なんのために時間ギリギリまであそこにいたんだよ」
「……」
「目が合ったのに無視したな?今までそんな事したことあったか?」
「………」
「あーぁ、キョーコちゃんきっとショック受けてるよ。お前見つけてすごい嬉しそうな顔してたのに」
「…………」
「後でちゃ~んと謝っておけよ?変にこじらせない内に」
「……………」
「ただでさえ、お前達会える機会少ないのにさ……こんな事で別れの危機とか迎えたくないだろ?」
「や…しろ…さん……」
「なんだ」

後続の車を気にしながら、蓮は道の途中で車を路肩に横付けで停めた。
そして無言のまま、ハザードを点け、ハンドルの覆いかぶさるようにして顔を伏せてしまった。

「こんな場所に車停めるな。危ないだろ」
「…………」

容赦ない社の言葉に、返す言葉も無く、しばらくそのままでいた蓮はやがて、ゆっくりと少しだけ顔を上げて助手席の社を見る。
そんな蓮に視線を向けず、憮然とした表情でまっすぐ前を向いたままの社は蓮の視線を感じながらも少しの間黙っていたが、変わらない蓮の様子にようやく口を開いた。

「なんだ。俺はフォローしないよ?お前がやれ」
「それは……わかってますよ……」
「…………」

滅多に見せない憔悴した顔で、社から視線をはずし、まだ動けない蓮に、やがて社は少しだけ硬い表情を崩した。

「まぁ…あの怖いお姉さん達の相手でお前が少しいらついてたのはわかったよ。でもそれをあんな形でキョーコちゃんに向けるのは間違い」
「は…い…」
「キョーコちゃんだってお前と同じような事をしてただけだろ。それともなんだ、自分以外の男にはずっとつんけんしてろって?」
「そ、そこまでは言いませんよ……」
「それがわかってるなら、いいよ。これからもこんな事いくらでもあるだろう?その度にお前がそれじゃ、本当にうまくいかなくなるぞ」
「…………」

項垂れたままの蓮に、社は少しだけいつもの遊びモードをわざと滲ませてみせる。

「まったく……本当にキョーコちゃんの事になると人が変わるな。"敦賀蓮"はどこいっちゃうんだろうね?」

少しにやつきながらそう言う社に蓮は力なく笑ってみせ、再びハンドルを握る。

「まぁ仕事終わったらとりあえず電話するんだな……電話、出てくれるといいけどな?」

なんとか気を取り直して車を動かそうとした蓮はその社の言葉に再び動揺して、なかなか車を車線に戻せなかった。


仕事を終え、自宅のマンションの駐車場に車を停めた蓮は、エントランスに向かう前にその場でキョーコに電話をかけて見る。
既に三回目。
一度目も二度目もキョーコが電話に出る事は無く、三度目は電源が入っていなかった。
電話をかけても問題のなさそうなタイムリミットもとうに過ぎ、諦めて携帯を切ると、蓮は長い溜息をつき、重い足取りで自分の部屋へと向かった。
時間が遅く、だるまやに押しかけるわけにもいかなかった。
ゆっくりと動くエレベーターの中で壁にもたれながら、自分の明日のスケジュールに頭を巡らせる。
簡単に予定を変更できる仕事など無かった。
例え変更ができ、時間が作れたとしてもキョーコに避けられてしまえば意味は無い。
自嘲気味に笑いながら、頼みの綱の携帯電話を握り締め、蓮は明日を待つ憂鬱な長い夜を過ごす覚悟を決める。

玄関へと向かう自分の足音が、いつもと同じなのに妙に響いて聞こえる。
気だるい動作で扉を開けた蓮の目に飛び込んできたキョーコの靴。
思わず息を飲み、その存在を確認するかのように長い時間凝視する。
しばらく扉を閉める事さえ忘れ、蓮はそのままの状態で固まってそれを眺めていたが、やがて、わざと大きく音を立てて扉を閉め、鍵をかけた。
居る時ならば出迎えてくれるキョーコの姿は無かった。
少しの間、蓮は玄関口で立ち尽くしていたが、ゆっくりと部屋に上がると静まり返った廊下を歩き、リビングに向かう。
灯りの漏れるその入り口に着くと、部屋の中には床に正座し、黙ってテーブルを見つめているキョーコの姿があった。
自分の方を振り向きもしないキョーコの様子に、わずかに揺らぎながらも、蓮は持っていた自分の手荷物をその場に全て放り出してしまった。
その音に、少し驚いたキョーコがピクリと肩を上げ、ちらっと振り向いた時には既に蓮はキョーコを強く抱きしめていた。

「つ、敦賀さん!いきなりなんですっ!」
「…………」
「……何か言う事は無いんですか?」
「ただいま……」
「お、おかえりなさ……ってそうではなくてですね!」
「ん……たくさんあるけどね?……何から聞く…?」
「何からって……!もう、とりあえず離してくださいっ!」
「やだ」
「やだじゃないですっ!もー私は怒ってるんですからね!」
「思う存分怒っていいから…」
「また、そんな風に!真面目に聞いてください!」
「真面目に聞いてる。なんでも聞くよ?」
「もうっそういう態度がですね!不愉快ですっ!」
「ごめん」
「そ……それにですねっ!なんで今日は」
「ごめん」
「まだ言ってないですっ!」
「ごめん」
「ご、ご、ごめんごめんってもう同じ事ばかり」
「ありがとう……」
「なっ……なんで急にありがとうなんですか……」
「だってここに来てくれたって事は俺の言い訳を聞いてあげようと思ったんだろう?」
「………っ」
「来てくれるとは思っていなかった……本当にありがとう……」

そう言って蓮は再びキョーコを強く抱きしめる。
腕の中でジタバタと暴れていたキョーコは、蓮のその言葉で少し頬を赤らめ抵抗を止めた。
しかし、すぐにそっぽを向いて再び声を荒げる。

「そ、そんな事いっても私はまだ怒ってるんですからね!」
「うん、どんどん怒っていいから」
「だ、大体ですね!今日だってあそこで大勢の女性に囲まれて楽しそうにですね」
「え、あれ見てたの」
「嫌でも目に入ります!皆見てましたよ!」
「そうか……ごめんね?」
「あ…いえ、あれはいいとしてですね、その後の」
「いいの?」
「…………」
「俺は嫌だったけど」
「わ、私だって嫌です!」
「そう、嬉しいな…」
「なっ、なんでそうなるんですか!」
「なんでだろうね」
「またっ!そうやっていつも」
「うん、ごめんね」
「あ、謝らないで下さい!」
「いや、怒りに来たんだろう?」
「そうなんですけどっ!もう、なにがなんだかわからなくなってきました!敦賀さんのせいです!」
「わかった、ごめんね?」
「んもぅーー!」
「ほらほら、落ち着いて怒っていいから」
「なんですか、それ!またそうやって」
「あーごめんごめん。なんでもするから」

蓮はそう言うと、急に立ち上がり、手を取ってキョーコも立たせた。
そしてそのままキョーコの手を握って少し強引に引っ張りながらスタスタとバスルームに向かう。

「どこいくんですかっ」
「シャワー浴びようと思って…キョーコは?」
「わ、私もまだですけどっ!どうぞお先に!」
「ん…もう怒ってないの?」
「まだ怒ってますっ」
「じゃ一緒に行こう。中途半端は良くない」
「なっ、なんで一緒に」
「途中で途切れると言いたい事忘れちゃうかもしれないよ?全部言ってもらわないと俺も気になるし」
「いえ、あの、ですね……きゃっ!」
「全部俺がやるから……なんでもするって言っただろう?」
「なっ、なんだかドサクサで敦賀さんの良い様にされてる気がします!」
「うんうん、そういう事も言っていい…ハイ、こっちも」
「脱ぐのは自分でやります!」
「いいからいいから」

そんなやり取りがバスルームに反響し、延々と続く。
普段なら恥ずかしがっておどおどするキョーコも今日は怒っているせいか、そんな素振りも見せず、されるがまま、自分の髪や身体を洗う蓮にずっと文句を言い続けていた。
そして、何を言われてもにこにこと笑顔で自分の世話を焼く蓮を、キョーコも怒りながら、いつの間にか妙にテキパキとお返しで洗っていた。

そんな雰囲気はそのまま寝室へと続き、やがてキョーコは怒りながら喋るのに疲れたのか、ベッドに横たわる蓮の腕の中でで少しうとうととし出す。
既に、その口から吐き出される言葉は、蓮が格好いいだの、背が高いだの、演技力がどうだの、違う方向へと向かっていた。

「キョーコ…それもう怒ってる言葉じゃないから……」
「知りません、もう……なんでもいいんです」
「いや、俺もなんでもいいんだけどね……もう怒らなくていいの……?」
「まだ怒ってます……でももういいです……」
「どっち…?」
「知りません……」

そう言ってキョーコは蓮の胸に顔を寄せて、瞼を閉じる。

「もう……コーンの馬鹿…」

最後にそう小さく呟くと、キョーコは静かに寝息を立てて、眠りについた。

寝室の灯りをベッドサイドのルームランプだけにすると、蓮はキョーコを起こさないようにそっとベッドを脱け出した。
キッチンへ向かい、ミネラルウォーターを取り出そうと冷蔵庫を開けると、中に食材が少し増えている事に気づく。
いつもと少し違い、乱雑に置かれた野菜と斜めに押し込まれた卵のパックを見て、これを買い込んで持ってきたキョーコの姿を少し想像する。
プリプリと怒りながらも買い物をして来るその姿を思い、その手が触れた冷蔵庫まで愛おしくなる。

冷えた水を口にした後、静かに冷蔵庫の扉を閉め、部屋の灯りを全て落とし、寝室へと戻る。
ベッドで穏やかに眠るキョーコの姿を見てから、そっと隣に横になったが、眠るのが惜しくてなかなか寝付けない。
キョーコの方から今日ここに来てくれなければ、今夜自分はどんな夜を過ごしていただろう。
おそらく同じようになかなか眠れなかったのだろうと思うが、気持ちは今とはまったくの逆だったはず。
それを考えると、目の前の現実にどうしても顔が緩み、幸せな気持ちで心が満たされる。

いつもうまく動けない自分に、真っ直ぐに体当たりで飛び込んでくる彼女。

そんな存在に再び巡り会えた過去と現在の自分の幸運に感謝し、未来へと続く事を願うと蓮もようやく眠りについた。




コメント

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  2. Kanamomo | URL | EO0B5AXI

    はじめまして!

    こんにちは!
    はじめまして、ようこそです!
    読破ありがとうございます!読んでいただけるのは本当に嬉しいです。

    こういった文章を書くのは初めてなので、いつも試行錯誤しておりますが、そう言っていただけるとほっとしますし、とても光栄です。
    本当に?本当に?とつい何度も聞いてしまいそうです(^^;
    不安にかられつつも、なかなかくっつかない二人に業を煮やして書き出した次第です。

    ならべく原作イメージ通りに、と思いつつかなり爆走しておりますので大丈夫かなと思うことがありますが、大きく壊れてないと言って頂けると安心します!
    ありがとうございます。

    自分が打たれ弱い人間なので、ハッピーエンドを常に目指しております(笑)

    素敵と言われると本当にとても嬉しいです。
    コメントありがとうございました。
    これからもまたよろしくお願いいたします!

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